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2008.08.04

KIP080804「源氏物語に見る 王朝貴族の失敗学27」


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 2008年08月04日(月)   第2597号
 日刊! 関西インターネットプレス
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  【KIP2008年の夏休み】8月11日(月)〜8月22日(金)
    ちょっと長めですが、どうぞご了承願います。
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■本日のコラム「源氏物語に見る 王朝貴族の失敗学27」
        親の考えに振り回される子どもたち
 月曜日月イチ担当:フリーライター 鳴川 和代

暑中お見舞い申し上げます。夏真っ盛り、外に出るのも恐怖なきょうこの
ごろですが、みなさまいかがお過ごしでしょうか?今回は光源氏の子ども
世代のお話です。少し長くなりましたが、最後までおつきあいください。

■意外に教育パパな光源氏

さて、葵の上が出産した光源氏の息子を覚えておいででしょうか。あれか
ら、秘密の息子の冷泉帝はしばしば登場しましたが、こちらはちょっと影
うすめ。前の左大臣邸で大切に育てられてはいるようですが、あまり話題
になることもありませんでした。

その息子が、ここへ来てようやくデビューです。彼の名前を「夕霧」と呼
びます。ことし12歳。元服をして大人の仲間入りをする年ごろです。で、
光源氏は恋多き男から、いきなり教育パパへと変身を遂げます。意外な一
面に、読者もビックリ。

元服をしたら位をもらいます。光源氏ほどの位の人の息子なら、普通は四
位に叙せられます。でも、光源氏は「まだ若い子に、思い通りになるか
らってそんな高い位に付けちゃうのはありきたりだよなぁ」と考えて、六
位に付けてしまいました。

六位というのは四位とはまったく違う身分です。当時、昇殿を許されるの
は五位以上の貴族と呼ばれる人たちだけ。六位以下は「地下(ぢげ)」と
呼び、昇殿も許されませんでした。つまり、光源氏は自分の息子の社会人
生活をことさらに低い身分からスタートさせたのです。当時は位階によっ
て着られる装束の色も決まっていました。つまり、色を見れば一目でその
人の位がわかるのです。六位は浅葱。夕霧は元服を終えて、浅葱色の装束
でしょんぼりしています。もしかしたら、お友だちは五位や四位かもしれ
ないのに、自分一人だけが浅葱色です。祖母の大宮もこれには不憫でたま
りません。この件で光源氏と話をします。

光源氏はどうやら息子を大学に行かせるつもりのようです。当時の大学と
いうのは官吏を養成するところです。でも、どちらかというと中流以下の
家の子弟が行くところと考えられていました。で、光源氏の長男が大学に
行くなんて、異例中の異例です。

光源氏は「私は宮中で育って世間知らずでした。学問は帝から直接教えて
いただきましたが、およばないところだらけです。こんなつまらない親に
子が勝るというのは難しいと思い、この話を決めました。それに、身分が
高いからなんでも思いのままになると思っていたら、権勢が衰えたときに
人から軽蔑されるかもしれません。やっぱり基礎は学問が必要ですよ」な
どと訳を話します。

光源氏がここまで考えたのは、やはり須磨の経験が身にしみているのかも
しれません。世の趨勢は右大臣一派に移り、自分は須磨へ退いた日々。多
くの人が背き、それまでおもねっていた人たちでさえ、手のひらを返した
ように冷たくなった経験が光源氏の心にしみているのでしょう。

■少年と少女の恋に「待った!」

で、この息子さん、夕霧君はおばあちゃんの大宮のもとで育ちましたが、
一緒に育った従姉妹で内大臣(もと頭中将)の娘の雲居雁(くもいのかり)
というお嬢さんといつの間にか恋人同士になっていました。幼さの残る年
ごろですが、おませだったのでしょうか。父の内大臣はまだそれを知りま
せん。

内大臣には冷泉帝に入内させた弘徽殿女御という娘がいました(あの弘徽
殿大后とは別人です)。なんとか中宮にと考えていたのですが、結局光源
氏が入内させた六条御息所の娘が中宮になり、内大臣はがっかりです。そ
こで次の手として、雲居雁を春宮に入内させようと考えつきました。

そこである日、内大臣は大宮の元を訪れました。雲居雁や大宮と楽器を演
奏し、甥の夕霧とも対面してさらに管弦の遊びに興じます。ただ、このと
きには雲居雁は別の部屋に帰されてしまいました。夕霧には琴の音さえ聞
かせないようにという配慮です。内大臣は雲居雁と夕霧の仲をまだ知らな
いので、恋人同士でもないのにそんなことをしてはいけないと二人を引き
離したのでした。

さて、管弦のひとときも終わり、内大臣は帰る「ふり」をしました。実は
こっそりこの邸の女房とねんごろになっていて、きょうはそこを訪れよう
という算段。首尾よく女房の部屋に行き、逢瀬を終えて出ていこうとしま
す。

ここの表現がおもしろいのですが「やをらかい細りて出でたまふ」すなわ
ち、こそっと身を細めて出ていく、というのです。内大臣のように身分の
高い人が、こそこそ身を潜めながら廊下を歩いていくようすが目に浮かん
で、ちょっと笑いたくなります。

ところが!どこかの部屋から「夕霧」とか「雲居雁のお嬢さん」とか話し
ている女房たちの声が聞こえてきます。内大臣も人の親ですから「なんの
話だ?」と聞き耳を立ててしまいます。日本の家屋は木と紙でできた家。
女房らの話は筒抜けです。どうやら春宮に入内させようと思っていた雲居
雁が光源氏の息子の夕霧と恋人同士になってしまった様子。「これでは入
内させられないじゃないかぁああ!」と内大臣の心の叫びが聞こえそうで
す。

さらに追い打ちをかけるように女房たちの声。「えらそうにしているけど、
やっぱり親って甘いわよね。知らない間にとんでもないことになってんだ
から」「親は子どものことを知ってるっていうけど、そんなのウソよねぇ」
などと、自分をバカにする声。内大臣はことの仔細を悟ってしまいました。
こんな時、普通の人なら怒りで膝も震えそうですが、音も立てずにそっと
出ていったのはさすがです。

そのあと、内大臣のお供の声が女房たちのところまで響いてきました。
「聞かれちゃったかも!」彼女らはたぶん真っ青になったでしょうね。い
までいえば、会社の給湯室かトイレで上司の悪口を言っていたら、上司が
それを聞いていた、みたいなシチュエーションでしょうか。

内大臣は考えた末、娘を自邸に引き取ることに決めました。これで夕霧と
雲居雁の仲は引き裂かれてしまいました。お互いに思い合う少年と少女の
胸は張り裂けそう。二人を不憫に思った夕霧の乳母がこっそり対面させま
すが、二人とも涙に暮れるばかりでした。

さらに夕霧の失意に追い打ちをかけたのが雲居雁の乳母のことば。「いく
らお生まれがよくても、最初の男性が六位風情ではねぇ」。意地悪なこと
ばですね。柔らかい少年の心にはぐさりと突き刺さります。そうこうして
いる間にも内大臣がやってきます。夕霧は後ろ髪を引かれながら、雲居雁
のもとから去らなければいけませんでした。

今回の主人公・夕霧君は、登場早々がっくりくることばかりです。社会人
生活のはじめが六位だったり、恋人と引き裂かれたり。親はよかれと思っ
ていることですが、本人はそのせいで泣いたりうちひしがれたり大変です。
ということで、きょうは「子どもって親の考えに振り回されるよね」とい
うお話。それから、うわさ話は相手に聞かれないようにしましょうね。


【プロフィール】
鳴川 和代/なるかわ かずよ
大阪在住のライター。フリーランス。
手がける分野は生活一般から情報通信、医療関係まで多彩ですが、
個人的にテーマにしているのは「個人情報保護」と「源氏物語」。
脈絡なく並んでいますが、いずれもライフワークと考えとります。
さて、先日「若葉マークの源氏物語ブログ」に別館を開設しまし
た。題して「千年前から恋してる!」登場人物の悩み相談で読み
解く源氏物語。人間って、千年前もいまも変わらないことで悩ん
でいたんだな、と思っていただければ幸いです。

若葉マークの源氏物語ブログ別館「千年前から恋してる!」
http://wakabagenji.cocolog-nifty.com/sennenlove/

こちらもよろしく!
若葉マークの源氏物語ブログ
http://wakabagenji.cocolog-nifty.com/blog/
鳴川和代のサイト
http://web.mac.com/narukawa.kazuyo/
ご感想などはprimavera@digipre.comへ。


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 発行人  野々下裕子 kip@digipre.com

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