2008.08.06
言葉の森新聞 2008年8月3週号 通算第1043号
言葉の森新聞 2008年8月3週号 通算第1043号
文責 中根克明(森川林)
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■■自然の英知(その2)
世の中は、今、人工から自然へ大きく流れを変えようとしています。
戦争を防ぐために軍備を増強するのは不自然な社会です。将来の社会は、戦争や軍
隊のない本来の自然な社会になるでしょう。将来がいつごろになるかが問題ですが。
犯罪を防ぐために警察力を強化するのも、不自然な社会です。将来は、犯罪そのも
のがない本来の自然な社会になるでしょう。
病気を治療するための医療費が年々増加するのも、不自然な社会です。将来は、ほ
とんどの人が健康で、病気というものが稀な本来の自然な社会になるでしょう。
教育はどうなるのかというと、無理な勉強をする必要がなくなるというのが、本来
の自然な社会の姿です。
現在の社会で、勉強が苦痛に思われているのは、勉強に無理があるからです。その
無理はどこから来ているかというと、試験があるところから来ています。
試験の本来の目的は、試験による評価をもとに次の指導を考えるという点にあるは
ずですが、今行われている試験のほとんどは、単に評価で優劣をつけるためだけに行
われています。その最終ゴールは受験という試験です。受験的な試験は、評価そのも
のを目的にしているという性格上、いかに点数の差をつけるかということを中心にな
ります。
すると、受験的な試験に合わせた勉強は、いかに点数の差がつく分野を勉強するか
という点が中心になります。人間や社会にとって役に立つことを学ぶのではなく、点
数の差がつくことを学ぶというのが今の勉強になっています。これは、勉強ではなく
単なるクイズです。クイズとして割り切ってゲームに参加する子供にとっては、それ
なりに面白い競争ですが、そうでない子供にとては、意味のわからない我慢比べと映
っても仕方ないと思います。
こういう勉強になりやすい教科の一つは数学です。中学、高校と学年が上がるにつ
れて数学嫌いな子が増えるのは、教える先生が、勉強ではなくクイズを教えているの
にその自覚がないためです。
では、無理のない自然な勉強とは、どういうものでしょうか。それは、人生や社会
にとって必要なことを、それぞれの学年でだれもが百パーセント学ぶことができるよ
うな勉強です。人間には、本来知的な好奇心があります。その知的好奇心を開花させ
ることが教育の目標です。
そのために必要なことは、小中高の教育期間に、だれもがすべての教科を百パーセ
ント習得できるような方法を作ることです。
■■絵本の世界(よう/まえ先生)
みなさんの本棚にはまだ絵本はありますか?
もしあるとしたら、「ねずみくん」シリーズはあるでしょうか? とても有名な絵
本なので、知っている人も多いかもしれません。私は、この「ねずみくん」シリーズ
が大好きなのです。主人公のねずみくんは、小さいけれどとてもやさしくすてきな男
の子です。一番有名なのは「ねずみくんのチョッキ」。ねずみくんのお母さんが編ん
でくれた、すてきな赤いチョッキを、「いいチョッキだね。ちょっと貸してよ」とあ
ひるくんに頼まれたねずみくんは、快く貸してあげます。ところが、あひるくんはさ
るくんに、さるくんはあしかくんに、チョッキをどんどんまた貸ししてしまって……
。とうとう最後にはゾウくんにまで着られてしまい……、もうわかりますよね(笑)
。ねずみくんのもとに、その赤いチョッキが返って来た時には、ゾウくんサイズにの
びてしまっていたのです(笑)。あーあ。チョッキが着られなくなってしまって、と
てもかわいそうなのですが、出てくる登場人物ならぬ登場動物たちがとてもかわいら
しくて、ついついニコニコしてしまう……、私のお気に入りの絵本です。
この「ねずみくん」シリーズは、シリーズ第1作が1974年に出版され、最新シ
リーズの「ねずみくんおおきくなったらなにになる?」で24作目。とても息の長い
、人気のある絵本なのです。24作すべてが揃っている本屋さんは今まで見たことが
ありません。行く先々の本屋さんで、持っていない「ねずみくん」の絵本に出会うの
もまた楽しみの一つです。先日、実家に帰った時にも、たまたま「ねずみくんのきも
ち」という、まだ蔵書(笑)にないシリーズを発見し、早速買って帰りました。その
本の見返しに、作者のなかえよしをさんが書いていらっしゃった言葉がとても素敵だ
ったのでここで御紹介させて頂きます。
「絵本のきもち」
絵本のなかの動物たちとおつきあいしながら絵本の世界から人間の世界を見上げて
いますと現実の人間は、「人間らしく、人間として正しく」生きていないのではない
かと思えてしまいます。大切なことは何なのかを見失っているとしか思えません。大
切なことはファッションで着飾ることでもなく、おいしいものを食べ歩くなどという
物質的なことではなく、やはり人間がもともと持っている想像力ということではない
でしょうか? ただ自分の心で想像するだけでなく、想像力とは自分の心の中から飛
びだして他の人の心になり、動物や植物の心となり、自然の心となり、未来の心とな
り、宇宙の心となることではないでしょうか? 自分以外のことを想像することが自
分じしんのを考え知ることだとも思います。それなのに大人たちは知識をふりかざし
、あたかも知識が大切であるかのようにふるまい、こどもたちに知識という情報をつ
めこんでしまいます。その分こどもたちの心から想像力が失われているのではないで
しょうか? この温かさを見つけるのが難しい現実の世界で大切なことはやはり想像
力だと思いますし、一番大切なことは何かとなりますと、それは「思いやり」だと思
います。「思いやり」は感謝、謙虚、愛情、慈悲、羞恥、そして誇りのことだと思い
ます。なぜなら、これらは想像力を必要とするからです。いま、わたしたち人間に一
番欠けていることではと絵本の世界で思ったのでした。
「思いやり」。常日頃から、私も思いやりのある人間になりたいと思っていました
し、娘にも思いやりのある人間になってほしいと願っていましたが、「思いやりを持
つことの基本が想像力にある」ということは、当たり前のように思えて、実はなかな
か思い当たらないことだなあと思いました。「思いやり」とはただ優しくすればいい
というわけではありません。相手の気持ちや立場を想像して、本当にその人のことを
考えること……、難しいけれど、なかえよしをさんの言葉を再度お借りして言うなら
ば、「人間らしく、人間として正しく」生きるために、頑張りたいと思います。なん
だか背筋がピンと伸びたような気がしました。
■■こんなにも長い話(はち/たけこ先生)
いよいよ夏休みともなると、読書のチャンスでもありますね。
私は先日、前からすすめられていた『お話を運んだ馬』(I.B.シンガー、岩波少年
文庫)という短編集をやっと図書館で借りて読みました。作者は、1978年ノーベル文
学賞を受賞したそうです。そしてこの本は、子ども時代の自分のことや、お話好きだ
った自分が大人たちから聞いた話をもとに書いたものです。
その中の、『お話の名手ナフタリと愛馬スウスの物語』に、味わい深いことばがあ
りました。それは、本をたくさんつめた重い袋を肩に背負って、村から村へ旅をして
いるおじいさんのことばです。「いちにちが終わると、もう、それはそこにない。い
ったい、なにが残る。話のほかには残らんのだ。もしも話が語られたり、本が書かれ
たりしなければ、人間は動物のように生きることになる、その日その日のためだけに
な」(p.21)そして、そのおじいさんのように本を売り歩く人になったナフタリに、
別の金持ちの老人が友人になってほしい、とまたこう言います。「生きるってことは
、結局のところ、なんだろうか。未来は、まだここにはない、そして、それが何をも
たらすか、見とおしは立たない。現在は、ほんの一瞬ずつだが、過去はひとつの長い
長い物語だ。物語を話すこともせず、聞くこともせぬ人たちは、その瞬間ずつしか生
きぬことになる、それではじゅうぶんとは言えない」(p.37)。
ああ、よかった! 私たちはこうして作文やら学級新聞やら書いていますものね。
引用が長くなってしまいましたが、私が書く楽しみを知ってほしい理由が、こんな
にわかりやすく書いてあるなんて、と感動してしまったのです。子ども向けの本とい
っても、いい本は、心で感じていてもどう言葉で伝えていいかわからないことをはっ
きりと書いてくれているのです。作家という人たちは、それがとても上手な人たちと
いうわけですが、私たちもその一歩をふみ出していることはまちがいありません。
この本の作者シンガーは、ユダヤ人としてポーランドで生まれました。そのあと、
二つの世界大戦があり、その間をポーランドのユダヤ人として生きることはどれほど
の苦難だったかは、みなさんも想像がつくでしょう。もしつかなければ・・・ぜひこ
の時代の本を読んでください。私もこの時代生きていたわけでなく、全て本を読むこ
とで、想像しているだけなんですが。いったいに、ヨーロッパの児童文学や若者のた
めの本は、がっちりとして深く苦難をえがいたものが日本より多く見られるような気
がします。
ことに、最近読んだ中ですごいと思ったのが、クラウス・コルドンというドイツの
作家が書いた『ベルリン1919』『ベルリン1933』『ベルリン1945』(酒
寄進一訳・理論社)という三部作です。図書館で一目でも見てください。その分厚さ
にまず圧倒されます。内容も、この時代に貧しいドイツの一家がどのように政治の嵐
にもまれ必死で生き、そして戦争にまきこまれていったかという、硬派でまじめなも
のです。でも、私はとてもおもしろく夢中で読みました。三作の主人公はみんなつな
がっているのですが、10代前半の少年や少女で、その心の動きがとてもみずみずしい
のです。また、長い話だけに、いろいろな仕掛けもあります。作者も、それを日本語
に翻訳した方もすごい力だと感じ入りました。それとともに、いったい何人の日本の
若者がこの本に手を出してくれるか・・・と心配にもなりました。あえて、遠いヨー
ロッパの暗い時代の一家のまじめな話に耳を傾けようとする人は・・・。それにして
も、どうしてそういう本があるのか。平和を訴える教訓のためではけして無いと思い
ます。人間は、たまには、まじめな物語にひきこまれることで、心と頭を別世界に飛
ばし、「総合化の主題」の課題ではないですが、「一番大事なことは・・・ではない
か」とつきつめる芯ができるのではないかと思うのです。・・・が、だれかもっと上
手に表現して書いてくれている本がないかしら(笑)。
■■環境問題と向き合って(たんたん/はらこ先生)
小学校高学年や中学生のみなさんは、「環境問題についての作文課題が多いなぁ」
と感じていると思います。「『人間は、もっと自然を大切にすべきだ』というまとめ
を先週も書いたから、もう書くネタがないよぉ」なんて心のさけびが聞こえてきそう
です。
ある中学生の生徒さんと電話で話しているとき、こんな考えを話してくれました。
「環境を守るといっても、車に乗らないわけにはいかないし、ゴミを出さないわけに
もいかない。だから私は『自然をこわさないようにしたい』なんてウソは書けないで
す」
たしかに、そうかもしれません。ごはんやおかしを食べればゴミも出るし、作文を
送るにも車は必要です。昔のように飛脚(ひきゃく)がエッサホイサと走って、手紙
をとどける時代にもどれというのは不可能です。私たちの便利な生活は、何らかの形
で自然をぎせいにしながら成り立っているのです。
しかし、そのきびしい現実に気づいたときこそ、自分の意見をさらに深めるチャン
スです。ニュースや本で知ったこと(データなど)に対する意見を書いてみてはどうで
しょうか。
例えば……。
・ハウス栽培でトマト1個をつくるのに、原油80ミリリットルが必要であることを
知った。トマトを食べているのか、原油を食べているのか分からない。季節をねじま
げて、冬に夏野菜を食べようとしなければ、余計な原油代もカットできそうだ。でも
、クリスマスケーキのイチゴだけは、ないと困るから作ってほしい(笑)。
・水の使用量は日本人が世界一多く、たった1日で1人280リットル(約おふろ2回
分)も消費すると、テレビで知った。きれいな水道水をトイレの水として利用するの
は、ぜいたくな気がしてきた。節水のために、トイレで毎回水を流さずに、2回に1
回流すようにしようかな(でも、ちょっとにおうかも)。などです。
さらに、もし自分が総理大臣になったらこうする!(こんなテレビ番組があります
が)と、マニフェストを発表してもいいですね。
・ゴミ減量のため、ファストフード店に行くときは、みんなマイカップとマイお皿を
持っていく。
・オゾン層をたっぷり積み込んだロケットを南極上空に発射して、オゾンホールをな
くす。
など、ざん新なアイデアをどんどん出して、自分にしか書けない「まとめの段落」に
仕上げてほしいです。
アルピニスト・野口健さんはあるインタビューでこう語っていました。
「ヒマラヤでは氷河のとけ方が早くなっている。でもヒマラヤの人たちは温暖化を
まねくような生活はしていない。日本人であるぼくらは、環境破壊の加害者なのだか
ら、ヒマラヤのために助けてあげるのではなく、責任をとるという気持ちが必要だ」
。
私たちは日本人の一人です。まさに、なだれのようにくずれていく地球環境をどう
やってくい止めるか。本やニュースをうまく活用し、みなさんのやわらかい頭と発想
力で、自分の意見を深めていってください。
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