2008.04.16
サキさんのチェンマイ日記
■517■ 4月16日
「豪華客船・スタテンダム」
長女が8ケ月間、仕事をしていた豪華客船が香港に着き、彼女が船を降りるので迎
えに香港に行ってきました。次女が台湾から合流して久しぶりに香港で家族4人が
揃った5日間を過ごしました。
長女はスパ・セラピストで、昨年の7月ロンドンで研修を受け、カナダのバンクー
バーから船に乗り込みました。オランダ船籍のアメリカ船「スタテンダム」5万5
千トンの外洋客船です。乗組員400名、乗客1300人の彼女にいわせれば小さなそ
れこそ「伊東に行くならハトヤ」というくらいの気軽な船だということで船内見
学に出かけた僕たちは、それほどたいしたことがない船と気軽に考えていました
が、どうして、どうして、それはまさに豪華客船そのものでした。
この船で彼女はアラスカ、カナダ、ロサンジェルス、ハワイ、太平洋の島々
(中には第2次世界大戦の後をたどるクルーズなどあって、硫黄島にも行った様
子)オーストラリア、ニュージーランド、沖縄、長崎、神戸、プサン、北京、
上海、と回って8ケ月ぶりに香港で下船したというわけです。
このルートはすべてを同じ乗客が回るのではなく、アラスカであればバンクー
バー〜アラスカ間を何回も行ったり来たりして毎回違う客を乗せるという案配で
す。中には高齢者ばかりが乗り込むルートがあり、彼らは念願の船旅という訳で
すが、何せお年寄りばかり、足腰の弱った人はスクーターや電動車いすなどを持
ち込んで、広い船の中をそれで移動しているという場面もあったとのことです。
ある時はアメリカの同性愛者の団体に貸し切られたことがあり、船尾にあの虹の
旗がはためいていたこともあったと、話を聞いていても興味津々のことばかりで
す。彼女の仕事はフェシャルやマニキュア、ボディーマッサージなどで、仕事部
屋を見せてもらいましたが、豪華客船だけあって贅を尽くした部屋の造りであり
、窓の外には大海原が見えて、結構な雰囲気です。もっとも彼女は仕事が忙しく
窓の外を見る暇などあまりなかたっといっていますが。
船内見学は滅多に見られない従業員乗船口から入りました。巨大な船腹を船首か
ら船尾まで直線通路が貫いており、その左右にいろいろな設備があります。乗客
の荷物を積み卸しする場所はごった返していましたが、まるでコンテナーヤード
のように電動フォークリフトが走り回っています。食料品の積み込み口では新鮮
野菜(レタスなど)や、清涼飲料水などが、想像を絶する量で運び込まれていま
す。船の下の部分で働いているのはフィリピン人とインドネシア人が主だという
ことです。つまり、アジア人が欧米系の富裕層の満足を支えているという構図で
す。このあたりは、今回船内見学をスタッフの家族だということで船の下の部分
を見学できたのは貴重な体験でした。
アッパーデッキへはエレベーターで上がります。カーペットには曜日が刺繍して
あり、海の上では日にちを忘れてしまうことがあるのでそれを防止する工夫がさ
れています。船にかけられた時計も2個一組で「SHIP」と「GMT」表示されてい
ます。飛行機の長旅は時差ぼけなどを起こすことがありますが、のんびりとした
船旅ではその心配がないと思っていたら、曜日と時間の感覚がいささかおかしく
なることがあるようです。長女の説明では、時差ぎりぎりの地区を行ったり来た
りするセクター、ニュージーランド、オーストラリア間のクルーズはそれにあた
り、時差ぼけのような感覚になったという話です。一年の3分の2を海の上で過ご
していると、全くの世間知らずになってしまい、途中のオークランドからの電話
で、日本の総理大臣は今誰ですか?などと質問され、家人はとまどっていました。
それだけ浮世離れをした世界であるのかもしれません。
乗客はその都度変わるが、スタッフは同じということだと理解をしていると、ス
タッフも港、港で頻繁に変わり8ケ月がマキシマムの契約で乗り組んだのは彼女
などそれほど多くはないという話です。もっとも下でこの豪華客船を支えている
アジア人の乗組員は例外のようですが。船長など制服に金線の入ったエリートは、
2ケ月くらいの単位で交代するとのことです。多分、飛行機のパイロットなど同
じように、決まったルートを乗り組んでいるのだと思われます。
長女が観測した結果、船の金線はかなりのエリートのようで、それだけプライド
が高いようです。僕の知り合いに旅客機のパイロットがいますが、彼などはエリ
ートというよりは、親しい友人という気さくな男ですが、船の船長などに比べて
飛行機は未だ歴史が浅いので、そのあたりの気風が違っているのかも知れません。
彼はゴルフのドライバーをスライスで打つので、操縦桿もスライスするのではと
冗談をいうと、パイロットのも操縦の癖があり、彼は右旋回が左より好きだとい
っていました。
聞くところによれば船にもランクがあり、引退したクイーンエリザベスなどの金
線は鼻もちならないほどのプライドがあったようです。クイーンエリザベスとい
えば、僕が香港に住んでいた1997年、香港が中国に返還される直前は、オーシャ
ンターミナルに再三姿を見せました。そのときの記憶では、オーシャンターミナ
ルの埠頭の長さより船が長く、船尾がはみ出していたことを思い出します。そば
に寄ってみるとそれは巨大なビルディングのようでした。今回長女が乗った船
「スタテンダム」はそれよりかなり小さめの船でしたが、それでも内部はスクー
ターで移動しなければならない程の巨大さでした。
プールは2カ所、船の中央と、船尾にありました。浮き世の憂さを忘れて老後の
一時を天国への土産話作りのように乗船した老人たちは、天気のよい日にはこの
プールサイドで日がな一日巨大な肥満体を横たえていることだろうと想像すると、
長女は「そう、みなトドの昼寝みたい」と想像に違わない回答です。豪華ダイニ
ングや、コーヒーショップ、スポーツジム、劇場など、ここには映画などで見る
すべての設備が揃っています。劇場では毎夜、夜長を退屈させないような催しが
上演されているとのことです。
見学の最後はこの劇場でした。昼3時過ぎだというのに沢山の乗客がカップルで
いすに座っています。不思議に思い長女に質問。
「この人たちは何を待っているのですか」
「香港で下船する順番を待っているのです。前泊地上海が大気汚染と霧のため視
界不良で、出航が遅れに遅れた結果、香港上陸のイミグレーションが大混雑、そ
のためにかなりの時間待たされている」とのことです。
船の下船はかなり大変で、その点では飛行機の方が何倍もスムーズだといいます。
考えてみれば千人近い乗客が一度に降りれば混雑するので、小さなグループに分
けて下船手続きをしているようです。
混雑の中、我々も船を降りることにしました。船の上部や、甲板から長女に別れ
の挨拶をする大声が聞こえます。8ケ月の間船をともにしたもの同士に通ずる僕
には経験のない心のつながりだと思います。
長い船腹沿いに船尾の方に行くと乗客の荷物が集められています。膨大な量のト
ランクはそれぞれグループごとに並べられ、タッグがつけられていますが、それ
でも自分の荷物を見つけ出すのが一苦労です。荷物を受け取ると、すぐそばまで
タクシーが来ています。こんな便利なアクセスがあるのは、香港はその昔から船
旅が盛んで、豪華客船が出入りしていて、その設備が完備しているとのことで、
これもその昔、七つ海を支配したグレートブリテンの遺産だと感心します。長女
の話では、小さな港は貨物船の埠頭のようなところに停泊したり、ハワイ諸島な
どは沖合に停泊、そこからライフボート(救命ボート)で上陸するなど、不便き
わまりない港も多いとのことです。効率の上からいえば飛行機が現代の主流で、
しかし、時間とお金に余裕のある人の旅は船に極まれるようです。
どちらかというと短気だった彼女はすっかり性格が変わり「忍耐、平常心、無関
心」が船上での生活の知恵だと悟って船を降りてきました。次回はヨーロッパ、
その次は南米を回ってみると遠大な計画を語ってくれました。すっかり頼もしく
なった長女です、人生の転機が訪れているのかもしれません。
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