2008.06.03
【YAMAsan no Live_bibouroku/Exp:Report@Arc】vol.1917
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【YAMAsan no Live_bibouroku/Exp:Report@Arc】vol.1917
配信/6月3日
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ヤマさんの映画日誌 from 高知
『ノーカントリー』(No Country For Old Men)
監督 ジョエル&イーサン・コーエン
なかなかスリリングで、見せる力に富んでおり、流石はコーエン作品だ。1958年から22年
旅してきたコインの裏表で生死を決める殺し屋の物語なら、1980年の話ということになるけ
れど、実話物でも時代懐古にも見えない作品が、なぜ今1980年の殺し屋を描くのだろうかと
思ってたら、ベトナム帰還兵の話をしたかったのだと納得した。
麻薬取引に絡む大金をたまたま見つけて掠め取って追われることになったルウェリン・モ
ス(ジョシュ・ブローリン)は'66年'68年と二度も出征した猛者で滅法タフな男なのだが、そ
の彼をも上回るタフさを発揮していたのが殺し屋アントン・シガー(ハビエル・バルデム)だ
った。彼が何者なのかは一切謎だったが、シガーと同じ雇い主からの差し金でシガーを追っ
ていた殺し屋カーソン・ウェルズ(ウディ・ハレルソン)もモスと同じくベトナム帰還兵との
設定だったから、否応なく、その二人を上回るシガーもまたベトナム帰還兵なんだろうと思
わずにいられない。思えば、モスもシガーも同じように、手傷を負ったとき、行き縋りの若
者から着ているシャツを買い取っていた。おそらく三人ともベトナム帰りの後の十余年を、
社会とうまく馴染み成功する人生としては歩めずに過ごしてきた男ということなのだろう。
それどころか居場所のなさが生きにくさを与えてきたような影をそれぞれが負っていたよう
な気がする。さすれば、原題にある“Old Men”というのは、おそらく彼ら三人のごとく、
かつては国に必要とされながら打ち捨てられ過去の者とされているベトナム帰還兵たちのこ
とを指しているのだろう。近頃、イラク戦争がらみで、戦場帰りものが作られる傾向をアメ
リカ映画に感じているけれど、この映画も同じ潮流のなかにある、少しコーエン風にひねっ
た作品だという気がする。
それにしても、シガーの存在感は強烈で、ちょうど“走らないランボー”のようだった。
無口で、手傷を負うと自分で治療をしてじっと体力の回復を待つところなど、まさしくラン
ボーそのままだった。自分の立てたルールにのみ、実に忠実でストイックな印象を与えると
ころもランボー風味だ。そういう意味では、モスも相当にシガーと拮抗してはいたのだけれ
ど、彼にシガーに劣る甘さがあるとすれば、やはり妻帯し、アウトローにまでは堕していな
い境遇が、瀕死の男から水を求められながらも放置して大金だけを奪ったことに気の咎める
人間性を残していたことにあるのだろう。
少々気になっているのは、損得勘定など些かの行動選択基準にもなり得ず、自分の立てた
ルールにのみ忠実なシガーなれば、コイントスの後、モスの妻に迫った賭の結果がどうなり、
彼女の生死がどっちに転んだのだろうということだ。男である雑貨屋のオヤジは結局、答え
たけれども、モスの妻は答えたのか答えなかったのか。相手が答えなければ、シガーのルー
ルでどうなるかは、映画の序盤での雑貨屋のオヤジのエピソードでも示されてはいない。怯
えであれ、意志であれ、彼女が断固として答えなかったら、深々と椅子に腰を下ろしたまま、
相手が答えるまで威圧するのがシガーのルールでありプライドのような気がしてならない。
だが、それでも彼女が答えず即ち賭に負けはせずに、あるいはコインの裏表を当てて賭に勝
ったのに、彼女を殺したとすれば、シガーはルールを破ったことになる。もしまた、彼女が
賭に勝ったことで命を奪わなかったとしたら、その点ではルールに則ったにしろ、足のつく
可能性のある目撃者は必ず始末してきたルールを破ってしまうことになる。殺しても殺さな
くても、シガーが自分の立てたルールを破ったことになるのであれば、何も彼女の答えや生
死を画面に映し出すまでもなく、彼がモスの妻にコインの裏表を当てさせる場面だけで充分
というわけだ。そう考えると、もしかするとシガーの見舞われた不慮の激突事故というのは、
彼が初めてルールを破ってしまったことを暗示していたのかもしれないという思いが湧いた
りした。コーエン作品なれば、きっと作り手側からの答えというものを何らかの形でロジカ
ルに仕込んであるように思うからだ。
しかし、ここでハタと困ったのは、彼女がコインの裏表を答えたうえで外れて賭に敗れて
しまった場合には、シガーは彼の立てたルールを破らずに済むという可能性が残っているこ
とに気づいたからだ。そうなると、もう他に僕には思い当たるところが見つからない。ちょ
っと残念だ。そういうことからすると、作り手の仕込みではなく、受け手としての僕の趣味
ということになるのかもしれないが、僕は“モスもシガーも女で計算違い”という話にして
いる気がした。だから、シガーの交通事故をそのように受け止めたりするのだろう。
'08. 5.27. TOHOシネマズ1
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