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出たっきり邦人【欧州編】


2008.05.20

【出たっきり邦人 欧州編】755 アイスランド


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              ◇◆乙編◇◆
             
             〓アイスランド発〓

             アイスランドの空の下

第7回「下手な散歩は命取り」

段々日照時間も延び、今は夜遅くまで明るくなってきたアイスランドです。
長い冬を過ごした後は、明るい季節がうれしいですね。でも … アイスラン
ド気温に慣れた身には、16度程度が適温で20度を過ぎると暑すぎて溶け
そうになっちゃいます。日本は今頃もっと暑いのでしょうね。

さて、たくさんの自然に囲まれたアイスランド。ええ、人が少ないとも言い
ますが、夏に冬に景色がきれいです。なので、ついつい散歩してみたくなる
んです。散歩しながら景色を堪能できるのも、この国の魅力です。町中の散
歩は良いんじゃないでしょうか。安全ですもん。

でも、ちょっと外れた場所では注意しましょう。特に山の散歩は、ね。標高
500mくらいの山でも十分注意が必要です。崖の上でも手すりはないし、
登山道もないし、上から落石降ってくるし。これが海とセットになったら最
悪です。実は、味わってしまいました・・・無知による自然の恐怖を。


まだアイスランド北西部の漁村Bolungarvikに住んでいた頃のこと。当時は、
まだ普通に元気だったので、休日に同居人と2人で散歩に出ることにしまし
た。(位置関係はこちらのリンク先にある図をご覧下さいね。 
http://www.coldnature.is/data/wf/wf.html )

その頃住んでいたのはフィヨルド地帯だったので、海に面した自分の村から、
内陸に進んでいくと反対側の海に出ることができます。目的地は図で言うと、
中心上部にあるBolungarvikの左上にある、Skalavikです。

季節は春、4月の半ばでした。片道約8キロ(実際は片道12キロあったよ
うで、数年後には、道は変わっていないのに、標識が書き換えられていまし
たが … )の道のりなので、景色を見ながらのんびり歩いても5時間くらい
で戻れると思い、昼の13時に自宅を出発。谷間に沿って内陸部へ向かって
行きます。

その日は天気も良く、景色もよく、足取りも軽く、絶好調。中間地点の谷間
では標高が200mくらいあり、4月とはいえ、雪が結構残っています。お
かげで固まった雪の上を歩け、ショートカットしながら、途中持参したおに
ぎりを食べたり、水を飲んだり、座ってボーっと景色を眺めたりと、かなり
のんびりしちゃいました。(本当は雪の下の地形を知らない所では、固まっ
た雪の上を歩くのは危険です。 でもこの時は、山間で周りの地形が想像出
来るような状況だったので、歩いちゃいましたが … 。)

そんなこんなで谷間を抜けてSkalavikに到着した時は、途中休みすぎたこと
もあり、すでに17時でした。でも景色は山に海に最高です。この地域はサ
マーハウスが数軒あるだけで、この時期は無人で、海も山も貸し切り状態! 
半径数キロの範囲に自分たち以外に人がいないんです。ちょっと怖いけど、
素晴らしい♪

さて、とりあえず1時間ほど休んだので、帰路につくことにしました。そろ
そろ18時ですが、4月も半ばになると夜の21時近くまで明るいので、不
安はありません。さっさと歩けば明るいうちに帰れるなぁ…なんて、思って
いました。が…。

帰り間際に同居人が「内陸を抜けてきたんだから、同じ道じゃつまらないし、
帰りは海岸線に沿って帰ろうよ」と言います。どうしようか悩んでいると
「海沿いなら上り坂もないし、ほらこのハイキングマップにもルートが載っ
てるよ」と同居人。持っていたその小冊子には今から通る海岸線に赤い線が
引いてありました。

「うん、ならだいじょうぶだね」と言うことで、海岸線を歩き始めます。こ
れは横切った半島の縁を海岸に沿って戻ってくる感じです。半島と言っても
潰れた形をしているので、距離的には数キロ増える程度のようです。これで
上り坂がないなら、こっちの方が楽だし…などと甘いことを考えていました。

さて、歩き始めて10分くらいした所で、足下の砂利の大きさがどんどん大
きくなっていきます。この辺は海岸線とはいっても砂浜ではなく、砂利や石
で、左手に海、右手には切り立った崖があります。高さは400mくらいで
しょうか。そして歩ける幅は20mほど。

さらに10分くらいすると、足下の砂利が握り拳大の石になってます。歩き
にくいなぁ〜と思っていると、気づいたら漬け物石ほどの大きさになってま
した。こうなると、石の上を飛び移って進むしかありません。この進行作業
は思いの外、時間と体力を必要としたようで、すぐに膝がガクガクいってき
ます。しょうがないので、しばらく歩いたら5分ほど休憩です。

再び歩き始めて少し経つと、今度は漬け物石が冷蔵庫くらいの大きさになり、
その後ついに8畳間ほどの大きさになってしまいました。こうなると、もぉ、
歩くというより、よじ登って降りる作業の繰り返しです。しかも一歩間違う
と、岩の間に挟まってしまうので、かなり危険なんです。おまけにこれらの
岩は、たった今がけの上から落ちてきましたと言うほど、角がとがってるん
ですよ!いや〜、本当にコワイです。しかもこの辺になると歩ける幅が10
mなくなってきました。

石の大きさが、砂利→石→漬け物石→冷蔵庫→八畳間と、何度か繰り返す内
に、休憩の回数が増え、一回の休憩時間も増えていきます。何度目かの休憩
で時計を見ると、すでに21時でした。辺りはすっかり薄暗くなり、気温ま
で下がってきます。

でも … とてもじゃないけど野宿ができるような装備を持っていません。何
しろ、ほんの散歩のつもりだったので、格好も裏地付きウィンドブレーカー
にジーンズ、それにトレッキングシューズと軽装です。持っていたモノは、
おにぎりは食べ終えちゃったので、板チョコ少々と小さめの水筒の水少々だ
けでした。

それに海岸線だと、満潮時にどこまで海水が上がってくるのかも分からない
ので、動ける時にできるだけ移動したいのが本音です。同居人は、まだ多少
は体力があるらしく、時折立ち止まって待っていてくれます。でもりゅ(私)
は必死です。こんな所で死ぬ訳にはいかない…。

頑張ってテクテク歩いたものの、ついに視界がきかなくなり、夜になってし
まいました。この時点での進行速度は恐ろしく遅かったと思います。何しろ
見えないのだから手探りで進むしかありません。案の定、ここで足を踏み外
し、倒れる時に顔面を岩にぶつけてメガネのフレームが曲がってしまいまし
た。幸い怪我は擦り傷くらいでしたが、闇夜にメガネなしは、かなりツライ
です。

しょうがないので、曲がったフレームを無理矢理手で曲げ戻して、メガネを
かけ直し歩き始めると・・・なんと薄ぼんやり見えるではないですかっ。左
手に広がる海の上に、雲が流れて、お月様が姿を現しています。「あ〜、お
月様ありがとう。あなたはこんなにも明るかったのね」と、この時ほどお月
様に感謝したことはありませんでした。

さて、相変わらず頻繁に休憩をとりながら、月光を頼りに進んでも進んでも
到着する気配はありません。最終的には進行方向の彼方に、街道の明かりが
見えるはずなんだけど、一向に見える気配はなく、見えるのは月に照らされ
た海と崖だけです。そして聞こえるのも波の音と、風の音だけでした。

途中で水がなくなり、咽の渇きに耐えかねて、雪の固まりを口に入れながら、
進むと、時刻はすでに24時を過ぎていました。風が強いので休憩の度に、
岩の陰に身を寄せて、体力を温存しますが、体力的にも限界に近く、おかげ
で10分歩いて10分休憩する状態です。同居人は、お腹が空いたり、疲れ
たりすると、その欲求をエネルギーとして、休憩もせず黙々と進んで行くタ
イプなのですが、りゅはそんなタイプじゃありません。そんなのムリです。

ついに時刻は3時を過ぎ、4時になり5時になると、視界に不自由はなくな
りましたが、体力的には限界を通り越してます。足の筋力ももうありません。
一度休憩すると、腰が上がらないりゅを、おだててなだめて歩かせようとす
る同居人。「到着したらおいしいモノでも食べようよ…」。普段なら飛びつ
くところが、「そんなのいいから休みたい…」と弱気な自分です。疲労困憊
という言葉の意味がわかった瞬間でした。

それでもなんとか歩き出し、6時を過ぎた頃になってようやく、遙か彼方に
隣町のIsafjordurへ抜ける街道が見えてきました。こうなると不思議と元気
も出てくるもので、もう少しもう少しと思いながら歩く気力が沸いてきます。

7時を過ぎた頃になると、街道もかなり近くに見え始めました。でも相変わ
らず足場が悪いので、亀のような進行速度です。でも少しずつ前に進んでま
す。直線距離なら500mはないでしょう。

しかし安心したのも束の間、進行方向を見ると、右手の崖が海に大きく迫り
出していて、これ以上歩けるスペースがないじゃないですかっ。天国から地
獄とはこのことです。一気に絶望の淵に立ってしまいました。後少しなの
に…。この迫り出した崖の裏側には、自分の住む村があって、自分の部屋が
あって、ベッドがあって、お風呂もあって、冷蔵庫に飲み物や食べ物もいっ
ぱいじゃないけど入っていて、ティーバッグだけど紅茶も、ポットもカップ
もあるのに…。今から来た道を戻って、内陸を抜けるなんて絶対にムリです。

座り込んで打ちひしがれているりゅに「ハイキングマップに載っているんだ
から、絶対にルートはあるはずだ」と強気な同居人。りゅを待たせたまま、
崖の下を見て回り、足場の良さそうな所から登り始めました。下から見てい
ると、ずいぶん高くまで登ってます。100mくらいでしょうか。崖の中腹
で、小さく見える同居人は、右に左に見てまわって、やがて降りてきました。

「そこから登って横に移動すると、崖の中腹で越えられるよ」「ただ、横移
動の途中3〜4mの幅だけは落石の危険があるけど、多分大丈夫」

もはや選択肢は残されてないので、疲れた身体にむち打ち、そこを登ること
にしました。先に同居人が登り、3mくらい後をりゅが着いていきます。同
居人が上から、手をかけるところや、足を置く岩を教えてくれるけど、それ
でも崖をのぼるのは大変です。

100mくらい登った所で、横に移動できそうな場所があるのですが、よく
見ると途中の幅3〜4mは砂利のスロープで、下を見ると約70度くらいの
角度で海まで一直線・・・上から見るとほとんど垂直に見えます。

そう、落石の危険とは、自分の上から石が降ってくるのではなく、自分の乗っ
たところが落ちるってことだったんです。あぁ、怖い。でも、ここで渡らな
いと、来た道を戻ることになるので、背に腹は代えられません。

とりあえず、最初は同居人が問題の箇所に手足を広げて腹這いになり、その
同居人を足場にしてりゅは2mほど移動し、残りの2mほどは自力で移動す
る計画にしました。高所恐怖症なので、メガネを外し周りがよく見えないよ
うにするのも忘れません。

さて、計画開始です。まず同居人を足場にしようと、スロープに片手をつい
たら、のっていた砂利が砂山を崩すようにザザザァ〜っと海に落ちていきま
した。思わず、「こんなの渡れないよ〜」と言うりゅに「一箇所に力かけ
ちゃダメだよ」と返す同居人。

しかたなく、申し訳ないと思いながらも同居人を足場にして、両肘両膝両つ
ま先を地面に食い込ませ、なんとか2m移動します。その最中も、恐くて上
に上に上がっていこうとしてしまい、「上に登っちゃダメだって。この位置
が最短距離なんだから」と何度も言われてしまいました。

さて、残りは2m弱。今いる岩の足場を離れて一旦這いつくばれば、もう片
手は反対側の岩に届く距離ですが、傾斜は先の2mよりきつく、このまま落
ちていけそうな雰囲気です。

恐る恐る移動し始めると、少しずつ身体が砂利と一緒に下へ滑り落ちていき、
もう手も足もでません。何をやっても落ちていきそうで、身体は固まったま
まです。「体重を分散させて!」と叫ばれても何もできません。恐怖のせい
か、身体が全く言うことを効かないので、その間も少しずつ滑り落ちていき
ます。

100m下は海。ああ、もうダメかもしれない…。滑り落ちる速度が速くなっ
てきた瞬間、同居人の手がりゅの襟首を掴みました。同居人は頬まで砂利に
押しつけて支えてくれ、おかげでりゅの身体も動くようになり、その体勢の
まま、反対側の岩に手を伸ばし、やっと固い足場へ移れました。

同居人も続いて崖を渡り、それから後は、崖を降りるだけです。例によって
同居人が先に降りて、足場を教えてくれます。崖を降りきり、歩き出す前に
休憩をとりました。でも到着の感動はありませんでした。ただホッとしただ
けです。

数分歩いたところで村が見えました。200m先に知り合いの家が見えます。
港の漁船も見えます。銀行の旗も見えます。やっぱりここは自分の住む町で
す。…ふと時計を見たら8時半でした。


この話をアイスランド人の友人に話した所、数年前に同じルートを行軍し、
亡くなったおばぁちゃんの話をされ、出かける時は行き先を現地の人に伝え
てから行くようにと怒られてしまいました。自然の脅威を知らず、予備知識
も持たず、軽装で無茶をしたと反省しきりです。

でも、数年後に出会ったアイスランド人の友人は、若い頃にウチと同じルー
トを辿った人でした。最後の違いは、彼女は海を泳いで渡ったこと。夏でも
水温は相当低かったはずで、村の人には奇異の目で見られたとか。彼女もウ
チ2人も、ホント大バカ者ですね。

ちなみによく見たら、ハイキングルートは海岸より50mくらい上を歩くよ
うでした。そのまま進んでいれば、最後の危険な崖も、はるか上の安全な所
を通り抜けることになっていたけど、その頃は崖が崩れて、どのみち通行は
不可だったとか。

アイスランドで自然と触れ合うには、地元民のアドバイスが必要なのかもし
れません。あっ、でもたまに適当いい加減なことを言う人もいるので、注意
は必要です。なにしろ、たいちょはそのおかげで2度目の遭難を数年後に
しましたから・・・。


りゅ

■ご意見・ご感想・ご質問等ありましたら、メイルよりも下記にある、りゅ
の運営している、アイスランドサイトの掲示板へ書き込んでくださるとうれ
しいです。
ttp://otd8.jbbs.livedoor.jp/momogumi/bbs_tree
(↑検索アドレスにコピー&ペーストして、冒頭にhをつけてください)

coldnature_is @ yahoo.co.jp

◇◆次回は5月23日(金)スイス・チューリッヒから配信予定です◇◆


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【北米・オセアニア編】【中南米・アフリカ編】【アジア編】
          【出戻り邦人】もよろしくね

         ◇◇◇詳細は下記のHPで◇◇◇
			 		http://www.geocities.jp/detahome/
       各種問い合わせ先:detahou@hotmail.co.jp

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電子出版 :出たっきり邦人【欧州編】<まぐまぐID:0000023690>
発行協力 :まぐまぐ http://www.mag2.com/
発行責任者:欧州編ライター一同 連絡先:oushuhen@hotmail.com
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