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出たっきり邦人【欧州編】


2008.05.30

【出たっきり邦人 欧州編】758 ギリシャ


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             ◇◆甲編◇◆


           〓ギリシャ・スパルタ発〓

             「田舎生活αβ」


              第四十八回

            ペンテコステの想い出


少し前の話になるのだが、ギリシャ正教での復活祭明けの4月28日は、《アギ
ゥ・ヨルギィウ(聖人ヨルゴスの祝祭日)》であった。
以前から興味を持っていたギリシャ村のお祭りのひとつである、スパルタに隣
接する標高700メートルほどに位置する〈ブティアーノス〉と呼ばれる村で
行われる〈乗馬祭り〉を家族で見に行った。

聖ヨルゴス教会から響く司祭の声に混じり、馬のいななきが木霊する。遠くに
スパルタ市街を壮観できる傾斜を伴う牧草地では、後に行われる〈乗馬祭り〉
の試し乗りが繰り広げられていた。

距離にして2km弱を10頭ほどが競う競技ではあるが、馬そのものが減って
しまっているギリシャに於いては、珍しいお祭りといっても良いだろう。

以前世話(近所から苦情が出るため転々としていた馬の住処を見つけてやり、
たまに面倒を見ていた)をしたことがある〈ミス・アルバーニア号〉が出場し
ていると知り、見学にも熱が入る。2度目の競技で2等と健闘したのだが、3
度目で騎手のマリオスが、勢いづいた馬を静めようと奮闘し太腿を怪我してし
まった。
騎手マリオスの許で飼われるようになるまで、競走馬として働いてきた〈ミス・
アルバーニア号〉は、関節を痛めていたようで黄色いテープを巻いていたのが
痛々しかった。年若いマリオスは愛馬を庇って怪我をした。でもその献身的な
ひたむきさが、観客から激励の拍手を誘ったのが印象的であった。
そして祭りは終わった。
青々と茂る牧草地を見つめていると、4年前に行ったスペインのお祭りを想い
出した。

わたしの父親は、30代の終わりごろ2年ほどスペインに住んでいたことがあ
る。70歳を迎えた4年前、お祝いの意味も含め、スペイン旅行を決めた。
わたしにとって想い出深い、カルドナやサン・ファン・デ・ラ・ペーニャから、
サラゴサを経由して、父が30何年前かに訪れたことがあるという〈アティエ
ンサ〉に辿り着いた。

その日は、「ペンテコステ」と呼ばれる祝日。アティエンサ村のCaballada乗
馬祭りの日であった。

「ペンテコステ」という呼び名は、ギリシャ語の50番目の意に由来しており、
資料によると、本来はユダヤ教の祭日シャブオットのギリシャ語訳であるらし
い。ユダヤ教については知識がないので詳しいことが書けないのだが、
過ぎ越しの季節以後、強い熱風などの危険を乗り越え訪れる50日目の収穫を
祝う祭りであり、収穫に感謝する農業祭であったらしい。
シャブオットがキリスト教徒によって、イエス・キリストの復活、昇天後を祈
っていた使徒たちの上に神からの聖霊が降ったとされる新約聖書の中に出てく
る出来事として「聖霊降臨」を記念するキリスト教の祝日に変わったようであ
る。
「聖霊降臨」と聞いても、宗教観の乏しさからか、余りピンとこなかったわた
しだったが、マドリッドのプラド美術館で見たエル・グレコ(クレタ島出身の
画家で本名はドミニコス・セオトコープロス)が手がけた『聖霊降臨』
(Peutecostes)では、イエス・キリストの復活後50日目に、聖母マリアや使
徒が集まる頭上に、あたかも炎が灯ったように聖霊が満たし、天上では鳩とし
て表された聖霊が光り輝いていた。

キリスト教の聖霊降臨日は、五旬節とも呼ばれ、復活祭から数えて50日後に
祝われる移動祝日(年により日付が変動)である。カソリックやプロテスタン
トと、正教会、東方教会とは、復活祭日の数え方が違うので、「ペンテコステ」
の祝日も各々異なる。

その「ペンテコステ」のお祭りが、小さな小さなアティエンサ村(とはいえ、
立派なお城を持つ緑豊かで長閑な村であったが)で長年行われている由来を聞
きかじった。

アティエンサ村の「ペンテコステ」のお祭りの歴史は古く、12世紀初頭ごろ
まで遡るという。スペインが数々の王国を持っていた頃のこと。幼少にしてカ
スティージャ王となったアルフォンソ8世は、亡き者にしようとする企みによ
りアティエンサまで追い詰められてしまった。土着の馬方たちが機転を利かし
た働きによって、幼王を馬子(人を乗せた馬を引くことを職業にしたひとのこ
と)の姿に変装させ頑丈なアティエンサ城にかくまい命を救ったことから、そ
の記念日を聖霊降臨と併せて乗馬祭りとしたそうだ。

その日、
乗馬祭りが始まるまでには、マリア様を乗せた山車が教会に着くと、村人によ
って奉納物のセリが行われていたが、一説によると、税を払う儀式だとも聞く。
生憎の曇天ではあったが、広大で緑豊かな牧草地が映えて見えた。

古くからの儀礼通り、黒マントを羽織り、黒帽子に黒を基調とした花柄刺繍の
伝統衣装で駿馬を操る老若混じった騎手たちの競いが始まる。
2頭づつが平原を駆け巡る。後方では、アティンサ城がどっしりと構えていた。
何世紀にも亘って見下ろしてきた歴史を思い巡るような佇まいで・・・・

乗馬祭りの後は、教会で音楽隊を交えて踊りやおしゃべりに興ずる。アグアル
ディエンテ(蒸留酒)が振舞われる。
父が懐から30何年か前の写真を出して、村人に見せていた。どうやら、そこ
に写っていた騎手は最近亡くなったらしかったが、今回活躍していた一番若い
騎手は孫に当るということらしかった。民族衣装を纏った美しい妙齢の娘さん
はおばちゃんになっていた。悠久の時間の流れをそこに感じた。

今日は偶然にもアティエンサの「ペンテコステ」を訪れた日と同じ5月30日。
遠く過ぎ去った想い出がふと蘇る、夏のはじまりである。


キドーニ


ご意見、ご感想おまちしています。hazidakis@hotmail.com



◇◆次回は6月3日(火)イギリス・ケント州から配信予定です◇◆
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