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出たっきり邦人【アジア編】


2008.06.27

【出たっきり邦人 アジア編】416号 バンコク


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      のんきぃのんの現在進行バンコク駐在妻らいふ  
 
            その25

           「子宝の国」


先日、貸してもらった「デス・ノート」という漫画を読んだ。映画にもなっ
たくらいだから、面白いかなと期待して。

うーむ、、、正直言って、面白くなかった。
ま、私の趣味に合わないのだろう。

まだ学生である主人公が、悪魔のノートを手に入れて、次々人を殺していく。
ただそれだけだ。

最初は、極悪犯人を次々ターゲットにして「世の中を良くする」という歪ん
だ正当性を持っていたのだが、途中、少なくとも自分を助けようと動いてく
れたFBI捜査官をなんの躊躇もなく殺したあたりで、私は本を投げ出した。

「黒い家」とか「リカ」とか、殺人鬼が出てくるミステリーも面白く読んだ。
人を殺す話自体が嫌いなわけじゃない。

この主人公は、仲良さそうなごく平凡な家庭に育っていて、頭は切れるが、
いわゆる普通の男の子だ。なのに、殺すときに何の逡巡もせず、良心の呵責
すらも感じない。

なんか悪趣味だ。



まあ、そう思うのは私が「母親」という役を担っているからだと思う。

なんかこう、人間くささや異常心理みたいな事件背景も抜きで、一種のゲー
ムみたいにあっさり人を殺す話読んでると、どうも反発を感じるのよねぇ。


東京駅の雑踏に立ってみよう。
あちこちから湧き出ては通り過ぎて行く、人、人、人、人。。。

あの雑踏の人、ひとりひとりが、どこかのだれかの忍耐と体力と気力とお金
と努力と時間という愛情をつぎ込んだ、貴重な結晶だ。

人は、一人残らず、誰かが手をかけた「宝」である。

だって、赤ん坊をほおっておいたら、文字通り死んじゃうでしょ。
今生きているってことは、それまで世話してくれた人がいるという証だ。

子育てに四苦八苦したことのある人なら、きっと大いにうなずいてくれるだ
ろう。

だから、
「人は貴重だ」
という実感を得るためには、子育てに関わるのが一番なのだと思う。



タイに家族連れで来て実感するのは、タイの人の子供好きなこと。

電車の中で席を譲ってくれるのは当たり前。
デパートでは若い女の子がベビーカーをのぞいて、「かわいいね、かわいいね」。
おばちゃんもおじちゃんもニコニコして手を振ってくれる。
レストランでは、従業員が次々抱っこしてくれて、赤ん坊がしばらく帰って
こない。

この、「子供大歓迎」の雰囲気と、お手伝いさんがいて時間的な余裕があると
いう状況で、思い切って諦めていた三人目にチャレンジするという駐在員家
庭は意外に多い。
で、タイ生まれの三人目の歳が、上の二人と離れていたりする。

夫の同僚が、まだ小さい子がいるので、家族を日本において単身赴任してく
ると聞くと、
「もったいなーい。子育てしやすい国なのに、、、」
と本気で思う。

本帰国した友人を訪ねたとき、彼女の一番下の男の子が、うちの生後半年の
次男に近寄ってきて、しきりに「いいこ、いいこ」というしぐさでかわいが
ってくれた。まだ、うまくしゃべれない一歳半の幼児が、である。

「この子、タイで生まれたでしょう。あちこちでこうして可愛がってもらっ
たから、赤ちゃんを見たらこうするものだと思っているのよ」

と彼女は言った。


タイの人は、なぜこんなに子供を可愛がり、大切にするのだろう。

うちのアヤさん(お手伝いさん)も若い独身女性だが、うちの子をよくかわ
いがってくれる。聞くと、実家では甥っ子姪っ子がいるので、世話は慣れて
いるのだという。

ふーん、なるほど。
ちょっとなぞが解けたぞ。

タイの田舎では、昔の日本みたいに大家族だ。だから、自分に子供がいなく
ても、小さい子が身近なのだろう。

自分が実際に世話し、子育てに直接かかわっていると、ほかの子供でもみん
な可愛く思えてくる。
実際、私も独身の時はそれほどではなかったのに、自分の子供を育てている
と、他人の子も目を細めるほど可愛く思える。

私はそれを「赤ちゃんホルモン」と呼んでいる。

日本でも、子連れに親切なのは、たいてい中年のおばさんたちだ。みんな、
子育て経験があって「赤ちゃんホルモン」を持っているのだと思う。

身近で小さい子と関わる機会があるタイの人は、核家族化の進む日本より、
赤ちゃんホルモンを持っている人の絶対数が、はるかに多いのだ。


それと、もうひとつ。

ちょっとひねくれた発想かもしれないが、年金制度の有無が、実はけっこう
関わっているのかもしれない、とも思う。

タイには、年金制度がない。

私がそれに気づいたのは、テロ事件の新聞記事だった。
おととしのお正月のテロ事件で亡くなった3人の中に、市場で働くタイ人の
男の人がいた。

日本の新聞では、死亡者数のカウントでしかないのだが、タイの英字新聞は
もう少し詳しく、
「36歳の働き手の彼の死を知り、田舎に住む彼の母親は、一家の唯一の大黒
柱を失ったことに、呆然とした」
と書かれていた。

一人息子の彼は、田舎に送金していたのだ。

田舎に家族を残して働きに来ているタイ人はたいてい、老いも若きも送金し
ている。
知り合いのアヤさんは50歳過ぎているが、彼女のけして多くない給料の中
から、年老いた田舎の父親に500バーツ送金している。

えらいなぁ、と思うけれど、たとえば日本人でも、田舎にいる自分の老いた
両親が、まったく無収入でその日その日を暮らしているとしたら、そのまま
放って置ける人がいったい何人いるだろうか。

両親は、自分の年金でなんとか暮らしていると思うから、私たちは安心して
自分の暮らしを優先することができるのだ。

タイの人は、今まで育ててもらった恩を、仕送りという目に見える形で返し
ている。

それは、福祉の社会制度が整わないどの国でも状況は同じかもしれない。国
が福祉を担ってくれる前は、家族という単位が強固に固まって、お互いを助
け合っていた。

子供は育ててもらい、大きくなれば親を養う。子供が多ければ多いほど、親
子関係が良ければ良いほど、子供は親に、目に見える形の安定を運んでくれ
る。だから、子供は大切にされる。かわいい、かわいいと育てられる。

まさに「子宝」だ。

子供は年金代わりか、と意地悪なことを思ってはいけない。人間はホンネの
建前の動物で、どこからどこまでが二つを分かつのか分からない。
愛情は打算ではない、というのは理想論で、私は理想論を信じていない。し
かし、打算ばかりが前面に出ては殺伐として生きにくい。

経済と愛は微妙に絡み合って、人間関係を形成している。

たとえば博打ばかりして生活費を入れてくれない夫に、愛情を保ち続けるの
は難しい。逆に、母さんには苦労をかけたね、今度は自分が母さんを食べさ
せてあげるよ、と請け負う子供に、愛情を感じない親がどこにいるだろう。


もちろん、子供を持つ持たないは運によるので、家族制度ではやっぱり不安
定なのだ。だから、社会が進めば、年金制度や健康保険制度といった福祉が
導入され、不公平感をなくしていく。

同時に、生きていくための、家族の強い結束も不要になっていく。
だから、核家族化が進んでいくのだ。

それはそれで、仕方のないことだ。

しかし、結束の強い大勢の家族から「かわいい、かわいい」と宝のように育
てられる子供も減っていく。身近に子供を世話し、命の貴重さを知る機会は
失われていく。

最近、日本で若者の自殺率が増えていると聞く。
社会福祉が高度に発達した北欧の国でも、若者の自殺率は高いという。

社会が安定して発達していくと、逆に、自分は宝のようだ、と感じられない
子供が増えてしまうというのは、なんて皮肉なことなんだろう。


ひとつ、提案。

殺伐とした事件ばかり起こす17歳になったら、幼稚園にほうりこんで、幼
児の世話をする研修を1週間ほどさせたらいい。

子育ての大変さを分からすのだ。

実際、タイの高校生が、幼稚園児の世話をするのを見た。

バンコクの科学博物館で、高校生と5歳くらいの幼稚園児のグループが遠足
に来ていた。それぞれペアになっているらしい。いかつい高校生の男の子が、
一生懸命自分の担当の園児の面倒を見ている様子は、本当に微笑ましかった。

愛情や家族の大切さを知ろう。

タイに見習うべき点は、まだまだたくさんあると思う。


のん
nondetahou@yahoo.co.jp
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*次回のアジア編は7月4日(金)イスタンブール・アイシェさん
よりお届けです。
 どうぞお楽しみに!

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