2008.03.24
空気を読まない=3月24日 日銀総裁選びで露呈した政治の崩壊
「KY(空気が読めない)」というイヤな言葉が流行っている。
なぜ空気を読まなければならないのか? 理由はない。
みんなが同調してつくる「空気」などほとんど間違っている。
意識的に空気を読まず、空気に異議申し立てをする必要がある。
【空気を読まない】=3月24日
日銀総裁選びで露呈した政治の崩壊
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日銀総裁の後任人事問題は、ついに「史上初の総裁不在」となっ
た。この過程で露呈した政治の低レベルさは深刻だ。首相も官房
長官も「提案しました。否決されました」で澄ます。自民党はも
ともと素材が悪いうえに勉強もしない。政治報道もまた、肝心な
政治・政治家のレベル問題を問わない。政界全体がレベルダウン
している。
◆「子どもの使い」
日銀総裁人事は、福田康夫首相の提案した2人の大蔵事務次官
経験者に参院の同意が得られず、ついに史上初めて総裁不在とな
ってしまった。新聞やテレビは「総裁不在」という結果がたいへ
んな事態であるかのような報道ぶりだが、日銀の今後は白川方明
総裁代行が中心になって運営するということで、とくに問題は生
じないだろう。
問題はむしろ、後任総裁任命の過程で露呈した政治の低レベル
さである。福田首相や町村信孝官房長官は「空白が生じてはなら
ない」と何回も繰り返しながら、その言葉どおりに行動できなか
った。武藤敏郎氏にしても田波耕治氏にしても、「提案しました
。民主党に否決されました」ですましている。こんなことでは普
通のサラリーマンですら務まらない。「子どもの使いじゃないん
だゾ」と上司に叱りとばされるだろう。
首相というポストの恐ろしさは、いかなる事態が出現しても責
任を負わなければならない、という点にある。福井俊彦総裁の任
期切れが19日であることは5年前から分かっていたのだから、
その日に間に合うように後任総裁を決めなければならない。
民主党が参院で多数を占めるというのは、単に与えられた条件
でしかない。その条件の下で、必要なことをきちんとやりとげる
。つまり民主党がOKする人材を探り当て、日銀総裁不在という
事態を回避しなければならない。それで初めて首相の責任を全う
したと言えるのである。福田首相や町村官房長官の言動を見てい
ると、提案しただけで責任を果たしたと勘違いしているように思
えてならない。
私が新聞社の政治部に所属していたのは1989(平成元)年
の1月末日までだが、少なくともそのときまでの政界常識は、「
提案しただけなんて論外」ということだったはずだ。それ以前「
三角大福中の時代」(佐藤栄作内閣総辞職・田中角栄内閣成立の
1972年7月〜中曽根康弘内閣総辞職・竹下登内閣成立の19
87年6月まで)なら必ず、反主流に位置する誰かが「とても首
相のやることとは思えない」と批判する。そして「政局になる」
(つまり首相退陣か否か、自民党内で大騒ぎになる)という展開
になったはずだ。
◆財務官経験者という道
テレビのニュースキャスター屋さんたちが言っているのは、<
大蔵・財務省の次官経験者ばかり提案するという今回の経過によ
って「財務省支配」がいかに根深いものであるかが明らかになり
ました>である。
これでは財務省が怒るだろう。財務省は「民主党がノーという
のは次官経験者」と読み、国際関係担当の財務官OBを検討した
と報じられている。その場合、元財務官の黒田東彦アジア開発銀
行総裁か、前財務官の渡辺博史国際金融情報センター顧問。黒田
氏を日銀総裁に据えると、日本はアジア開銀総裁のポストを失う
。だから渡辺氏、というのが、財務省の人選だった。
民主党の鳩山由紀夫幹事長も16日のテレビ番組で、財務官経
験者が提示された場合には同意する可能性を示唆していたとされ
る。これを自らつぶしたのが福田首相なのだからあきれる。理由
は「田波氏なら知っているが、渡辺氏は知らない」の一語に尽き
るらしい。
◆面識ある人を選んだ!
福田内閣は昨年9月25日発足したのだが、その初仕事が10
月1日付の、政府系4金融機関のトップ人事だった。田波氏はこ
のとき国際協力銀行副総裁から総裁に昇格した。
田波氏は96年7月、大蔵省からはじき出されて内閣内政審議
室長となり、1年半も在職した。その間、少なくとも2日に1度
は橋本龍太郎首相に会い、「首相にもっとも近い官僚」と言われ
た。だからこそ98年1月、橋本首相が当時の小村武事務次官を
更迭したとき、後任次官に起用されたのである。
その後も首相官邸を強く意識して行動したはずだ。福田氏が官
房長官だった2000年10月から04年5月までの間も含めて
、ひんぴんと福田氏を訪ねていたのだろう。それに対して財務官
という外向きの仕事をしていた渡辺氏は、「官邸詣で」などする
発想そのものがなかった。
面識のある人を選ぶというのも、首相の行動としては想像を絶
するものだ。中規模以上の企業経営者なら誰もが、面識のあるな
しで人を判断してはいけないという処世訓を身につけているはず
だ。用もないのに会いに来てゴマをすっていく手合いが多すぎる
からだ。一国のトップである首相が、面識のあるなしで人を選ぶ
など、想像もできない。
意思決定のトップダウンとボトムアップなどとは質の違った問
題である。下から上がってきた提案を議論することもなしにはね
つけ、自分の好みを押しつけるようでは、「上に立つ者」となる
資格がない。首相となった人が、企業の中間管理職に必要な行動
様式も身につけていないのである。
◆人材倒産に向かう政治
福田氏個人の問題は、もちろんある。しかしいま日本の政界は
「人材倒産」に向かっているという構造的問題がある。優秀な人
は政界に入っていかない。その結果なのか、あるいは原因なのか
? 「石を投げれば二世に当たる」という状況が確立している。
80年代に政界で流布していた美談があった。1976(昭和
51)年12月のロッキード選挙初当選組で茨城県から選出され
た二世議員・T氏がいた。閣僚経験もあった父親が急死し、後援
会幹部が長男の出馬を打診したというお決まりのコースの段階で
、この議員の母親は「あの子に大恥をかかさないで下さい」と断
ったというのである。
T氏は早大卒で電通勤務。代議士の父が押し込んだコネ入社で
あることは、母親だからよく知っている。母親の言い分は<あの
子は、電通で同僚並みの仕事はできず、ヤケになってマージャン
ばかりやっています。父親が甘やかしてコネ入社させたから、恥
をかいているんです。国会議員となると、電通の社員どころでは
ない、もっともっと優秀な人がそろっているはず。人並みの仕事
ができないあの子の恥は、もっと大きいものになります>
というものだったという。ここまでは美談だが、その後の物語
はあまり美しくないものとなる。
◆電通で恥をかいても、政界では立派に通用
この話はすぐにT氏本人の耳に入った。T氏本人が後援会幹部
に連絡して、「私が後継者となります」と宣言。後援会はこれを
受け入れて、世襲が実現した。以後、T氏は順調に当選を重ねた
。
そして42歳のとき第2次海部俊樹内閣の労相となった。その
時点で最年少閣僚の記録は、中村喜四郎氏(宇野宗佑内閣の科技
庁長官)で40歳。次いで、橋本竜太郎氏(第1次大平正芳内閣
の厚相)の41歳、小渕恵三氏(第2次大平内閣の総務長官)の
42歳という順だった。T氏は小渕氏と同じ「スピード出世」だ
ったのである。
96年1月、橋本龍太郎内閣が発足すると同時に、T氏は通産
相に起用された。このとき48歳で、最年少閣僚だった。通産相
は「実力者」と一目置かれるポストであり、40代での就任は希
有のケースである。
T氏は97年12月、心筋梗塞のため死去したが、この急逝が
なければ、首相コースを走っていたとさえいえる。最年少記録3
人組のうち、中村氏はゼネコン汚職で逮捕・起訴され政治生命を
失ったが、橋本・小渕両氏とも首相になっている。
「子を見ること親に如(し)かず」と言う。子の実像をいちば
ん良く知っているのは親だという意味だ。T氏の母は、長男の「
実力」をよく知っていたに違いない。しかし彼女に見えなかった
のは、国会議員全体のレベルダウンである。
電通は例の「鬼十則」(※注参照)が支配するモーレツ社員の
会社だとされる。それにしても、電通で「恥をかいている」人物
が、国会議員の世界ではトップランナーになるというのである。
国会議員の質の低下は恐るべきものである。
(注)1952年8月、「広告の鬼」といわれた当時の社長・
吉田秀雄氏が全社員に訓示した。その10箇条は以下のとおり。
1.仕事は自ら創るべきで、与えられるべきではない。
2.仕事とは、先手先手と働きかけていくことで、受け身でや
るものではない。
3.大きな仕事と取組め! 小さな仕事は己を小さくする。
4.難しい仕事を狙え! そして成し遂げるところに進歩があ
る。
5.取組んだら放すな! 殺されても放すな! 目的を完遂す
るまでは…… 。
6.周囲を引きずり回せ! 引きずるのと引きずられるのとで
は、永い間に天地の開きができる。
7.計画を持て! 長期の計画を持っていれば、忍耐と工夫と
、そして正しい努力と希望が生まれる。
8.自信を持て! 自信が無いから君の仕事には、迫力も粘り
も、そして厚みすらがない。
9.頭は常に全回転、八方に気を配って、一部の隙もあっては
ならぬ! サービスとはそのようなものだ。
10.摩擦を怖れるな! 摩擦は進歩の母、積極の肥料だ。でな
いと君は卑屈未練になる。
《(注)終わり》
◆政調部会・調査会で鍛える
かつての自民党は国会議員の政策能力を鍛え上げる場を持って
いた。政調の部会、調査会である。そこでの発言のレベルによっ
て、「大臣候補」か否かが選別された。低レベルの発言ばかり繰
り返していると、「あの男はトテモ……」と大臣の地位から遠ざ
けられていったのである。
典型的なのが、「ミスター税調」と言われた故山中貞則氏(1
921.07.09〜2004.02.20)が運営していた税制調
査会である。山中氏は1953年4月総選挙で初当選。大蔵政務
次官、衆院大蔵委員長、総理府総務長官、環境庁長官、防衛庁長
官、自民党政調会長など歴任した後、79年自民党税調会長に就
任。以後90年代まで税調の会長・顧問を続けた。
税調では、単純な「増税反対」の類の発言、日本の税体系を理
解しない発言などがあると、山中氏からカミナリが落ちたという
。
<税調は税のプロが論議する場なんだ。素人が生半可なことを
言う場ではない>
<税調は自民党政調の中でも、もっとも権威ある存在だ。そん
な低レベルな発言は税調の名を汚す。もう止めてもらいたい>な
どと言い、場合によっては
<今日は不愉快だ。これで打ち切り。オレは帰る>と会議を中
止したことがあるという。
山中氏は
<税のことは五十年しかやってない>
<党三役ごときに相談しない>
<首相の裁断を仰ぐようなぶざまなことはしない>などと豪語
していた。
<税のことはオレが取り仕切る>という姿勢を鮮明にしていた
。
山中氏のホンネは、「税制では悪役が必要」というものだった
ようだ。
<予算配分の方は、多少の相互矛盾は許され、「足して2で割
る」妥協が可能だ。しかし、税については「法定主義」だから、
相互矛盾は許されない。変更する場合、他のすべての条文との整
合性が必要。しかも、変更は常に利害の対立を伴う。減税の場合
でも、「自分たちの減税が少ない」という苦情は必ず出る。まし
て増税のときは、業界などからの風圧は強い。
政界で通常行われている、あちらの顔もこちらの顔も少しずつ
立てるという議論を目指すと、果てしなく続くだけだ。最後の場
面では、税制に精通した誰かが「エイ」と決断を下さないと前に
進まない。裁判官のような存在が必要だ……。>というわけだ。
いずれにせよ、山中氏の税調は、自民党国会議員に「勉強」を
強いた。同時に他の部会・調査会の論議にも影響を与え、レベル
アップさせていたのである。
◆偏差値下位校の風情
私はいまの自民党がどうなっているか、あまり実態を知らない
。しかし河野太郎氏のメールマガジン「ごまめの歯ぎしり」では
、ときどき部会・調査会の模様がレポートされているが、官僚の
言い分をそのまま通しているケースが多いらしい。(河野氏はそ
れに抗議する立場で書いているのだ。)ときどき新聞記事になっ
ていることもあるが、高いレベルの政策論議が行われているとは
思えない。
いまや国会議員は「石を投げれば二世、三世に当たる」状態で
ある。それ以外は秘書あがり▼地方議員あがり▼官僚崩れ▼松下
政経塾出身者、といったところだ。もともと上質な人材が入って
きていないのだから、政調の部会・調査会で勉強を強いる以外に
、議員のレベル維持の手段はない。もともと素材が悪いうえに、
あまり勉強もしない偏差値下位校といった風情に陥っているのが
現状のようだ。
◆強いリーダーは排除?
さらにつけ加えれば、落ち込み状態に入った組織特有の、強い
リーダーシップを嫌うという病弊にも陥っているようにも見える
。
私が勤務していた毎日新聞社が一時期、「強いリーダー排除症
候群」とも言うべき病弊に陥っていた。80年代から90年代に
かけて、2代にわたってリーダーシップなどあるとも思えない人
物が社長になった。
会社の経営は思わしくない。強いリーダーシップを持つ優秀な
人物を社長に据えると、大胆な再建計画を打ち出して、高齢社員
がクビを切られるなどという事態になりかねない。「そんなこと
ができないヤツを社長にしておくのがいちばん」という声が社内
世論となっていた。その世論がリードして「無力な社長」時代が
成立したのである。
◆小泉氏でこりごり
いまの自民党はそれとまったく同じではなかろうか? 毎日新
聞と違うのは、小泉純一郎氏という強いリーダーの時代があった
ことだ。5年半の「小泉時代」でいちばん強烈なのは05年8月
から9月にかけての「郵政解散・総選挙」だった。結果として小
泉政権は空前の大勝を手にした。自民党だけで296議席(公示
前212)公明党の31議席(同34)を加えれば与党が3分の
2を制したのである。
しかし郵政造反組は除名・離党勧告などの処分を受けた。無所
属で立候補しても、自民党公認の「刺客」を送り込まれた。執行
部の方針に背いても、多少のことなら許されるという「古き良き
自民党」は破壊されたのである。それに懲りて、小泉時代とは裏
返しの「リーダーシップなき政党」を求めたのが、昨07年9月
総裁選の意味だったのではないか。
◆蛮勇求められる時代に常識人
自民党総裁・首相となった福田氏を紹介する記事では「常識人
」「バランス感覚のある人」などの言葉がひんぴんと使われた。
読売新聞の1面コラム「編集手帳」は書いた。
<安倍晋三運転手から福田康夫運転手に代わるという。どこを目
的地にバスを走らせるのか、前任者のような独自色の強い路線図
はお持ちでないようだが、そつのない無難な運転術に定評のある
人である>
いま政治は、参議院で民主党など野党が多数を握るという前例
のない事態に陥っているのである。クルマに例えれば、巨大台風
災害で、道路冠水のうえ、暴風が吹き荒れている状態だと言って
もいいだろう。バランス感覚のある常識的な運転手が「そつのな
い無難な運転」をしているだけでは、クルマは前に進まない。
じつは政権担当者には「蛮勇」こそ求められる時代なのである
。その状況下で「強いリーダー排除症候群」に陥っている自民党
の現状は、一時期の毎日新聞社より始末が悪いといえる。
◆一体感を欠く民主党
自民党だけではない。民主党もまた政党としての一体感を欠い
た存在でしかない。「反自公」では団結できるが、積極的な政策
推進で合意するのは難しいという体質を克服できない。
その体質の下で、小沢一郎代表を菅直人代表代行、鳩山由紀夫
幹事長が支える「3頭政治」となっている。読売新聞で政治コラ
ムを書いている橋本五郎編集委員は
<小沢政治の問題点は四つの「ない」に集約される。「会議に
出ない」「電話に出ない」「丁寧に説明しない」「本音を明かさ
ない」。それは開かれた民主主義とは言えないのではないか>と
繰り返し書いている。小沢氏を代表としている民主党も開かれた
民主政党とは言えないということになるだろう。
こうしてみると、いまや政治は総崩れ現象を起こしているよう
に思える。
◆政治報道よ、オマエもか!
政治報道を含めて政界だとも言われる。政治報道もまたレベル
ダウンしている。いちばん肝心な政治のレベル、政治家のレベル
の問題を問わないからである。
以上書いたような、政治のレベルダウンの問題を指摘し、国民
に対して「何とかしなければならないんですよ」と注意喚起して
初めて政治報道は、その使命を達成していると評価できるのでは
ないか?
福田首相は提案しました、民主党は拒否しました、などと日々
の動きを伝えていればそれでいい……。政治記者たちがこう考え
ているとしたら、「提案したんだからそれでいい」という首相・
官房長官とどこが違うのだろうか。
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