2007.01.14
クラシック音楽夜話 Op.194
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クラシック音楽夜話 Op.194 2006年1月14日(日)
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9種類のメインディッシュ
Op.194 CONTENTS━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ベートーヴェン 全交響曲演奏会2006年レポート その1
☆プロローグ 〜今年は一人で〜
☆第1番から第4番 〜個性的で若さあふれる演奏〜
☆第5番 〜怪演! ○○が来たりて指揮をする
※本日の文章は、blogの連載に若干加筆したものです。既にblogをお読みいた
だいている皆様には重複内容となりますが、あらかじめご了承ください。
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☆プロローグ 〜今年は一人で〜
12月31日(日)午後2時40分。東京文化会館到着。
ホールの入り口手前に開演3時と記載されているので焦る。でも、まだ開場され
ている様子はない。
まずは購入済みチケットの受け取りのため、チケットサービスカウンターへ出向
く。
「チケットを予約したものですが」
「大ホール、小ホールどちらですか?」
「ええっと、第九です…(おっと違う)、いえ、あの、ベートーヴェンです」
「大ホールですね。ご予約のお電話番号をおっしゃってください」
そうか小ホールでも公演があるのか。
チケットを受け取り、再び入り口近くへ。
あれ?3時開演のはずなのに、なぜまだ開場になっていないのだろう。
よーく掲示を見る。
小ホール
ベートーヴェン
後期弦楽四重奏曲演奏会
午後3時開演
午後8時終演
弦楽四重奏の演奏会があるなんて初耳だ。弦楽四重奏か……、むむむむ。
8時終演ということなら、交響曲の1番から5番あたりまですっとばして、こっ
ちを聴くのも良いな…。ベートーヴェン弦楽四重奏曲を生演奏で聴けるチャンス
なんてめったにない。それも後期作品だ。と、いうようなことを10秒ほど考えた
後、私はいつものとおり大ホールへと向かった。
今年は妻と二人の予定だった。しかし、年末、義理の父母の入院もあり妻もドタ
キャン。余ったチケットをどうしようか…。メルマガ読者プレゼントにするには
時間がない。友人を誘おうにも、急すぎるし、大晦日の家族団らんの邪魔をする
のは気が引ける。残る手段はただひとつ。当日券を求めチケット売り場に並ぶ人
に声をかけ、
「ダンナ、ダンナ、いいチケットがありまっせ」
とダフ屋のまねをすること。しかし、いったい誰が当日券購入希望なのか全くわ
からない。声をかける人が特定できないのである。あきらめた。
ぞろぞろぞろぞろ大勢の人たちがホールへと飲み込まれていった。
ロビーには、故岩城宏之氏の燕尾服、靴、使用されたスコア、写真等々の展示
コーナーがあった。プログラム販売、CD、書籍売り場、そして、今年もあった
ぞ焼酎「田苑」試飲コーナー。またもや焼酎の香り漂う客席になるのだ。
私の座席は3階の左側。ヴァイオリンの3列目くらいまでは見えるのだがステー
ジ下手は死角で見えない。三枝さんのMC姿は見えないのである。が、オケを上
から見下ろす感じで管楽器奏者やティンパニーはもちろん、チェロとヴィオラ、
コントラバスなど奏者の動きが見える。音響的にはやや生音になりそうだが、面
白い席である。
隣の空席の隣四人はご家族のようである。ご夫婦と、ご子息、お嬢さん。男の子
は高校生くらいか。女の子は中学生というところだろう。いいぞいいぞ。家族四
人でベートーヴェン。まるで去年までのどこかの家族と同じじゃないか。後に
は、どうみても小学生低学年の女の子を連れた老夫婦。お孫さんだろうか。おじ
いちゃん、おばあちゃんとベートーヴェンを聴きに来るなんて、いいぞいいぞ。
しかも、この子、ずっとおとなしく最後まで聴いていたのだ。いいね、とっても
いいね。
演奏の前、企画者である三枝さんが舞台下手からご登場(といっても私の席から
は声だけが聞こえ姿が見えない)。
「これから今年6月に亡くなった岩城宏之さんへ黙祷をささげます。恐れ入りま
すが、皆さんご起立をお願いいたします」
そうだった、この日のコンサートは岩城さんの追悼コンサートでもあったのだ。
私たちは開演前のわくわく感をいったん横に置いて神妙な気持ちで約1分間目を
とじた。
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☆第1番から第4番 〜個性的で若さあふれる演奏〜
今回は9つの交響曲をそれぞれ別の指揮者9人が振るのだ。
第1番。下野竜也さんが登場。曲の途中からはじまったみたいな管楽器の和音が
始まる。1番、第1楽章冒頭は序奏でもあり、いつもリラックスムードで聴いて
いる。だが、この日、下野さんの指揮は最初から気合いたっぷり。和音のアクセ
ントも重めで、明らかに中期交響曲を意識している印象である。指揮者のはやる
気持ちと反対に、オーケストラはまだエンジンがかかっていない様子だったが、
曲がすすむにつれてスムーズに流れていく。第3楽章木管楽器群のアンサンブル
が美しい。第4楽章がこれまたスリリング。全集版CD等を意識すると、おとなし
い演奏になりがちだと思うが、下野さんはそんなことはおかまいなしである。
面白かった。いきなりブラボーが飛び出した。
第2番。岩村力さん。指揮棒なしである。岩村さんもかなり気合いが入ってい
る。長い序奏部の中、ホルンがアクセントに命をかけていて驚き。この曲でも、
「あの〜、2番ですよ(笑)、そんなに飛ばさないでいいんじゃな」と心の中で
つぶやいていた。2番も木管楽器が際だった美しさを醸し出していた。第4楽章
の爆発度合いがもう少しほしかったけど、総体的にまとまりのある演奏だった。
15分間の休憩。休憩時間は岩城さんの展示物を拝見。岩城さんは、演目の準備
のための勉強時にチェックをつけたスコアはとっておかない主義と、著作で読ん
だことがあったけれど、ベートーヴェン交響曲のスコアは残しておかれたよう
だ。この企画のためにだろうなぁ。写真を撮っておくか…、と思ったが、よーく
見ておき頭に焼き付けることにした。田苑の試飲は女性にも人気である。私は、
演奏会を聴く集中力を失うといやなので止めておく。岩城さんの本を4冊購入し
た。
第3番は大友直人さん。大友さんは第1回公演で4番、5番、7番を振った。いず
れも熱演だったから今回の3番は期待していた。りりしい第1楽章。弦楽器が走
り始めた。シンコペーションの歯切れの良さ。大友さんの指揮姿も後ろから見て
ほれぼれするくらいかっこいい。特筆すべきは第2楽章。フルトヴェングラーみ
たいに泣けてきた。第4楽章冒頭の低音弦楽器のメロディとヴァイオリンの追い
かけっこが楽しい。メインテーマが出てきた時は身震いした。圧巻のフィナーレ
で、大ブラボーである。文句なしこの日ベスト3に入る演奏だった。大友さんと
オケメンバーの皆さんに「あっぱれ」である。
20分間の休憩。休憩の終わり頃から、いつものように三枝さんのMCが入る。主
にオーケストラメンバーのことを紹介した。篠崎さんをはじめ全国のオーケスト
ラのコンサートマスタークラスがヴァイオリンパートを担当という贅沢なキャス
ティング。弦楽器の男性は全9曲演奏(凄い!)、女性は交代で休憩をとるらし
いが、お1人だけ全9曲出演の方がおられた。会場からやんややんやの拍手が贈
られた。管楽器奏者も曲に合わせ交代制。ただ、クラリネットにお一人だけ全曲
出演の方が。
「たぶん、世界初の挑戦だと思います。7番あたりで倒れないことを祈って
います」
三枝さんのジョークが出るとふたたび大喝采(おふたりのお名前を失念してしま
いました。調べてあらためて書きます。ごめんなさい!)。
第4番。高関健さんも指揮棒なしである。第3番と5番のはざまにある秀逸な交
響曲を、高関さんは少し凛々しい雰囲気できれいにまとめていた。良い演奏だっ
たけれど、少し重め。もう少しウィットにとんだ軽さや色気があるとよかったと
と思うけど、こういう勇ましい4番も面白い。全部違う指揮者というのもヴァラ
エティに富んで良いものだ。
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☆第5番 〜怪演! ○○が来たりて指揮をする〜
一見、スキンヘッド(に見える)の長身の男性があらわれた。燕尾服を着てい
る。驚くべき存在感。ステージに現れた瞬間オーラがたちこめる。格好いい!井
上道義さんだ。が、この日の井上さんの姿は少し怖く妖しげな雰囲気も漂ってい
た。思わず横溝正史の小説のタイトルを思い出した。酔いしれるような独特の表
情でコンマスと握手し指揮台に上った。長身がさらに長身に見える。井上さんは
場内を舐めるようにゆっくりと見回しおじぎをした。
ズワッと振り返り、オーケストラに立ち向かう。おもむろに両手をあげる。聴衆
みなが息をのむ。腕がわなわな震える。震える腕の先から音が飛び出てきた。
「ンダダダダーン」
おお!なんと強烈な一打。ふたたび聴衆は息をのむ。
「ンダダダダーーーン」
第4番までの演奏も素晴らしかった。が、井上道義さん指揮による第5番は、冒
頭の有名なふたフレーズだけで我々を完全にわしづかみにした。それまでの音と
まるで違う。「運命」というニックネームにふさわしいスリリングな演奏が始
まった。
ンダダダダーンの後ささやくような弦楽器。はぎれのよい管楽器のアクセント。
怒濤のティンパニー。聞こえる音すべてが調和し実に安心して聴いていられる。
が、有名なフレーズが返ってくるたび、聴衆は氷のように体を固めた。あの妖気
漂うタクトで「ンダダダダーーーン」がちゃんと揃うのだろうか?という恐怖で
ある。ところがちゃんと合う。オケもプロ、さすがだ。一箇所だけトランペット
が飛び出したけど、他は完璧。マジックだ。
余談を許さない第1楽章と対照的な第2楽章のやすらぎ。美しい弦の音色が場内
いっぱい広がる。後ろ姿だけで、いかに井上さんが酔いしれるような表情で指揮
をしているイメージが浮かぶ。第3楽章は一転してきびしい雰囲気に立ち戻る。
この曲の注目はトリオ。低音楽器からはじまるフガートである。ここが好きで第
5を聴く人も少なくないだろう。この夜のオケのフガートは猛々しさの中に気品
が感じられる好演で気分が高揚させられる。木管のピアニシモをバックにさまよ
うヴァイオリン。クレッシェンドの助走でついに第4楽章へ突入。パワー炸裂の
高らかなハ長調。大爆発。音がたばになって遠くへとどろく。奏者たちと指揮者
渾身の強力な音への想いが広がっていく。私たちはステージの動きに目が釘付け
となり、金縛りにあったような状態でオーケストラの音色を浴びていた。思考は
停止し、ただ、ただこの交響曲フィナーレの世界を体全体で聴き入った。トラン
ペット、トロンボーン、ホルンの雄叫び。ティンパニーの打音。
最後の音の余韻が終わらぬうち、大喝采とブラボーの嵐。振り向いた井上さんは
エレガントな表情の笑みを浮かべる。コンマスと握手。腕をクロスさせ両てのひ
らを胸にあてたポーズで5階席までの客席を見上げ、感慨深げにおじぎをする。
度重なるカーテンコール。観客は席をたとうとしない。身震いさせられた。私に
とってこれまで最も興奮した生演奏の「5番」だった。
(その2へ続く)
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【私の聴いたCD、読んだ本】
http://www.musiker21.com/cdinfo.html
※ベートーヴェン交響曲と岩城さんの本『音の影』を加えました。
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【あとがき】
みなさまあけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
と少し遅めのごあいさつを兼ねて「クラシック音楽夜話」op.194を配信します。
今回は毎年恒例の「ベートーヴェン全交響曲演奏会2006」のレポート=その1
をお届けしました。もっと早く配信するつもりだったのですが、筆が(キーボード)
が進まず、ようやく形らしきものになってきました。
9人の指揮者による演奏という実に贅沢な試みでかなり満足度の高いコンサート
でした。それにしても指揮者によって同じオーケストラの音があれほど変わると
は驚きです。
まるで、超贅沢なディナーを食べているみたいなコンサート。5種のメインディ
ッシュが終わり、次は残りの4種。さて、どんな料理が運ばれてくるのでしょう。
では、op.195まで、お元気で。
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