2007.03.04
クラシック音楽夜話 Op.196
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クラシック音楽夜話 Op.196 2007年3月4日(日)
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聴いてはいけない歌〜なぜなら…涙がこぼれるから
Op.196 CONTENTS━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
1.再会〜北へ〜
2.「千の風になって」 新井満 訳詞・作曲
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1.再会
一年ぶりの札幌は、驚くほど雪が少なかった。全国的暖冬といわれる今年、去年
とは大違いだ。とはいえ、信州に比べれば格段の温度差。冷たい風が心地良い。
バスに乗り市内へ向かう。札幌最南端の地下鉄駅経由で執着バス停Aホテル。す
べてが懐かしい。ホテル前にあるバス停へ着くとグッドタイミングでバスが来た。
少しシャーベット状態になった道をザクザクと音をさせ坂を登り、実家にたどり
つく。
義姉に挨拶後、二階への階段を上ると母がドアから顔を出す。手術後相変わらず
調子がよくないというが、それでもいつもと変わらぬ声で迎えてくれる。
居間の横の小部屋の奥に茶色の仏壇があった。花がたむけられ、リンゴと父の
好きだったお茶が供えられていた。葬儀で使用した額はなぜか仏壇上方の壁に
かけてあり正面からは見えない。写真の正面に立ち顔をじっと見た。真面目な
顔、というより無表情にこちらを見ている顔は、確か私たちが結婚報告を兼ね
札幌を訪ねた時撮影した写真から取ったもの。結婚式はしないつもりだったが、
父たちが隠密に計画した簡素な結婚式と小さな披露宴の合間に、父母、兄夫婦
家族と共に撮影した唯一の記念写真だ。
父の遺骨は仏壇の横に置いてある。
「来年あたりには、墓を買ってやりたいけどな…」
牛の運搬の仕事で一年のほとんど留守にしつつ、それこそ馬車馬のように働い
ている兄は葬儀の後言った。その「来年」が既にやってきたのだが…。
心の中でつぶやいた。
「いいよ、兄貴。家に置いておけばいいさ。いつも家族と一緒じゃないか」
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一周忌には親戚だけ26名参列だった。とびっきり若いお坊さんが派手な衣装、
じゃなくて袈裟をまとい、読教である。発声法がどこか合唱的で親しみを感じ
た。その若いお坊さんがお経の後、こんな話をしてくれた。
お母さんが亡くなり、哀しみにくれた女の子が、お釈迦様のところに行き、
お願いしました。
「どうかお母さんを生き返らせてください。そのためにはどんなことでもします」
と頼みました。お釈迦様は、こう答えました。
「わかりました。では、家族の中に一人も死んだ人がいない家庭の庭の木の実
を持ってきてください。そうすればお母さんを生き返らせてあげましょう」
女の子はたくさんの家を訪問し
「ご家族の中に死んだ人がいないご家庭はありませんか」
と尋ねました。一軒一軒尋ね回りました。
でも、死んだ家族がいない家は一軒もありません。
途方にくれた女の子はお釈迦様のところへ落胆の表情で戻りました。
「死んだ家族がいない家は一軒もありません」
「そうです。人は必ず亡くなるのです。あなたがお母さんを思う気持ち、哀し
みはわかります。でも、誰だって同じ哀しみを経験してるのです。ですから、
亡くなったお母さんのことを大切に思いつつ、お母さんの分も、あなたが一所
懸命生きること。それが人に与えられた運命(さだめ)なのです」
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父の魂はどこにあるのだろう。
仏壇のところだろうか、遺骨の中だろうか。それとも実家の居間の、いつも自
分でいれたお茶をうまそうに飲んでいたテーブルの椅子に座っているのか。テ
レビの報道番組を聞きながら(父は目がほとんど見えなかった)、社会や政治
にぶつくさと文句をいったソファの上か。いや、それとも…。
東京へ帰る朝、母が指輪を差し出した。
「お父さんが身につけていたものだから、あんたが持っていて。お兄ちゃんも
あんたにあげたらいいい、っていってたから」
指輪に慣れていない私は指に少し違和感を感じたが、母に微笑みかけた。
「父さん。じゃあ、また来年来るね」
生真面目にこちらを見ている父の写真に別れを告げた。
玄関の下で、大きく腕を振ったその向こうに、小さな母がぼつりと立っていた。
澄み切った青空を見ながら、私はあの歌を口ずさんでみた…。
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2.「千の風になって」 新井満 訳詞・作曲
新井満さん訳詞作曲のこの歌の存在は数年前、テレビで知った。911事件の追悼
式で少女が朗読した詩ということで紹介された。新井さんはかけがえのない友人
の死に直面し、やるせない日々を送っていた頃、この詩と出会ったという。感動
した新井さんは自ら訳詞を手がけ、曲をつけて発表した。その番組の最後に、新
井さん自らの歌声を聞かせてくれた。フォークとも歌謡曲ともいえない、1970
年代にスキップしたような雰囲気の曲調。でも、感動的な原詩のアレンジによる
新井さんの詞は心打つ言葉があふれ、強烈な印象を私に残してくれた。
元の詩は作者不明ということで詳細は明らかにされていないが、次のサイトに、
詳しい情報が載っている。
http://www.mahoroba.ne.jp/~gonbe007/prof/1000winds.html
ある少女が戦争で母親と離ればなれになり、アメリカへ引き取られる。母親が
恋しくて落胆の日々を送っている少女に哀しい報せがやってくる。母はすでに
死んでしまったと。最愛の母を亡くした哀しみで彼女は泣き濡れる毎日を送っ
ていた。そんなに泣かないで、と、少女を引き取った女性は優しくいうのだが、
少女はこういう。
「だって、私はお母さんのお墓の前で祈ることもできないし、泣くこともでき
ないのよ」
と。
何もいってあげられない女性。でも、彼女は自分の気持ちを、目の前にある紙
に書きなぐった。それが、"Do not stand at my grave and weep"だった。
その詩を読んだ少女は、泣くのを止めた。女性に心から感謝の言葉を述べた。
「ありがとう。私はもう泣きません。そして、この詩を一生大切にします」
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年末の紅白歌合戦で秋川雅史さんが歌ったのがきっかけで、1月にオリコンの
CD販売枚数ランキングで1位に躍り出た「千の風になって」。以来3ケ月目に
なろうというのに今だ上位にランクされているこの現象に驚いている。
1月には、「なかなか、やるなぁ」と嬉しくなったものの、人気は長く続かな
いだろうと予測した。紅白効果(木村さんの朗読も大きいが…)による一過性
の人気じゃないだろうか、と。
ところが、その後も順位こそ落としたものの、上位のままだ。昨日オリコンを
チェックしたところ以下のような状況なのだ。
★シングルランキング
(「千の風になって」秋川雅史)
デイリー 4位(3月1日付)
週間 2位(3月5日付)
月間 2位(2月度)
★アルバムランキング
(「威風堂々」秋川雅史)
月間 16位(2月度)
アルバムランキング20位入りは2月が初。発売は去年9月だから、明らかに
「千の風になって」効果だが、「千の風になって」という話題の歌だけでなく、
秋川雅史さんの歌声を聴きたくなった、つまりファンが増えた証でもある。
なんでも、シングルの方は、米良美一さんが歌った「もののけ姫」の販売枚数
を上回りクラシック系シングルではトップになったというから驚きだ。かたや
人気映画の主題曲。映画を観た人の数を考えれば人気が出るのはわかる。「千
の風になって」には大々的なプロモーションもなければタイアップもない。そ
れがこの売れ行きだから、レコード業界も驚いているだろう。
面白いのは、Amazonにおけるジャンル分けだ。ご存じの通りAmazonには、
ポピュラー音楽とクラシック音楽と2種に区別されているが、秋川さんのCDは
クラシック音楽ジャンルである。かたや、作者新井満さんのCDはポピュラー音
楽ジャンル。まあ、聴き手は歌そのものが好きなのであり、ジャンル分けなん
かどーでもよい。私の「疑問」もゴミ箱へ捨てるべきだ(笑)。でも、このよ
うに、ジャンル分けに困る作品、つまりボーダーレスな歌の人気が出ると、訳
もなく嬉しくなってくる。「クラシック音楽夜話」ではクラシックという題名を
使っているが、人を感動させる音楽に境界はない、というのが私の基本的な考
えだから。
ところで、Amazonで見つけたが、菅原洋一さんのCD「千の風になって〜知り
たくないの」も4月下旬に出るらしい。既にいろいろな歌手が歌い、オーケス
トラ曲や合唱曲としてアレンジされている。近年めずらしい作品である。
作詞作曲者新井満さん自らの歌をテレビで聴いたことのある私は、秋川さんが
この歌を歌ったと知り実は、驚いた。私は大晦日、東京文化会館にいたので、
紅白歌合戦を観ることができなかったのでその感動を経験できなかったのだ。
新井満さんの小椋佳さん風語り歌風歌声はしみじみと感動的だ。2001年のオリ
ジナルバージョンが特に良い。ピアノ伴奏をバックに、本当に語るように歌っ
ている。これ、ギターの弾き語りにするともっといいんじゃなかろうか。ステー
ジ照明を暗くしてしーんと静まった観客を前に歌われると多くの人は聴き入り
涙ぐむだろう。
だから、この歌を、楽団バックに直立不動でクラシック系歌手が朗々と歌うな
んて似合うのだろうか、と直感的に思った。それに、クラシック系発声法は、
哀しいが一般的にあまり好まれていない。こういう正当派(というと語弊があ
るが、正しい姿勢で、訓練された発声法で、きちんとした日本語を発音して歌
うのは、やはり正当派と呼びたい)の歌が現代日本人に受け入れられるか激し
く疑問を感じた。
けれど、私の危惧なんかよそに、50万人以上の人々が自らお金を出し、このCD
を買い、聴いているのだ。「君の予想は外れたねぇ〜、フフフフフ」というう
すら笑いが聞こえてくるようだ。
歌のすばらしさはいうに及ばないが、人を惹きつける何かがこのCDにはある。
それはいったい何だろうか?客観的視点でこの歌と向かいたいと思った。
ということで、大枚はたいて(笑)実は、本日CDを買ってきたのだ。
売れに売れている秋川雅史さんのCD、そしてオリジナルバージョン新井満さん
のCD、共に1,000円也。
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秋川さんのヴァージョンのジャケットは、筆文字縦組みで「千の風になって」
というタイトルが置かれ、左下そろえ細明朝体で「秋川雅史」その横にゴシッ
ク体の英語表記AKIKAWA MASAUMI。バックに緑の丘にぽつんとたたずむ優
しげな木、右向こうには森がある。そして、青空と白い雲が印象的な色合いだ
。写真の面積は全体の40パーセント程度であり、その周りの白い空間がなん
ともいえない清涼感を漂わせている。ジャケット裏は遠くを見つめる秋川さん
の横顔、その上にぼかしのかかった青空が添えてある。
本文は歌詞「千の風になって」(日本語と英文※オリジナル)とカップリング
「リンゴ追分」。解説など野暮なものはない。あ、国内盤にはそういうものは
ありませんか。ここのところクラシック系CDしか買っていないので忘れてい
ました。CD自体も白地で盤面右にジャケットと同じタイトルだけ、というシ
ンプルなもの。
CDを包むビニールの上に「これが決定盤」というシールが貼ってある。
また、秋川さん編曲によるコーラス譜(ピアノ伴奏付き)も封入されている。
なぜか女声三部コーラス用。混声四部合唱はどうした!なぜ男声四部合唱でな
いんだ。差別ではないか?(笑)
収録は「千の風になって」、「千の風になって(カラオケバージョン)、「リ
ンゴ追分」の三曲。カラオケバージョンをバックに歌うのはいいが、どうして
も秋山さんの朗々とした歌声と比べられるから自信のある方のみの御用達(笑)。
ふだんは私はイージーリスニング的に聴き、業務が深夜に及んだ後の帰り道、
真夜中の路上で誰も聞かれないコンディションの中で歌ってみよう。
既に何度も繰り返し聴いている。
秋川さんの声は、澄み切っている。変な癖もなく、耳をなごませてくれる。特
に日本語が美しい。クラシック系歌手による日本語は皆美しいのだが、秋川さ
んにの日本語はとても明瞭であり、また、さわやかだ。
直立不動で、かしこまった雰囲気がないでもないけれど、この個人的感情を押
さえ、どこか神の声のように聞こえるべき歌にはむしろふさわしい。いや、神
というよりも、命といった方がよいかもしれない。女性も男性も、人間も動物
も虫も、植物も空も海も川も土など区別はなく、命あるすべてのものが語りか
けてくる。そんなこの歌にぴったりの声だ。
テノールである。テノールはときには少し女性的歌声に聞こえる歌手もいる。
が、秋川さんはきわめて男性的で凛々しい。カップリング曲「リンゴ追分」な
どは本当に力強いが、考えてみれば「千の風になって」も静かな力強さが感じ
られる。ひかえめなピアノも、オーケストラも、この歌を充分引き立てている。
CDシングルなどめったに買うことはないが、何度聴いても飽きないこの逸品、
買って本当に良かった。
最後に、作者新井満さんのCDについてもひと言。
ジャケットのビニールに「元祖オリジナル盤〜千の風現象はこの一枚から始ま
った!」というシールが貼ってある。おお!秋川さんバージョンに挑戦状を叩
きつけているようなコピーですな、頼もしい。
私はこちらのバージョンも大好きだ。新井さんの歌声は、親しみ深く、時に音
程をはずし、語りかけるように歌っているのが好きだ。朗読バージョンもあり、
また本家本元2001年バージョンもある。2001年版は、少人数相手に、たと
えば、こじんまりとしたバーなどで、新井さんが目の前で歌っている光景を思い
浮かべる。私は、秋川さんバージョンよりも、こちらの方が涙腺を緩くなるので、
聴く場所を選ばねばならない。要注意。
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【私が聴いたCD】
「千の風になって」 訳詞・作曲:新井満 歌:秋川雅史
TECI103 テイチクエンタテインメント
新井満「千の風になって」
PCCA-01968
ポニー・キャニオン
(オーケストラバージョン、朗読バージョン、カラオケバージョン、2001
オリジナルバージョン収録)
上記へのリンクはこちら
http://www.musiker21.com/cdinfo.html
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【あとがき】
皆様、ご無沙汰しております。一ケ月半ぶりの配信です。
2月下旬、北海道へ行ってきました。父の一周忌です。懐かしい顔に再会でき
たのはもちろん嬉しかったのですが、私は札幌という故郷の空気を吸い、空を
見上げることができたことに、しみじみと幸せを感じました。できればその思い
をすぐにblogやメルマガで伝えたかったけど、あわただしい時間の中、帰って
きてからの多忙な毎日で、思うとおりにはいきません。ということで、久々の
配信はきわめて個人色の強い内容になりました。
ここのところ、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲だけを聴いています。また、ベー
トーヴェン・ネタか、と愛想をつかされる恐れもあり、しばらく書くテーマに
迷っていたのも事実。でも、もう大丈夫。またいつもの配信に戻れそうです。
もう春のきざしですね。では、op.197まで、お元気で。
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