2007.06.03
クラシック音楽夜話 Op.202〜バックハウス
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クラシック音楽夜話 Op.202 2007年6月3日(日)
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揺れぬ想い
Op.202 CONTENTS━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
1.私がバックハウスでしかベートーヴェンを聴かない理由
2.シューベルト 「即興曲」D.935-2
【今週のPODCAST】
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1.私がバックハウスでしかベートーヴェンを聴かない理由
本家サイト「musikerの音楽夜話」(http://www.musiker21.com)掲載プロフ
ィールに書いてあるとおり、私の一番お気に入りのピアニストはバックハウス
です。有名なベートーヴェン弾き。1969年、今から38年前に亡くなっている
のですが、心の中で永遠に生き続けています。録音を聴くたび、とてつもなく
新鮮な気持ちになります。
バックハウス演奏の「ベートーヴェン・ピアノ・ソナタ全集」は私の宝です。
また、バイブルのようなもの。日々さまざまな音楽を聴きますが、一定期間経
過すると、無性にベートーヴェンのピアノソナタが聴きたくなり全集を引っ張
り出します。その時、その時に、気まぐれに思いついた一曲から始め順に聴き
ます。ちなみに、今日は散歩時、第2番から6番まで聴きました。
実は、ベートーヴェン全集版に収録されているピアノ・ソナタ、つまり、バッ
クハウス以外のピアニストによるCDも持っています。しかし、数回聴いてみ
たけれど、好みに合いません。ですから、結局バックハウスに戻るのです。も
ったいない話ですが(笑)仕方ありません。このごろは、ベートーヴェンのピ
アノソナタを弾くのはバックハウスだけでよい、とさえ思っています。ははは、
爆弾発言ですな。あくまで私の場合ですよ、もちろん。
他のピアニストの演奏も素晴らしいことは重々認めつつ、それでもバックハウ
スを聴き続ける理由はどこにあるのかといいますと…。
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あっさりと、さらりとしているんですね。清流、水のような酒。もちろん味わ
えば深みがありキレがよい。なんだかビールの宣伝文句みたいですね。べった
りとしたベートーヴェンピアノソナタの演奏は悪酔いしそうで苦手なのです。
8番《悲愴》や23番《熱情》などをベッタリと弾きたくなる気はわからないで
もないのですが、それでも、過度な感情移入に出くわすと「申し訳ない、失礼
いたしまーす」と逃げたくなります。他の曲ならなおさら。だいぶ前、聴いた
あるピアニストが録音した32番第2楽章などは、じれったくて気持ち悪くて仕
方がなかった経験があります。
ベートーヴェンのピアノ曲は、弾き手の過度な個性や感情移入を必要としない
音楽ではないだろうか、というのが私の意見です。なぜなら、作品の随所に彼の
意図が込められていますから。極論をいえば、弾き手の個性や感情などなくて
も、正確にさえ弾けば自然に「ベートーヴェンによって感情移入された」演奏
になるからです。譜面そのものですでに完成されているんですね。
ハイドンやモーツァルトはそうはいきません。たとえばmidi等で作られた演奏
を聴く。ハイドンやモーツァルトの曲を聴くとなんとも間が抜けた感じに聞こ
えます。正確に弾くだけではいけない、音ひとつひとつに何か微妙なニュアン
ス、楽譜に書かれていない何らかの解釈を、演奏家が吹き込んで弾かなれなけ
れば、聞けたものではありません。これが古典派音楽の奥深さであり、面白さ
でもあると思います。
ところが、ベートーヴェンの作品は、極論すれば、この種の職人芸をさほど必
要としません。これは、彼が自身の作品を、好き勝手に演奏されることを嫌っ
たからです。演奏家独自の解釈の余地を残さぬよう、強弱やアーティキュレー
ションだけにとどまらず、音符そのものにもいろいろ意志を吹き込んだ。言い
方を変えると細工したのですね。楽器の進化の影響も重なり、譜面通り弾けば
それなり演奏になる曲。だから、midiデータの演奏でもそこそこの演奏に聞こ
えるのでしょう。
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では、ベートーヴェンの曲を弾く方が、簡単なのか?という疑問が生ずるでし
ょうね。ええ、モーツァルトやハイドンの曲に比べ、簡単だと思います。でも、
早合点してはいけません(笑)。ある程度のテクニックがあれば、という但し
書き付きです。さきほど「正確に弾けば」と条件をつけました。そして、正確
に弾けるようになるまでの敷居は思いの外高いのです。
演奏にランク付けなんて嫌いですが、話をわかりやすくするため、仮にピアニ
ストがE〜Aと五段階レベルに分けられるとしましょう。ハイドン、モーツァル
トはDでも弾けるようになります。ただし、聴くに堪えられる演奏はCでは無理
でしょう。BでもAでも難しいかも。一方、EとDレベルでベートーヴェンのソナ
タは弾けません。けれど、Cレベルくらいに弾ければ聴くに堪えられる演奏にな
ります。Bだと誰もが「おお!」と驚くレベルになれる。でも、そこからAへ到
達するのはまた至難の業で、ごく限られたピアニストだけが到達できるです。
(この話、延々と続きそうなので、今日はこの辺りでやめておきましょう。日を
改めて書きます。また、どの作曲家にもさまざまな難易度の曲があります。ベー
トーヴェンのピアノソナタにも簡単なものもありますし、モーツァルトにも難
しい曲があります)
なんだか雲をつかむような話になってきました。弾き手の感情移入の話でした
ね。
弾き手の個性を必要としないベートーヴェンのピアノ・ソナタ。しかし、Aク
ラス演奏家になったピアニストは、どうするのでしょう。ここからが問題です。
ベートーヴェンのピアノ・ソナタ弾くピアニストは世界に大勢います。録音も
多い。Aクラスになった彼らが自分というものを、つまり個性を出すには、二
通りの道があります。ひとつは、奏者自身による禁断の(笑)感情移入を加え
る。かたや頑固に感情移入を拒みひたすら淡々と弾き続ける。これもある意味
強烈な個性です。後者の典型がバックハウスですね。
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ナクソスのサイトでバックハウスの短い伝記を見つけました。そこにはこんな
記述があります。
※原文英語。訳:musiker
バックハウス初期のレパートリーはショパン、リスト、シューマン、ブ
ラームス、ベートーヴェンが基本だった。しかし、1930年頃から、歴
史的相同プログラムへと変わっていく。1939年クィーンズホールにお
けるリサイタルでは3曲。ベートーヴェン「ディアベッリ変奏曲」op.
120、バッハ「ゴルトベルク変奏曲」BWV988、ブラームス「パガニー
ニのテーマによる変奏曲」op.35だった。バックハウスのピアノ演奏の
特徴は、驚嘆すべき完璧な技術と正確な演奏法であり、しかも個性を内
に秘め続けた点にある。第二次世界大戦後の録音ではこういう姿勢がさ
らに固まっていく。レパートリーからショパンとリストを外し、ドイツ
古典派作曲家の作品に対する関心を深めていった。演奏はますますシン
プルで情緒を排除したものになっていった。
本人に確かめもせず、ここまで断言していいの!と思うけれど、なんとなく納
得させられます。そして、彼の修練についての記述もありました。
バックハウスは高齢まで高い技術を保ち続けた。ショパンの「練習曲」を
少なくとも1950年代終わり頃まで練習し続けた。バックハウスは「(シ
ョパン)「練習曲」のスケールはピアノを弾く技術の基本中の基本です。
その基本を最適の状態に保つため週二回の練習を欠かさないのです」と
述べている。
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誤解のないようにいっておきますが、では、バックハウスの演奏が、無味乾燥
なものなのか、といえばそんなことは全くないのです。よく聴くと、彼は彼な
りの情熱をその演奏に注いでいるのがわかります。鉄仮面の下で彼は喜怒哀楽
を、指に腕に、いや全身に込めてライブで演奏し、また、レコード録音に臨ん
だのです。彼の演奏を何度も聴くと、きっとわかっていただけることでしょう。
しょせん、個性を殺すなんて不可能なのです。まあ、ベートーヴェンもそこは
重々承知の上、それでも「俺の音楽はこのように弾け!」というわがままなメ
ッセージを音楽に残したのかもしれません。個性と非個性は紙一重ですからね。
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2.シューベルト 即興曲」D.935-2
バックハウスのコンサートで、アンコールにお決まりの一曲があります。それ
はシューベルトの「即興曲」D.935-2でした。私の手元にライヴ版CDは二種し
かないので断定はできません。でも、彼はアンコールでこの素朴な作品を弾き、
コンサートを終えていたようです。
1969年6月28日の最後のコンサートもそうでした。バックハウスは当日、ベー
トーヴェンのピアノ・ソナタ第18番を第3楽章まで弾いて演奏を止めます。4
楽章を弾けないほど心臓の具合が悪くなったのでした。いったん控え室に引っ込
んだ彼は演奏を取りやめるよう医者にいわれます。しかし、彼は1000人の聴衆
のため、再びステージに出てきます。そして、プログラムを変更する旨のアナウ
ンスの後、シューマンの作品を二曲弾きます。
終了後、バックハウスが病気のためコンサート中止する旨のアナウンスがあり、
最後に弾いたのがシューベルトの「即興曲」D.935-2です。二日前26日のアン
コールと同じ曲。彼らしく、いつもと変わらぬあっさりとしたシューベルトで
した。曲が終わると、きっと彼は聴衆に向かい深々とおじぎをしたでしょう。
感動した聴衆たちの拍手喝采は、いつまでもやまなかったに違いありません。
そして、この演奏会から一週間後、7月5日、バックハウスはこの世を去ります。
シューベルト「即興曲」は真に彼の最後の演奏曲となってしまったのです。
久しぶりにこのコンサートのCDを聴きました。いつも以上に、言葉では尽くせ
ない深い感動がこみあげてきます。
D.935-2はシューベルト死の前年に書き上げた2つの「即興曲」のひとつの第2
曲です。重厚な和音を伴うシンプルなメロディが美しい、いかにもシューベルト
という感じの曲ですね。曲想は一見ワンパターンにも思えるのですが、和音を構
成する低音が微妙に変化し音の色彩に変化を与える効果が抜群。トリオの分散和
音のなめらかさと和音の移り変わりの妙が不思議な雰囲気を醸し出しています。
ふと思います。なぜバックハウスはこの「即興曲」を愛したのでしょう。その
答えを確かめるため、実際この曲を弾いてみたくなりましたが、ピアノがあり
ません(笑)。仕方がないので、finaleで楽譜を作成してみました。PODCAST
にアップしてみましたので、暇つぶしに聴いてみてください。気に入ったらぜ
ひプロのピアニストのCDを聴いてくださいね。
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★私の聴いたCD
POCL-2659/60
ヴィルヘルム・バックハウス 最後の演奏会
WILHELM BACKHAUS SEIN LETZTES KONZERT
現行発売CD情報
UCCD-9185/6
http://www.universal-music.co.jp/classics/release/manthly/new0403.html
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【今週のPODCAST】
ー最新配信番組ー
◆5月30日配信
シューベルト 即興曲 D.935-2
今号の2で触れた曲を音源にしてみました。
◆5月26日配信
永遠のピアニスト、バックハウス
バックハウスへの私musikerの想いを語りました。
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過去の番組ラインアップ
◆5月5日配信
エピソードop.201〜今号に関連の話題を
モーツァルト フルート四重奏曲 K.285 第3楽章
◆5月3日配信
モーツァルト フルート四重奏曲 K.285 第2楽章
※iPODやiTUNESをご利用でない方も、次のURLでお楽しみいただけます。
ぜひどうぞ。
http://musiker21.seesaa.net
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【私の聴いたCDや本】
http://www.musiker21.com/cdinfo.html
※本誌で取り上げた作品のCDや書籍などを掲載しています。
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【あとがき】
まぐまぐの『女子まぐ』オフィシャルマガジン『ウィークリー女子まぐ』「今
週のおすすめメルマガ」コーナーにこの「クラシック音楽夜話」が掲載されま
した。女子まぐサイトのほうでも「今週のおすすめメルマガ」として1週間掲
載されています。
http://woman.mag2.com/
一ケ月のご無沙汰になってしまいました。読者の皆さん、お待たせしました!
そして、新しい読者のみなさま、ようこそ!
6月下旬にバックハウスの命日がやってくるので、今日はバックハウスづくし
でした。「また、バックハウスの話題か…」と長い読者の皆様はあきれている
かもしれませんね。85歳、その死の5日前まで現役ピアニストであり続けた、
「揺るぎない音楽への想い」に感動せずにはいられません。
シューベルトの「即興曲」を聴いていて、無性にまたピアノを弾きたくなりま
した。定期的にこの思いは訪れるようです。近々「ピアノを弾きたい3」を書
くつもりです。
※以前書いた「ピアノを弾きたい1」はこちらでお読みいただけます。
http://www.musiker21.com/clayawa003_1.html
あと、最後にひとこと。先週は、一人の女性シンガーの突然の訃報で大ショッ
クでした。ジャンルは違うけれど「人に希望を与える歌を歌い続けたい」とい
う「揺るぎない心」をずっと応援し続けたかっただけに残念です。でも彼女の
歌った歌は永遠に聴き継がれることでしょう。坂井泉水さん、どうぞ安らかに…。
では、op.203まで、ごきげんよう。
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メールマガジン「クラシック音楽夜話」
構成・文:musiker
◆webサイト「musikerの音楽夜話」
http://www.musiker21.com
◆PODCAST「クラシック音楽夜話 音声版」
http://musiker21.seesaa.net/
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