2008.02.11
クラシック音楽夜話 Op.212
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クラシック音楽夜話 Op.212 2008年2月11日(月)
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あなたに変しています(2)
Op.212 CONTENTS━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
1.魅力あふれる文章との出会い〜白石美雪「旬の音 旬の演奏家」
2.魅力あふれる声との出会い〜森麻季「ピエ・イエス〜祈りをこめて」
3.モーツァルト モテット「踊れ、喜べ」
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1.魅力あふれる文章との出会い〜白石美雪「旬の音 旬の演奏家」
恋をしてしまった。
またか!と、本誌を長くご購読いただいている読者の皆様は、あきれることだ
ろう。数年前、同じことを書いた記憶がある。だから(2)なのである。
今度の相手は直接の面識のない遠い存在である。そのお顔を拝見したのは、地
元の新聞の記事であった。音楽評論記事で彼女のことに触れていた。でかでか
と写真添えである。誰もが目を奪われたはずである。音楽に興味がない人でも、
いわゆるその〜美人に興味がない人以外は「おお!」と思うだろう。え?思わ
ないって?しかし、ここで反論に屈しては一ケ月半ぶりのメルマガのお話が続
かないから、ここは強引に私と同じ感覚の方が大勢を占めると仮定し話を進め
よう。
目は奪われた(鹿男の話題ではありません)。
しかし、実は最初の感想はやや批判的なものだった。
「けっ!また美人○○か。音楽は容姿ではない、音楽の実力だ。どうも最近、
ビジュアル系クラシック演奏家の露出が多すぎるな。どうせたいしたもんで
はないのだろう」
失礼な話かもしれない。が、これが正直な感想であった。
そして、いつも
「写真で目を惹こうなどという実に姑息な手段には絶対乗せられないぞ」
という強靱な意志でその種の記事を素通りするのである、だいたい10パーセ
ントの確率だ。せめて3割に近づけたいと思ってはいるのだが。
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が、その日は少し違った。私は写真ではなく、著者の名前が気になった。いや、
惹かれたといってもよい。白石美雪。音楽評論家で名前だけはどこかで見た記
憶があるが、第一印象は「美しい名だ〜」であった。だが、ここでも私は天の
邪鬼の感覚が出てくるのである。いくら美しい名でも、書かれた文章内容には
関係ない、と。ここで素通りしなければならないのだが、うっかり読んでしまっ
た。なにしろ素通り確率10パーセントですから。
記事は、白石美雪さん執筆による「旬の音 旬の演奏家」。月一回(水)の連
載で、なんと1999年から続いているのだが、私は地元の新聞を購読していな
いため、読むのはこの日初めてである。その日紹介されたのはソプラノ歌手の
森麻季さん。写真も森さんであった。最新CDのジャケットと同じ写真である。
1月行われた演奏会の模様をレポートしながら森さんというひとりの歌手に焦
点をあてていた。
いったいどんな文章かというと…
「豪華おせち料理のような(プログラム)」という表現が出てきた。
オーケストラ・アンサンブル金沢の演奏会(1月11日・於:横浜みなとみらい
ホール)プログラムが、箏(そう)合奏との共演、現代曲の初演、チャイコフ
スキー、ヨハン・シュトラウス二世のワルツと、実に多彩のなプログラムだっ
たことをおせち料理に例えるなんて季節もぴったりであり、実に「うまい!」
と思う。読んでいて、私は演奏会が聴きたくて聴きたくてよだれが出てくる気
がしたのである。本当にうまそうだ(金沢の地酒があればもっといい)。
森さんについての表現もにくい。森さんがその夜歌うのはわずか三曲。白石さ
んはこう書いた。
(以下「旬の音、旬の演奏家」(『信濃毎日新聞』平成20年1月16日朝刊掲載)
からの引用)
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(引用)気を抜けばほんの余興といった感じになりかねない。ところが、彼女
は曲ごとに別人のように表情をかえながら、きらめく清純な声を楽しませ…
(以下略)(引用終)
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アンコール山田耕筰「からたちの花」では、一節ごとに前後左右すべての客席
へ体を向けて語りかけるように歌ったという。この箇所でも、
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(引用)とびっきりのサービス精神に加えて、職人技と言ってよい細やかな歌
唱。彼女はまさに当夜の真打だった。(引用終)
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森さんが歌う姿が目に浮かんでくるではないか。
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森さんは、ヨーロッパ留学中に、声が小さいことを時々指摘されたという。
「声は質より量だ」とか「三十キロ太りなさい」などと言われたりしたらしい。
精神的に相当落ち込みつらい日々を送った彼女だった。
しかし、98年のドミンゴ世界オペラコンテストで優勝してから転機が訪れた。
ドミンゴ氏は彼女をこう励ました。
「あなたの透明感のある特別な声の質をたいせつにしなさい」
森さんは一生歌い続けようと決意した。
等々…。
ここまでで、文はまだ7割ほどの量でありまだ残っているのに、私は無性に森
麻季さんの歌が聴きたくて聴きたくてたまらなくなったのである。美しいお名
前に惹かれて読むという天の邪鬼の風上にもおけない不本意な行為(笑)は、
私に新たな音楽家との出会うきっかけをプレゼントしてくれた。
私はすっかり白石美雪さんという音楽評論家の文章に惚れた。ファンになった。
白石さんの書いたものを手当たり次第読んでみたい、と思った。
そして、森麻季さんというソプラノ歌手にも惚れ…。いや、肝心の彼女の歌声
を聴いていないのである。惚れるのはまだ早い。まあ、記事を読んだ時点です
でに50パーセント以上惚れモードに入っていたのだが、本気モードに入る前に、
CDを買うぞ、と心に決めていたのである。
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2.魅力あふれる声との出会い〜森麻季「ピエ・イエス〜祈りをこめて」
月末、給料が出たその日の帰りにCD店に立ち寄った。いつもなら通販を利用す
るのだが、旬の日本人音楽家のCDだから、品数の少ない地元の書店のCD売り場
にも「ひょっとして」在庫がある可能性もあるだろう、と。予想は的中し、本当
にあったのである。3種あったが、最新CD「ピエ・イエス」を買った。「透明感
あふれる」と評判の声を確かめるには宗教曲に限る、と思ったのである。
その日は寒空の中徒歩で帰宅だった。約45分間、歩きながらiPODで他の音楽を
聴く気になれなかった。早く森さんの歌声を聴きたいからである。ワクワクしな
がら、家路を急ぐ。なかなかおつな気分である。
家に着くやいなや、CDケースのビニール包装をもどかしげに開け(それにして
もあのキャラメル包装はなんて開けにくいのだ。いつもイライラしながら開け
るのは私だけだろうか)、バッファローのDVDドライブに入れた。iTUNESが起
動し、そのままライブラリに追加する。しかし、私はiTUNESに取り込まれるMP4
形式の圧縮データではなく、CDの音を直接聴いた。
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モーツァルトのモテット「踊れ、喜べ」。私が初めて買ったモーツァルトのLP
に収録されていた作品で、なじみ深い歌。ちょっとこもり気味に聞こえる弦楽
器の前奏の後聞こえてきた森さんの歌声は、まさに私の期待通りだった。
しなやかで艶のあるフレージング、クリアなリズムと発音。冬の星空のような
清らか澄み切った声。宗教曲ということで極力ビブラートを押さえているのだ
が、ビブラートなんかいらない魅力あふれる声である。Amazonの購入者コメ
ント、さまざまな方のブログなどを読むと、彼女の声にベタ誉めの方々が多い
ことはあらかじめ調べて知っていた。論より証拠。CDを聴いてたちまち、私は
多くのファンたちとその感動を共有した。
だが、天の邪鬼の私。この熱は単に一過性のものではないか、と疑ってみた。
宗教曲だけではなく、歌曲やオペラも聴いてみなければ、彼女の魅力はまだわ
からない。といっても、彼女が出演したドレスデン国立歌劇場公演は昨年。正
月のNHKのコンサート模様は見逃した。リサイタルが2月にあるのだが、平日
なので遠方へは行けない。
ならば、ここはインターネットである。デリケートな問題があるので詳細は書
かない。が、PCユーザーであれば、誰もが知っているサイトで私は森麻季さん
の映像を観た。オペラのアリア、日本歌曲。素晴らしい。宗教曲とは全く違っ
た表情を見せる、いや魅せる彼女に虜にさせられた。
かくして、私は本当に彼女の歌声に惚れたのである、今度こそ100パーセント。
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3.モーツァルト モテット「踊れ、喜べ」 K165 ヘ長調
W.A.Mozart Exsulate, jubilate, K165, F-dur
モーツァルトの宗教曲はたくさんあるが、この曲は非常にポピュラーな部類で
ある。ソプラノ歌手の定番レパートリーであり、多くの歌手たちが挑戦する。
しかし日本に限らず世界でも成功している歌手はごくわずかといって良いだろ
う。声を楽器のように扱うフレーズが多く、声楽曲というよりも協奏曲に近い
難易度の高い作品だ。しかも、技術をひけらかすだけではなく、人間の声だけ
がもつ魅力を聴かせる。とはいえ、宗教曲であるから、過度な感情移入は禁物。
これみよがしではない、気品溢れる「美」がなければならないのである。「美」
といっても、基準は古今東西さまざまであるし、美人美男の基準も時代や地域
により違うが、この音楽は教会という限られた空間・世界の中で、求められる
「控えめ」な美が要求される。だから難しいのである。
モーツァルトはこの曲を1773年1月16日にミラノで作曲した。カストラート
歌手(虚勢された男のソプラノ。恐ろしい話だが現在は存在しない)のために
書いたという。カストラート歌手は男の体力をもつソプラノ歌手である。この
曲が通常の教会向けの作品とは違う、パワフルでドラマチックな音楽に仕上げ
られていること。強靱な持久力と、しかも美しさをも要求される、とんでもない
曲が出来た背景が垣間見られるではないか。
宗教曲のはずなのに、高度な歌唱技巧が要求され構成もドラマチックな要素が
あるため、近年は演奏会用プログラムとして頻繁に取り上げられる。テクニッ
クを強調する、あるいは劇的に仕立て上げようと意気込むなど、勘違いの演奏
も多々あるようだ。先に述べた「控えめ」な美を感じられる演奏のできる歌手
に出会う確率はかなり低い。しかし、まさか、その低確率に遭遇することがで
きたなんて。しかも、日本人歌手とは!もちろん、森さんのことです。
森麻季さんの最新CD「ピエ・イエス」では第1〜3曲に収録されているこの曲。
トップにもってきただけあり、CDの中で最も輝いた演奏になっている。これま
でいろいろ聴いてきた私の耳にも、ベストに入れたい素晴らしい歌声だ。
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【第1楽章】
(訳詞。属啓成著「モーツァルト」第3巻120ページより転載。以下同)
踊れ、喜べ、幸いなる魂
妙(たえ)なる歌を歌い、
その歌に答え、われとともに天を讃美しよう
典型的モーツァルトの協奏曲同様長い前奏がアレグロで奏でられた後、喜びあ
ふれるソプラノの高音が聞こえてくる。長い息の要求されるフレーズ。木管楽
器とソプラノとの呼応、小刻みな音の粒との絡み合いがとても美しい。トリル、
カデンツァなど、まさに声が協奏曲のソロ楽器のようだ。
【第2楽章】
格好いいレチタティーヴォの後、アンダンテ。ゆったりとしたまたもや長い前
奏の後はじまる歌声は、オペラのアリアのように艶やか。豊穣な大地と命を思
わせるソプラノのメロディと管弦楽に聴き惚れる。
(訳詞)
童貞の元后、われらに平和を与え給え
嘆きの心を慰めさせたまえ
【第3楽章】
アレルヤ。超といってもよい有名な曲である。第2楽章の終わりで突然転調し、
リタルダンドの後、合間なしに前奏が始まる。「アレルヤ」を舌をべっとり
と歯茎にあて重めに発音する歌手が多い中、森さんは極端軽めに短めにやさし
く発音している。快活なアレグロ、音の粒の連なりによる、モーツァルトおな
じみのフレーズが軽やかに広がっていく。
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【私の聴いたCD】
AVCL-25182
アルバム「ピエ・イエス〜祈りをこめて」
◆収録曲
モーツァルト
モテット「エクスルターテ・ユビラーテ(喜べ躍れ、幸いなる魂よ)」K.165
ハ短調ミサ曲K.427よりアリア「聖霊によって処女マリアより御体を受け」
同「わたしたちは主をほめ」
ハイドン:
オラトリオ《天地創造》よりアリア「今や野はさわやかな緑を」
「力強い翼を広げて」
バッハ:
《マタイ受難曲》よりアリア「愛ゆえに主は死にたもう」
《ヨハネ受難曲》よりアリア「溶けて流れよ、わが心よ」
フォーレ:
レクイエム(1893年版=小オーケストラ版)よりピエ・イエス
フランク:
天使の糧
◆演奏
森麻季(ソプラノ)
金聖響(指揮)
オーケストラ・アンサンブル金沢
録音:2007年7月10日~13日 石川県立音楽堂(金沢市)
※SACDとのハイブリッド盤だからでしょうか、3,000円とやや高めの価格設定です。
CDのリンクはこちらをご利用ください
http://www.musiker21.com/cdinfo.html
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【今週のPODCAST】
ー最新配信番組ー
◆2月11日
宗教曲と森麻季さんの歌声
◆12月30日配信
ベートーヴェンの第九を語る
◆12月9日配信
エピソードop.210 モーツァルト ピアノ協奏曲について
◆11月4日配信
エピソード op.209 ハイドンの交響曲について
※iPODやiTUNESをご利用でない方も、次のURLでお楽しみいただけます。
ぜひどうぞ。
http://musiker21.seesaa.net
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【私の聴いたCDや本】
http://www.musiker21.com/cdinfo.html
※本誌で取り上げた作品のCDや書籍などを掲載しています。
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【あとがき】
みなさんご無沙汰しております。お元気でお過ごしでしょうか。
新年号と呼ぶには、とうに正月を越し、バレンタインデー近くになってしまい
ました。今年こそは昨年よりも配信数を多く、と思っていたのにはじめからつ
まづきましたね。今年もよろしくお願いいたします。
大晦日の弦楽四重奏曲演奏会レポートは「ベートーヴェン音楽夜話」に書いた
ので、本誌では特集しませんが、今後別の観点から弦楽四重奏曲について書い
ていくつもりです。
★「ベートーヴェン音楽夜話」バックナンバー
http://archive.mag2.com/0000105739/index.html
今日は、ソプラノ歌手の森麻季さんの話題を中心に、感動した音楽評論記事、
モーツァルトの「踊れ、喜べ」について書きました。素晴らしい歌手は大勢い
ることは知っていますが、心底惚れ込んだソプラノ歌手は森さんが初めてです。
しばらくこの熱は冷めないでしょう(照れ笑)。
文章を書くのは久々でした。エンジンをかけなければいけませんね。次号はぜ
ひ間隔をあけずに配信したいものです。次号では、フランクの「ヴァイオリン
とピアノのためのソナタ」を取り上げることになると思います。
では、op.213で、お目にかかりましょう。
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構成・文:musiker
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