2008.06.01
クラシック音楽夜話 Op.213
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クラシック音楽夜話 Op.213 2008年6月1日(日)
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止まっていた砂時計は動き出した
Op.213 CONTENTS━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
1.プロローグ
2.横山幸雄さんの演奏との出会い
3.フランク ヴァイオリン・ソナタ
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1.プロローグ
再び恋をしてしまった…。
と、書きたいところだが、今回はそうはいかぬ。
前回はよい。相手は女性だったから。
今回は男性。私的にはマズイのである。世の中広いし時代は変わったから、
「どこがまずいの?」とおっしゃる方もおられるだろうが、私はまずい。
どちらかというと女性の方が好きなもので…。
この心をどう表現すべきか?悩み抜いていたら、凍る冬が過ぎ去り、春が訪
れ、いつしか夏が近づく季節になっていた…。
「尊敬しております」
「男心に、男が惚れて」
「運命の人」
どこか違う。こんな感覚ではない。
「おお、友よ、もっと適切な言葉を使って心を表現しようではないか!」
と叫んでみたところで、そこには風が吹いているだけだ。
表現できないほどのめり込んだ人は誰か?横山幸雄さんである。正確にいえ
ば彼が奏でるピアノの演奏にである。愛していると言っても良い。ただ、残念
なことにこれは稔らぬ愛だ。なぜなら相手、ピアノの音に、「愛していると
いってくれ」といっても返事はないから…(ないと思いますが、ないですよね)。
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2.横山幸雄さんの演奏との出会い
横山さんの演奏との出会いは3年前の演奏会だった。全ショパン・プログ
ラム。ショパンの有名な作品を聞かせるコンサートだったが、第一曲が
始まったとたん、私は金縛りにあったような気持ちになった。いてもたっ
てもいられない。聴き慣れた曲ばかりだったが、全て別物に聞こえるほ
どの新鮮さ。力強さの中にもきめ細かな表現がちりばめられ、広い大ホ
ールには、極上の音の粒が広がり、聴衆を魅了し続けた。全曲終わった
後、お約束のアンコール。ところが、彼はアンコールにおいて、本プログ
ラムに入っていないショパン定番の楽曲を4曲も披露したのである。1コ
ンサート弾き終えたピアニストとはとても思えないバイタリティ、そして
見事なサービス精神。この時、既に私は横山さんの演奏に完全にやられた。
次は、去年の年末のこと。久しぶりに帰った藤沢にある私の本家。そこで
出会った一枚のCD。「エシェゾー(Echezeaux)」という奇妙なタイト
ルで、フランクの「ヴァイオリン・ソナタ」、フォーレの「ヴァイオリン
・ソナタ」と「夢のあとに」、ドビュッシーの「美しい夕暮れ」が収録さ
れている。演奏は、ヴァイオリン矢部達哉さん、ピアノが横山幸雄さん。
2人で海岸にたたずむナルシストっぽいジャケットにやや少し引いた(笑)。
ところが、聴くとその演奏にぐいぐいと引きこまれていく。
甘美なヴァイオリンの音色は、かつて私が聴きほれたCDの演奏と全く違
う印象であった。フランクのこの作品については既にop54で取り上げた。
あの時はその音楽に強烈な「エロティシズム」を感じ、第一楽章について
「子供に聴かせてはいけない音楽」とアホなことを書いた。思えば赤面す
るが自分の思うままの印象を書いたのだから、私は逃げも隠れもしない。
それは「音楽」ではなく「演奏」のせいだったのか?今改めて、同じアー
チストによるCDを聴いても、全く違う印象である。あれはいったい何だ
ったのか、説明しようと思ってもできないのである。
今回の、矢部+横山の演奏は、全体的に猛々しい。怒濤と呼んでも良い。
第一楽章は、甘美な音色だが、それでいて一抹の寂しさも感じる。ナル
シストっぽいジャケットの雰囲気と書いたが、このCDの演奏にぴったり
のデザインだ。そして、全体的に漂うゆるぎない迫力の主は横山さんの
ピアノにある、と私は信じている。
三月末、再び横山さんのリサイタルを聴く。ベートーヴェンのピアノ・
ソナタ「悲愴」「月光」「テンペスト」「ワルトシュタイン」「熱情」
という狂気のプログラムである。それを、すべて、最後まで、聴衆たち
の目と耳を釘付けにし続けた。これほど密度の濃い演奏をしたピアニス
トに、私は今までお目にかかったことはない。ベートーヴェンのピアノ
ソナタに関して私は盲目的バックハウスの信者だが、残念ながら彼の生
演奏を聴けるチャンスはもうない。バックハウスと演奏スタイルはかな
り違うけれど、横山さんの演奏ならば、全ソナタを生でぜひとも聴きた
とさえ思っている。
プロローグであげた「「尊敬しております」「男心に、男が惚れて」
「運命の人」というの心情はどれも当てはまる。しかし、まだ足りない。
足りないから、適切な言葉をこれからも探し続けるだろう。見つけにくい
ものだけれど、私はまだまだ探し続けるのである。
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3.フランク ヴァイオリン・ソナタ
Cesar Franck Sonata for piano and violin
フランクはベルギーに生まれた。11歳の頃、家族でパリに移り、以後はパ
リを中心に活動したため、フランスの作曲家として位置づけれられている。
1858年よりパリのSt.クロティルド教会のオルガニストを終生務めたこと、
温厚な人柄を照らし合わせ、フランスのブルックナーと称されることもあ
るらしい。若い時はあまり評価されることなく、60歳前後になりようやく
世間は注目し始めたが、数年で惜しくも亡くなってしまった。
さて、「ヴァイオリン・ソナタ」は、彼が64歳の時に書いた作品だ。その
音楽の若々しくみずみずしいこと。ヴァイオリンソナタを聞いたことのな
い方、美しさを味わったことのない方は、ぜひこのソナタを一度聞いてみ
ほしい。甘いメロディ。そのメロディは全楽章で姿を変えて登場する。七
変化ともいえる音楽を探偵気分で探るのも、ひとつの楽しみ方だろう。
【第一楽章】
甘い官能的なヴァイオリンのメロディが、控えめなピアノ伴奏で奏でられる。
同じようなメロディが微妙に変化するところを聞き耳をたててほしい。相づ
をうちながら会話を進行するようなピアノが絶妙。やがて、聞けば聞くほど、
このメロディの底にひそむ、言葉では表現できない悲しみというものを感じ
てくる、、、、。
【第二楽章】
第一楽章とはうって変わり、激情ほとばしる音楽。ピアノがすごい。ピア
ノ・ソナタのような錯覚を覚える前奏、そして、続く緩急自在のヴァイオ
リンのメロディ。ふたつの楽器の名人芸と、コンビネーションを堪能しよ
う。
【第三楽章】
冒頭は間奏曲のようにも思える。第二楽章の怒濤を静かに引き継いでいる。
協奏曲のようなヴァイオリンソロ。めまぐるしい転調。第一楽章のメロデ
ィが姿を変えて、静かにしかし力強く鳴り響く。とらえようによっては、
第二楽章以上の激情を感じさせる。
【第四楽章】
ほっとする穏やかな曲想で始まるこの楽章。メロディは主題の変容。しか
し注意しなければ全く別物に聞こえるのも不思議。なんと希望に満ちた音
楽だろうか! これまでの楽章に漂っていた悲しげな雰囲気のメロディが
も心揺さぶる前向きな音楽に変わり、私たちの心にぐいぐいと迫ってくる。
クライマックス、ピアノとヴァイオリンによる怒濤の演奏は圧巻。
※この文は、op.54の文章に手を加えたものです。
(フランクの「ヴァイオリン・ソナタ」に関しては、新たに書き起こすつも
りでしたが、今回には間に合わなかったので、以前の文章に加筆したものを
掲載しました)
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こちらも未更新ですが、以前のヴァージョンをお楽しみいただけます。
◆2月11日
宗教曲と森麻季さんの歌声
◆12月30日配信
ベートーヴェンの第九を語る
◆12月9日配信
エピソードop.210 モーツァルト ピアノ協奏曲について
◆11月4日配信
エピソード op.209 ハイドンの交響曲について
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【あとがき】
4ケ月近いご無沙汰となりました。本誌始まって以来の大空白です。とう
の昔に忘れられた存在になってしまったかも、と日々恐れていましたが、
なかなか復活できませんでした。ずっと仕事の奴隷で、この私が音楽を聴
く気力さえも失っていたのですから重症です。加えて愛用のPowerbook
12の故障。ようやく、iMACで復活です。止まっていた時計が、ようやく
動き出した、そんな感じです。これからも続けますので、どうぞよろしく
お願いします。
では、op.214までごきげんよう。
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