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ぼーる通信


2006.09.15

ぼーる通信 〜Voice From The Dreamfield〜 第216号


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  ぼーる通信 〜Voice From The Dreamfield〜 第216号

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☆ This Week's Contents 【今週のお品書き♪】

  《Dream1》 『ベースボール・ビジネス』 B_wind
  《Dream2》 『Dreamfieldへの旅』 鰻谷
  《Dream3》 『プロ野球事件簿』  アトムフライヤー

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★ お品書きその1 『ベースボール・ビジネス』 B_wind

 ベースボールビジネス52 ポストシーズン・ゲーム

 ようやく、セ・パの話し合いがまとまり、来季から、セ・リー
グもプレーオフを実施することが決まったようです。交流戦試合
数でセ・パが対立し難航していたポストシーズン・ゲーム問題で、
両リーグ代表者が8月23日、交流戦は24試合とする方向で合
意、9月4日の実行委員会で決議されるもようです。レギュラー
シーズンの勝率1位を優勝チームとし、プレーオフは、リーグ・
チャンピオン決定戦ではなく、日本シリーズ出場決定戦という位
置づけになります。

 プロ野球協約では、日本選手権シリーズ試合(日本シリーズ)
はコミッショナー管理とされ、セ・パ各リーグが主催する連盟
(リーグ)選手権試合とは区別されています。今季のパ・リーグ・
プレーオフは、パ・リーグ・チャンピオンを決める連盟選手権試
合ですが、来季からは、レギュラーシーズンの勝率で連盟選手権
(リーグ・チャンピオン)を決めることになるので、プレーオフ
は、現行の連盟選手権試合ではなくなることになります。

 ちょっとここで話を変えます。このメルマガでは、なんども、
プロ野球ビジネスの基本は、リーグ戦興行共同体と言ってきまし
た。それは負ければ明日のないノックアウト式のトーナメントで
は、球団経営は成り立たないからです。ところが、それでは見る
側にとってリーグ戦の方が、トーナメントより面白いのかという
とそういうことではありません。

 負ければ明日のないトーナメントは、負けても明日の試合があ
るリーグ戦に比べ、勝負のという点では格段の面白さを持ってい
ます。ただし、勝負というのは、こだわりすぎると、勝利至上主
義、結果主義となり、野球という競技が本来持っている楽しさ、
面白さを見失わせる恐れがあります。

 そこで、勝負と競技の面白さをビジネスとして両立させようと
いうのが、リーグ制のレギュラーシーズンに対するノックアウト
制のポストシーズン・ゲームです。レギュラーシーズンでは、勝
者へのハードルを低くし、競技本来の楽しさ・面白さを味わって
もらい、ポストシーズンでは、勝負の緊張感を堪能してもらおう
というものです。

 ここで注意しなければならないことは、あくまでも球団ビジネ
スの基本はレギュラーシーズンであるリーグ戦であり、ポストシ
ーズンはあくまでも選手やファンへのボーナスだということです。
球団は、翌シーズンの年間予約席やグッズの売上で稼げばいいの
です。

 なぜ、このようなことを言うかといえば、ポストシーズンの球
団収入の比重が大きくなると、ポストシーズンに進出した球団と
進出できなかった球団との間に格差が生まれ、順位の固定化さら
には競争の喪失、球団財政の悪化といったプロ野球ビジネスにと
って致命的な結果を生む恐れがあるからです。

 極端な例ですが、レギュラーシーズンの収入を50、ポストシ
ーズンの収入を50と仮定し、A,B2球団のうち1球団だけが
ポストシーズンに進出できるとします。ポストシーズンが初めて
導入されました。コストに比例してポストシーズンに進出できる
確率が高くなると仮定しますが、その年A,Bは同じ60のコス
トをかけ、たまたまAがポストシーズンに進出し、Bは進出でき
なかったとします。

 するとAは、ポストシーズンで50の収入を得ますから、
50−60+50=40の利益を得ます。ところが、Bは
50−60=△10の赤字です。翌年、Bが収支を均衡しようと
するとBがかけられるコストは△10が繰り越されて
50−10=40となります。

 一方、Aは60のコストではポストシーズンの進出がぎりぎり
だったので、70のコストをかけたとします。これでも、ポスト
シーズンに進出すれば、レギュラーシーズンと合わせて100の
収入が得られますから30の利益を得ることができます。前年か
らの繰越分と合わせればAの利益は70になります。

 かけたコストはAが70で、Bは40。前年、ポストシーズン
進出の確率がA,B同じだったのが、次の年にはAは当確、Bは
絶望的、といった具合に勝ち組、負け組が固定化して行く危険性
をもっています。

 さらに、次の年、Bがポストシーズン進出をかけて80のコス
トをかけたとします。これに対し、Aは90のコストをかけて対
抗したため、Bはポストシーズンに進出できなかったとします。
するとBは△30の大赤字となり、経営危機に見舞われることに
なります。また、Aもポストシーズン進出のために高コスト体質
になり、収益を悪化させる危険性もあります。

 プロ野球協約166条では、連盟選手権試合の収益の処分方法
は、いかなる場合でも、試合の勝敗による処分は禁止されていま
す。これは、プロ野球が興行共同体であることを示したものです
が、ポストシーズンに進出できるか否かで、収益に格差が生じる
のであれば、これは実質的な試合の勝敗による収益の処分という
ことであり、協約の趣旨に反するように思われます。

 来季のセ・パ統一ポストシーズンのレベルでは、ポストシーズ
ンでの収入増では、球団格差を生む恐れは少ないと思われますが、
プレーオフの位置づけが、日本シリーズ出場決定戦となるのであ
れば、日本シリーズと合わせて、コミッショナー管理とするのが
本来の姿かと思われます。

 ただし、新聞報道によればセ・パ統一形式によるポストシーズ
ン・ゲーム開催となっていますから、実際は、セ・パの連盟主催
試合として、プロ野球協約が変更される公算が高いと思われます。
また、ポスト・シーズンという用語は、協約173条でシーズン
オフのことを指しているので、用語の整理も必要になると思われ
ます。

(B_wind)

 baseball wind プロ野球の論理学
    http://www.geocities.jp/baseball_wind21/

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★ お品書きその2 『Dreamfieldへの旅』 鰻谷

 第22回「Bull Durhamの歩き方(二歩目)」

 はい、まいど機嫌さん。鰻谷でございます。

 突然ですが嬉しいニュースが飛び込んで参りました。皆さんも
既にそのニュースを聞いて狂喜乱舞されている事と思いますが、
1997年を最後に財政難で活動休止になっていた「ハワイ・ウイン
ター・リーグ」が今年10月から復活する事になりました。ハワイ・
ウインター・リーグは正式名称をHawaii Winter Baseball(HWB)
と言いまして、MLB傘下のマイナーリーグや日本・韓国のプロ野
球から若手有望選手を集めて1993年に始まった秋季教育リーグで
す。有名すぎるネタで恐縮なんですが、あのトッド・ヘルトン
(現ロッキーズ)やジェイスン・ジオンビ(現ヤンキース)、鈴
木一朗(現マリナーズ)などの大物選手をはじめ、NPBで活躍する
アレックス・オチョア(現中日)、ベニー・アグバヤーニ(現千
葉ロッテ)らもHWBの卒業生なのです。

 復活したHWBは前回と同じく4チームで構成され、ホノルル周辺
の2球場、ハワイ大学の【レス・ムラカミ・スタジアム】(4,312
人収容)とワイパフにある【ハンス・オレンジ・フィールド】
(2,200人収容)をそれぞれ2チームで共用します。レギュラー・
シーズンは10月1日から11月21日までで各チーム40試合。球場の
写真を見る限りでは、今回のHWBもあまり客が入らず赤字経営は
必至だと思われます。つまり個人的見解ではありますが、リーグ
の安定した存続はほとんど期待できないと思っていいでしょう。
プロスペクト達が見慣れないユニフォームに身を包んで活躍する
姿を是非生で見たい!と希望される方は早めの渡航をお勧めいた
します。

 さて、今回のネタです。前回に引き続きまして映画「Bull Durham」
で見られるマイナーリーグの球場についてウダウダ語ります。前
回はブルズのホーム【ダーラム・アスレティック・パーク】につ
いてウンチクを述べましたので、今回はそれ以外の助演クラスの
球場を取り上げましょうか。

 劇中ではブルズの遠征シーンが出てきます。1980年代後半の話
なのにまるで60〜70年代のような流線型の銀色オンボロバスで移
動するのはいささか時代錯誤なのでは?という無粋なツッコミは
置いときまして、その中でも一際目を惹くのがまるでローマ時代
の城門のような白亜のエントランスを擁するグリーンズボロの
【ウォー・メモリアル・スタジアム】です。

 この球場、【ダーラム・アスレティック・パーク】と同期でし
てオープンは1926年。当時から様々なリーグのマイナーチームが
ホームにしていましたが、最も新しいテナントは1979年から入っ
てきた1Aサウス・アトランティック・リーグのチーム。このチー
ムはつい最近の2004年まで【ウォー・メモリアル・スタジアム】
でプレイしていましたがさすがに築80年では老朽化も半端ではな
く、残念ながら2005年からダウンタウンに新しく建設された【フ
ァースト・ホライズン・パーク】(7,499人収容)に移ってしまい
ました。かくして空き家になった【ウォー・メモリアル・スタジ
アム】ですが、その外見の存在感から破壊するには惜しい、と思
われたのか現在でもアマチュア専用の球場として余命を過ごして
おるようです。

 ちなみに細かい事を申しますと映画の撮影された1987年当時、
グリーンズボロはダーラムの所属する1Aキャロライナ・リーグで
はなくいっこ下のレベルの1Aサウス・アトランティック・リーグ
に所属していました。これは有名な話ですが、Bull Durhamの監督・
脚本のロン・シェルトンは自身も若い頃はマイナーリーグでプレ
イしていたほんまもんのプロ野球選手でした。その彼がキャロラ
イナ・リーグとサウス・アトランティック・リーグを混同すると
は考えにくいので、これはただ単に見栄えのいい【ウォー・メモ
リアル・スタジアム】を撮影に使いたかっただけではなかろうか?
と個人的には思っています。しかし実際に歴史を紐解いてみます
と、グリーンズボロは1Aキャロライナ・リーグが結成された時の
オリジナル・メンバーでして1945年から1968年までは同リーグに
所属していた事もあるようです。一概に「間違いである!」とは
言えないものの、やはり実在のチームが出てくる作品なので、
「誰もツッコまんやろ...」ではなく時代考証をキッチリして
リアリティを追求してほしかったような気もしますねぇ。

 もう一つの気になる球場はノース・キャロライナ州アッシュビ
ルの【マコーミック・フィールド】です。劇中ではブルズを解雇
されたクラッシュ(ケヴィン・コスナー)が新たに契約を結んだ
チーム、アッシュヴィル・ツーリスツのホームとして出てきます。
そこでクラッシュは人知れずマイナーリーグ記録となる通算247本
目のHRを打つわけですが、それが本当に記録かどうかは置いとき
まして、実際【マコーミック・フィールド】は現在においてもア
ッシュヴィル・ツーリスツのホームとして使用されています。

 こちらの球場は上記の【ウォー・メモリアル・スタジアム】や
【ダーラム・アスレティック・パーク】よりさらに2年前の1924年
にオープンしています。町中にあるにもかかわらず緑に囲まれた
レンガ造りの美しい小球場でして、あるガイドブックでは「one 
of the most beautiful little fields(もっとも美しいミニ球場
のひとつ)」と評されているほどです。現在のスタンドは一見か
なり古そうなんですが意外にも1992年の全面改装の際に建て直さ
れたものです。オープン以来のオリジナルの木造スタンドの様子
は映画にチラッと出てくるのでご覧あれ。この球場の特徴は水色
にペイントされた巨大な外野フェンスです。昔はフェンスがなく
てフィールドの向こうは雑木林だったと聞きます。この手のエピ
ソードは如何にもマイナーリーグらしくて我々のイマジネーショ
ンをチクチク刺激しますねぇ。ワタシは見ておりませんが、球場
内の球団オフィスには映画撮影時にケヴィン・コスナーが羽織っ
た背番号16のツーリスツのホーム用ジャージーが展示されている
ようです。球団職員の方にお願いすれば見せてもらえるそうです。

【マコーミック・フィールド】への行き方 

 グレイハウンド・バスの発着するアッシュヴィルのバス・ター
ミナルは町はずれの山道にある。そっからダウンタウンまではア
シュビル・トランジットの路線バスで。市内の路線バスは全線が
ダウンタウンのバス・ターミナルから出発し再びダウンタウンの
バス・ターミナルへ戻ってくる。ターミナルから球場までは徒歩
で約10分。とりあえず1ブロック南のヒリヤード・アヴェニュー
まで下れば東の方に球場のライトが見えるので、それを目指して
歩けばOK。

 映画の終盤にビッグ・リーグに昇格した新人投手ヌークが印象
的なセリフを口にします。

”This is the very simple game. You throw the ball, you 
catch the ball, you hit the ball. Sometimes you win, 
sometimes you lose and sometimes it rains.”

(こいつはシンプルなゲームなんだ。ボールをブン投げ、ふんづ
かまえて、ぶっ叩く。勝つこともあるし、負けることもあるし、
ときには神様がどしゃぶりの雨を降らせてブチ壊しにする)

 如何にもアメリカ人が好みそうな、まるで名言集のサンプルの
ようなセリフですが「Bull Durham」の魅力、と言うかベースボー
ルそのものの魅力を上手いこと表現していると思います。うーん...
感慨深いですねぇ。

 最後に映画のトリビア集を。

1.吐く息が白い・・・そりゃそうです。シーズン中に長いロケ
はできませんから。野球映画の宿命です。撮影は1987年のシーズ
ン・オフに行われました。
2.ティム・ロビンズが投げる投球は山なりのなのに時速95マイ
ル?・・・彼はチャーリー・シーンではないので。
3.ブル・ダーラム・・・ダーラムに実在したタバコ・メーカー
の社名です。本物のダーラム・ブルズもこの会社がスポンサーだ
ったのでブルズと名付けられました。
4.ダーラムには知る人ぞ知るマイナー・リーグ専門誌「ベース
ボール・アメリカ」の本社がある・・・ベースボール・アメリカ
誌のファウンダー、マイルズ・ウォルフ氏(現独立リーグ:アメ
リカン・アソシエイションのコミッショナー)はかつてブルズの
オーナーでしたから。
5.ダーラムはUSAベースボールの本拠地でもある・・・何故か
はわかりませんが毎年夏にアメリカ・ナショナル・チーム主催の
国際試合が行われます。日本との対戦もたまにあります。
6.球場での結婚式やグラウンドを水浸しにして試合を中止にす
るエピソード・・・実話です。監督が選手時代に本当にあった話
らしいです。のどかな時代だったんですねぇ。

 ではでは、また来月のこの時間に。バイバイ。 

(鰻谷)

球場巡礼
 http://www.geocities.jp/muguken1975/

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★ お品書きその3 『プロ野球事件簿』  アトムフライヤー

 第7回 藤波行雄選手トレード拒否事件シリーズ 〜その3〜

 読者のみなさまこんばんは。今回は前回の予告どおり、巨人で
数々の“問題行動”を起こした選手たちの例を挙げながら、実際
に“藤波事件”とは何だったのかということを述べ、このシリー
ズの総括にしたいと思います。

 さて、前回は統一契約書様式によれば球団側には保有権がある
ため、選手のみなさんはトレードを拒むことができないという話
をしましたが、実は、選手のみなさんの側にこれについての自ら
の権利がない、というわけではありません。

 それは、球団との契約の解除を申し出る権利です。したがって、
選手がこれを申し出れば、選手の立場はフリーになります。しか
しながら、日本プロフェッショナル機構の行う興行についていえ
ば、保有権は球団側にあるので、プロ野球選手として日本プロフ
ェッショナル野球機構に所属するチームにて野球を行う、あるい
は、これと提携している*1アメリカ・メジャーリーグ機構や*2韓
国プロフェッショナル野球機構に属する他球団へ移籍し、プレイ
するといったことはできません。つまり、移籍拒否=引退という
方法は確かに存在しますが、プロフェッショナルとしてスポット
ライトの当たる場所で野球をやっていくことは、できなくなるの
です。

*1アメリカ・メジャーリーグとは保有権の折り合いについて、
1962年10月の日米プロ野球機構のコミッショナー会談にて合意済。
*2韓国プロフェッショナル野球機構の発足は1983年より。

 ただし、過去にこの権利を行使した者は何人か、います。
 一番有名なケースは、巨人の定岡正二選手の例です。近鉄バフ
ァローズとのトレードを拒否して引退、タレントとなりました。
これについてはアンチ巨人のみなさんから、巨人以外でプレーし
たくないなどとはプロ野球選手の恥と揶揄され、軽蔑の対象とな
っていますが、この人の場合、単に自分自身の権利を行使しただ
けなので、ルール上は何の問題はありませんし、他人のことを考
えていないのではないか、あるいはモラル的にどうなのかという
意見があるのは百も承知で言いますが、所詮は本人の問題である
にすぎません。
 したがってこのケースと藤波選手の移籍拒否事件とを比べた場
合、藤波選手も引退すればルール上問題なかったのですが、中日
ドラゴンズへの残留を主張したのが間違い、ということになりま
す。

 次に「江川事件」の陰に政治家がいたことは最初のシリーズで
も説明したとおりですが、これについては、江川選手の周辺の人
間が政治家を使って不正に巨人入団を画策し、日本プロフェッシ
ョナル野球機構に圧力をかけたのが批判される理由のひとつにな
っていることは、間違いのないところでしょう。

 そこでこれを藤波選手のケースと比較した場合、政治家とのつ
ながりの信憑性こそ夕刊紙がネタ元になっているため、疑問があ
りますが、後援会の人たちが新聞の不買運動を煽ったり、球団事
務所の電話がマヒするほど抗議の電話をかけ続けて、日本プロフ
ェッショナル野球機構に属する中日ドラゴンズ球団を脅したのは、
事実です。江川事件にしても藤波事件にしても、ルールの元に圧
力をかけた、という点でまったく違いはありません。また、私が
このケースについて江川事件よりもある意味で嫌なものを感じて
いるのは、藤波選手が、このトレードについて後援会に圧力をか
けてほしいと頼んでいるかどうかこそ不明瞭なのですが、これを
身体を張って止めようとしていたことも確認されていない点です。
私としては、もうプロである程度の年数をこなしている大人なの
ですから、身体を張ってでも止めに入るのが筋だと思うのですが、
読者のみなさんはどうお考えになるでしょうか。

 続いて、移籍の相手となった選手について江川事件と藤波事件
とを比較してみると、江川事件では小林投手を阪神にトレードし
ておりますので、実績充分の選手と新人選手との交換で阪神に行
かざる得なかった小林投手は、確かに犠牲者といえます。
 一方、藤波選手のトレード相手となった基選手の場合は、テス
トからはい上がってきた叩き上げの選手であったため、プレーを
評価してくれればどこへでも行く、という考えではありましたが、
トレードが決まったときに「早く、中日でプレーしたい。セリー
グの方がやりがいがある。」と発言してしまったため、この藤波
事件の煽りで一転残留となってしまってからは、同僚やファンか
ら「球団に愛着はないのか」と白い目で見られ、プレーがやりに
くかったそうです。翌年に基選手は大洋ホエールズへとトレード
されますが、のちに「トレードされるなら前年に行きたかった。」
と言っていますので、迷惑をかけたということでは小林投手の例
とかわらないでしょう。

 そして、二人とも「事件の“反省”もせずにマスコミに出てい
る」という点では同じです。江川さんの方が全国放送で出演回数
が多いでしょうが、藤波さんもフジテレビのプロ野球ニュースや
すぽると!に出ていましたので、2人とも日の当たる場所で引退
後も活躍している、という点では変わりません。

 というわけで、いままで4点から二つの事件について比較して
みましたが、私の見方では双方の事件とも、悪質性について考察
すれば、大して違いはないということになります。
 唯一違うのは「江川事件」がコミッショナーを脅して裁定を変
えたさせたことですが、藤波選手もセリーグ会長の勧告を無視し
たということで、“ルール”を無視し、日本プロフェッショナル
野球機構の存在をないがしろにしたということでは、双方の事件
とも、悪質さではまったく変わりません。

 また、誤解している方が多いようですが、「江川事件」でコミ
ッショナーが乗り出してまで裁定を行ったのは、巨人の行動が悪
質だったからではなく、過去に前例がないケースだったためにそ
うしただけです。藤波選手の場合、過去の前例は決まっています
し、引退以外認めたケースがなかったために、コミッショナーが
自ら裁定を下す必要がなかっただけにすぎません。リーグ会長の
勧告無視よりもコミッショナーの裁定無視の方が罪が重いじゃな
いか、という主張をされる方がおられるのは百も承知で言います
が、ルールのあり方、あるいは日本プロフェッショナル機構のあ
り方という点から考えれば、リーグ会長の勧告無視はコミッショ
ナーの裁定無視と同じであることは自明の理でしょう。両者に軽
重の違いはないのです。

 さて、最後にこのシリーズのもっとも大事な部分について述べ
て、締めにしようと思います。まず、

●不正入団は、各球団の戦力均衡を崩し、興業の成立を阻害する
悪質行為である
●移籍拒否による保有権の侵害は、各球団間の移籍を阻害し、選
手の引き抜き合戦につながり、興業の成立を阻害する悪質行為で
ある

 というのが、江川事件と藤波事件を比較したときの大筋になり
ます。そこでこの両者を比較すると、プロ野球興行の成立を阻害
する悪質行為という点ではまったく変わりません。世間に対する
認知度についていえば、天と地ほどの差があるのですが。

 ただ、これら双方の事件の最大のポイントは、ここではないと
いうのが私の考えです。ですから私は、藤波さんの移籍拒否とい
う行為について、一方的に非難するだけにとどまろうとは思いま
せん。

 問題は、選手を物扱いする奴隷制度のような保有権が、当時の
球団に認められていたということです。
 私は、当時「フリーエージェント」は知りませんでしたが、
「10年選手の権利」は知っていました。「荒川事件」を筆頭に
入団や移籍でもめごとが起こるたびに、なぜ「10年選手の権利」
を復活させないのか、と疑問に思っていました。
 これは、球団側に都合のよいルールは変えたくないという12
球団一致の考えであるかのように、私には見えます。この事件と
いい「江川事件」といい、球団保有権の解除について考える絶好
の機会だったにもかかわらず、マスコミのみなさんもプロ野球フ
ァンのみなさんも、何も考えませんでした。
 結局インパクトが強く、売れる事件でなければ取り上げないし、
考えないということなのでしょう。球団保有権の解除は1993
年の「フリーエージェント」導入まで、待たなければなりません
でした。

 また、この事件が中日ドラゴンズの地元以外でほとんど知られ
ていないのは、当時は選手の保有権を球団が持っていることにつ
いて、世間に対する認知度が低かったためでしょう。そのために
世間一般ではルール違反の認識が乏しく、問題にされなかったの
ではないかと私は考えています。
 そしてドラゴンズ以外の各球団についていえば、保有権のある
種“奴隷的”なあり方というのが表に出ると困ってしまうので、
静観を決め込んだのではないかと私は考えています。のちの江川
事件の際にこれが大いに問題とされたのは前回のシリーズでも述
べたとおりですので、おそらく各球団とも、この保有権の問題を
認識していたのではないでしょうか。
 あとは人気選手に甘い球団の態度も明らかです。巨人とどこが
ちがうのでしょうか。巨人の対応のことを問題にするのなら、中
日ドラゴンズのこの事件への対応についても、マスコミのみなさ
んやプロ野球ファンのみなさんはもっと問題にしてもいいはずで
す。事件の性質を考えれば。

 この事件の後日談についてですが、藤波選手は残留後、中日ド
ラゴンズで選手生活を終え、今は地元のローカル放送局で解説者
をしています。そして、クラウンライターに移籍した竹田選手は、
翌年クラウンが球団を西武に売ってして西武ライオンズが誕生す
ると、阪神タイガースへとトレードされています。
 そして竹田選手はのちに、「西武に身売りしたとたんに冷遇さ
れ、追い出されるように阪神に行かされた。こんなことならゴネ
てでも中日に残ればよかった。」と言っています。藤波選手はゴ
ネ得だったということです。

 したがって、この事件を追っていくと、よくドラフト礼賛論者
が唱える「プロ野球ならどの球団に行っても同じ」という主張が、
極めてしらじらしく見えます。今後のプロ野球の健全化を唱える
なら、制度を採り入れれば公平が保たれるという幻想は捨てた方
がよいでしょう。というのも、この事件の裏にあるのは、球団の
待遇の格差だからです。
 球団、選手、ファンが一体となって考えていかなければならな
い問題のような気がします。

【参考文献】

 ベースボールマガジン社
   「プロ野球新・トレード史 1936−1998」
 新潮文庫 近藤唯之著 「プロ野球 トレード光と陰」

(アトムフライヤー)

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 にてみなさまと楽しいお話ができることを心待ちにしております。

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(c)2002 ぼーる通信 
〜Voice From The Dreamfield〜 編集部

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