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主婦と創作


2008.10.06

文芸同人「主婦と創作」2008年10月4日発行 通巻 たぶん295号


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┃   文芸同人 主婦と創作                   ┃
┃             2008年10月4日発行 通巻  たぶん295号 ┃
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 初めましてのかたは、初めまして。
 そうでない方は、おまちどおさまでした。
 「自称・文芸同人誌」主婦と創作の発行人、銀凰です。

 それでは、本日の会報をお楽しみ下さい。
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◇本日の目次…
 ◆連載小説…神光寺かをり  フレキ=ゲー編によるガップ民話集 1-17
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◇連載小説  フレキ=ゲー編によるガップ民話集    作:神光寺かをり
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※この小話はフィクションであり実在の人物・団体とは関係ありません。
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   煎り豆 17

 天を仰ぎますと、空は妙に明るく、細い月はいつのまにやら西の空の果てに
消えておりました。
 丘の向こうの牧場あたりから、毛玉牛の悲鳴が聞こえます。牧童は全員お屋
敷から出て行きましたから、山犬の群れが追い払われることなく柵を跳び越え
ているのでしょう。
 庭を挟んだ向こうの建物は火炎に包まれ、炎が天を赤く焦がしております。
使用人は全員お屋敷から出て行きましたから、火は消されることなく燃え広
がっているのでしょう。
 目の前の蔵では鼠が走り回っています。
 人足は全員お屋敷から出て行きましたから、鼠も虫もとがめられることなく
穀物を食べ散らかしているでしょう。
「なんてことだ、なんてことだ」
 長者は山犬を追い払わなければならないと思いました。火を消し止めなけれ
ばならないと思いました。鼠どもを追い出さなければならないと思いました。
 でも、お腹は空いておりますし、寒くて体の震えは止まりせんし、熱くて汗
があふれ出しますし、痛くて体中が痺れております。立ち上がることも大声を
出すことも、他の方法を考えることもできません。
 村で一番の金持ち長者の財産は、長者がぺたりと座り込んでいるうちに、ど
んどんと減っております。
 そう思いましたら、長者の体はますます震え、ますます汗があふれ、ますま
すじんじんと痺れ、指先一つも動かせなくなりました。
 とうとう長者は、その場にばたりと倒れ込んでしまいました。

               ◆◇◆

 村の外れの石の壁の小屋に、髪の毛の真っ白な若者のような旦那さんと、髪
の毛の真っ白な娘さんのような奥さんおりました。
 小さな小屋のせまい粉碾き部屋には大きな体の人足頭がいて、人足達に大き
な石臼を回させていました。
 石臼がごろぉりごろりと回ると、空豆の実が碾かれて粉になり、ぱらぁりぱ
らりとあふれて出ました。
 小さな小屋のせまい機織り部屋には、細い体の織工長がいて、職工たちに大
きな紡ぎ車を回させていました。
 紡ぎ車がぶぅんぶんと回ると、空豆の蔓が紡がれて糸になり、しゅぅるしゅ
ると巻き取られました。
 小さな小屋の狭い台所には、痩せた体の料理長がいて、料理人達に大きな回
転天火を回させていました。
 炙り串がぐぅるぐると回ると、空豆の粉がパンになり、ふかぁりふかりと焼
き上がりました。
 小さな小屋の狭い庭先には、小柄な体の鍛冶屋がいて、使用人達に大きな滑
車を回させていました。
 滑車がぎぃしぎしと回ると、空豆の幹が釣り上げられ、ばたぁんばたんと屋
根が葺き上げられました。
 空豆の実は碾いても碾いてもなくならず、百の袋が全部粉でいっぱいになっ
てもまだ余っておりました。
 空豆の蔓は紡いでも紡いでもなくならず、百のかせが全部糸でいっぱいに
なってもまだ余っておりました。
 空豆の粉は焼いても焼いてもなくならず、百の籠が全部パンでいっぱいに
なってもまだ余っておりました。
 空豆の幹は積んでも積んでもなくならず、百の小屋を全部新しく建てても、
まだ余っておりました。
 旦那さんは、豆の粉百袋を荷車に積むと、毛玉牛に引かせて村の東の外れの
一夜谷那へ持って行きました。
 一夜谷那にはたくさんの人たちが住んでいて、明日のご飯の心配をしていま
した。
 何しろこの村は、村長さんよりも村一番の金持ち長者の方が威張っているく
らい、ぜんぶのことを長者が取り仕切っております。長者が仕事の支払いをし
てくれなければ、明日の夕ご飯は我慢しなければならないのです。
 村の真ん中の井戸の端にはおかみさんたちが集まって、残り少ない小麦の粉
でどんなご飯作ったらいいのかと、口々に話し合っておりました。
「やあ村の衆、こんばんは」
 白髪頭の旦那さんは、井戸の端に荷車を止めて、大きな声で言いました。
 おかみさんたちおどろいて、お互いに顔を見合わせました。
「この村にこんな男の人がいたかしら?」
 旦那さんはにこにこ笑って言いました。
「ほぅれよくごらん、石の壁の小屋の爺だよ」
 おかみさんたちは男の人の顔をじっと見ました。確かに石の壁の小屋のおじ
いさんによく似ています。
「確かに石の壁の小屋のおじいさんによく似ているけれど、あのおじいさんは
もっとおじいさんですよ」
 おかみさんたちは口々に言いました。とてもとても信じられないからです。
「訳を話すと長くなる。この豆の粉をご馳走するから、運びながらにでもきい
ておくれ」
 若者のようなおじいさんの旦那さんは、豆の粉の袋を荷車から降ろしながら、
神殿の合唱団のように節を付けて話しました。
「よぼよぼのじいさんとよぼよぼの婆さんが、朝一番にでかけた。
 二人揃って杖を突いて、神殿まで歩いていった。
 空っぽのお財布のそっこから、銅貨を一つ捧げた。
 心を込めてお祈りしたら、天から御使いが降りてきて、
 じいさんとばあさんに子供ができると仰った。
 それから煎った豆を植えろと仰った。
 酸っぱい上澄みで育てろと仰った。
 言われたとおりに豆をまき、言われたとおりに上澄みをかけた。
 すると不思議、煎り豆から芽が出た。
 不思議不思議、あっという間に木になった。
 あっという間に花が咲き、あっという間に実がなった。
 それがその豆、たくさんの豆。
 夕べたらふく食べて、今朝たらふく食べてもまだ減らない。
 なんて幸せな煎り豆だろう」
 おかみさんたちはびっくりして訊ねました。
「その豆を食べておじいさんたちは若返ったんですか?」
 旦那さんは首を振りました。
「食べる前から元気が出てね。食べる前から若返った気がしたよ」
「なるほどなるほど。それではきっと、おじいさんたちが普段から良い人だか
ら、神サマが元気をお恵み下さったんでしょう」
 おかみさんたちは合点して、大きくうなずきました。
 すっかり若返って元気になった夫婦の話を聞いたおかみさんたちは、なんだ
か自分たちもすっかり元気になった気がしました。
 つい先ほどまで明日のご飯を心配していたおかみさんたちは、白髪頭の旦那
さんが持ってきた豆の粉を家族一人に一袋ずつ、軽々担いで持ち上げて、それ
ぞれ家に持って帰りました。
 みんなが必要なだけ粉の袋を持っていったので、旦那さんは毛玉牛に荷車を
引かせて戻りました。
 石の壁の小屋に着いて、残った袋を数えますと、粉が詰まって膨らんだ袋が
百と七袋ありました。
                                 続く
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