2008.08.03
週刊 お奨め本 第301号『終わりの街の終わり』
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週刊 お奨め本
2008年8月3日発行 第301号
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『終わりの街の終わり』 ケヴィン・ブロックマイヤー(金子ゆき子・訳)
¥1,800+税 ランダムハウス講談社 2008/4/23発行
ISBN978-4-270-00328-2
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その街にいるのは、死者たちだった。
それは分かっていた。人々は皆、自分が死んだ記憶を持っていたから。
そこは死後の街。死後の世界。
けれど天国ではない。人々は仕事を持ち、働き、朝にはゴミ収集車が騒音を立て
て走り、川には腐った魚のにおいがする。しかしまあ、地獄でもない。抜けるよ
うな青空があり、おいしいベーカリーがある。
永遠の街でもない。住民たちはたいてい、60年か70年で消えていく。
ではいったいこの街はなんだろう?
答えは誰にもわからない。けれど推測はできる。人々に支持されている説は、こ
れが人生の延長時間だということ。生者に記憶されているあいだは滞在できる世
界だということ。係わり合いがあった最後の関係者を亡くすと、つぎの世界へと
進むのだ。それがどこであるにせよ。
あるときから、街に住民がとつぜん減り始めた。
生者の世界からやってきたばかりの、ほかほかの死者の話によると、地上では未
知のウィルスが猛威を振るっているという。人がバタバタと死んでいく。
死者たちが到着する。何千人、何万人と。家族全員で、学校全体で、地域全体で。
そしてその都度、到着した人数の数倍もの住民が姿を消すのだ。
覚えていてくれる生者がいるあいだは、街にいられる。
では、人類が滅亡したら?
あちらの世界に生きている人がひとりもいなくなったら、この街はどうなるのだ
ろう? いったいなにが起きるのだろう?
その頃、ローラは南極にたったひとり残されていた。
コカ・コーラ社の、南極の氷を使ってソフトドリンクをつくろうというプロジェ
クトの下、野生動物専門家として半年間の予定で派遣されたのだ。極地専門家、
ソフトドリンク専門家の仲間とともに。
シェルターのアンテナが折れて、会社との連絡が取れなくなり、世界でなにが起
きているか情報が入ってこない。状況が掴めないまま、二人の仲間はそりで他の
会社の基地へ向けて出発した。無線を借りて会社へ救助を求めるために。
三週間たっても帰ってこないふたりをこれ以上待ち続けてはいられない。発電機
が壊れて、暖房が効かない。照明が消える。食料も尽きるだろう。
ローラはひとり、基地に向けて出発した。
ひとりの人間が、覚えている人はどれくらいいるのだろう?
作中人物が、数え上げている。とても数え切れないけれどたぶん五万人、もしか
したら七万人ぐらいになるかもしれない。
せいぜい二千人じゃないかと考える者もいる。
名前まで覚えている必要はない。
通勤途中でよくすれ違う人、スーパーのレジ係。いや、順番にいこう。まず家族。
親戚たち。幼稚園から大学院までの同級生と教師たち。兄弟姉妹たちの同級生と
教師たち、同級生でなくても、習っていなくても、校内で見知っていた上級生、
下級生、教師たち。家族たちの友人たち。初めてのアルバイト、勤務先の人びと、
お客たち。最後の勤務先までの人間関係。友だちの友だち。友だちの家族。恋人
たち。その友だち。その家族。かかりつけの医者や、看護士たち。それからそれ
から…。
人が生きている間に、どれだけの人を知るのだろう。
ローラという名のたった一人の女性の記憶で、街の人々は存在する。
ローラは南極を横断する。
基地に向かって。
けれど基地はすでに全滅している。そこでローラは初めて知る。世界がウィルス
に滅ぼされたことを。
一縷の希望に縋り、ローラは再び旅立つ。二人の仲間が向かったかもしれない地
点へと。
街は消滅へと進んでいる。
世界は滅亡へと向かっている。
できることはなにもない。
穏やかな絶望。
終末物というにはあまりに穏やかな。
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『終わりの街の終わり』 ケヴィン・ブロックマイヤー
The brief history of the dead by Kevin Brockmeier
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