2006.03.11
陰陽師教師・橘麗華 「千鶴の一番長い一日」
3
「ところで千鶴……」
マリアが聞く。「……祭られている神様のもう一柱はどなた?」
「その神様は他の神社だと社殿が別になっているところが多いかな」
千鶴は言った。「……うちは同じ本殿に祭ってあるんだけどね。そういえば、麗華先生の式神の中に同一神格とされている神様がいるよ」
そういうと千鶴は笛のようなものを出して口に当てた。
吹き鳴らしているのだろうけれど音が聞こえない。
「犬?」
それは少し小さい柴犬のようだった。だが色が異常なくらい白いその上目が赤い。
「狐だよ」
千鶴が吹き鳴らした笛は犬笛というのだが、この笛の音は人間には聞き取れない周波数である。
だが犬には聞き取れる周波数であるために犬の調教に用いられるのだ。
もちろん犬の仲間である以上は狐にも聞き取れるのだ。
「飼ってるの?」
狐は普通人間に懐かない(手なずけることが難しい)というがその狐は人懐っこい狐だ。美樹とマリアにもちゃんと尻尾を振っているのである。
「こいつのほうから勝手に住み着いたんだけどね」
千鶴は言った。「……名前はウカっていうんだよ」
「可愛い……」
美樹は尻尾を持ち上げてみた。「……雌だね」
「待てよ……狐といえばお稲荷さん……お稲荷さんといえば……」
マリアははっとして荼吉尼天の印を組んだ。「……オン・キリカク・ソワカ」
「なあに?マリア……」
ダーキニーが空中に現れた。
「まさにその通りなのよね」
千鶴は言った。「……日本の神道のお稲荷さんの正式名称は宇迦御霊之神。
本地垂迹説でいうと荼吉尼天と同体ということになっているのよ」
「ひょっとして……」
マリアは聞いた。「……お稲荷さんもお祭りされてるわけ?」
「そういうこと」
千鶴は頷いた。「……同じ社殿で……ね」
千鶴に言わせると、通常の神社では宇迦御霊之神を祭るときは本殿とは別に本家本元の京都の伏見の伏見稲荷大社のような
千本鳥居のある社殿を作って祭ってあるという。
ところが茅島神社は何故か宗像三女神と同じ社殿に祭ってあるのだそうである。
他に同じような祭り方をしている神社は千鶴でも三重県伊勢市の二見興玉神社しか知らないそうだ。
ところでダーキニーは……と見るとウカとじゃれあっている。
ウカにしてみれば縄張りへの突然の侵入者のはずなのだが、千鶴が直接飼っているわけではないにしろ
犬小屋に住み着いて以来半分ペット化しているウカにはそもそも縄張り意識がないのか、
単に人懐っこいだけなのか……というところなのだが、どうやらウカは人間の姿のダーキニーから同類の匂いを嗅ぎ取ったらしかった。
「やっぱり同じ狐だね」
千鶴は感心したように見ている。「……こうなるとまったく犬みたいだね」
「犬といえばダーキニーちゃんは未だに犬と狼の区別がつかないらしいよ」
美樹が言った。「……この間『美樹、可愛い狼の漫画、貸して』って言ってきたから何のことかと思ったらそれがスヌーピーのことだった」
「本当、何でだろうね?」
マリアも首をかしげている。「……聞くところによると梓先生のハスキーとも仲がいいらしいよ」
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