2006.04.27
陰陽師教師・橘麗華 千鶴の一番長い1日
5
ダーキニー及びジュアンと一緒に遊んでいたウカが突然走り出した。
ダーキニーとジュアンは唖然としている。麗華はウカが走っていった方向から、ウカと
一緒に来る人がいるのに気が付き、
何故ウカが突然走っていったのか理解したようだ。
それは千鶴だった。ウカが尻尾を振って足元にまとわり着いている。
赤い袴をはき、白い小袖を着た上に袖に安西家の「比翼釘抜」の家紋が入った白い水干を羽織っている。
つまり白拍子の姿なのである。これで烏帽子を被っていたらさぞかし平家物語に登場する祇王か仏かはたまた吾妻鏡の静御前かと言った趣であろう。
何度もいうようだが千鶴は巫女ではなく祢宜、従って服装は巫女の着る舞衣ではなく、女性神主の水干なのである。
「千鶴が正式な装束を着ている姿、初めて見た」
美樹が言った。「……白い小袖に緋袴を着ている姿なら見たことがあるけどね」
「麗華先生も確か同じような衣装、持ってませんでしたっけ?」
「持っとおるよ」
マリアに聞かれて麗華は頷いた。「……更にいうと楓先生も持ってるよ」
「そうそう。麗華先生のは色が紫、確か胸に『清明桔梗』なんだよな」
楓が頷く。「……それであたいのは色は萌黄で袖、つまり安西が今着ている奴の『比翼釘抜』のある場所に『祇園守』の家紋が入っているんだ」
四十五度斜めになっており、真ん中に相似の正方形の穴が開いた正方形なのに何故か「釘抜」と呼ばれる紋である。
安西家の家紋は釘抜を二つ組み合わせた「比翼釘抜」である。
「実は……」
麗華は杉本と佐織に今までの事を説明する。「……というわけなん」
「なるほど」
杉本は頷く。
「問題は衣装なんだけどね」
香澄が言った。「……教会ならいやおうなしに白いモーニングに白いウェディングドレスなんだけど、
神社でということになると神主とバランスを取らなければいけないからね」
「神主は神主でも男性のは割と地味ですからね」
千鶴は頷いた。「……今日は比較的地味なのを選んではきたんですが、当日はこれよりは派手な『斎服』が
ありますからそれを着るつもりです」
「なるほどね」
マリアは頷く。「……それと同じ奴は私と美樹が着るわけよね」
「補助役だからそういうことになるね」
千鶴は言った。「……束帯相当が斎服で狩衣・浄衣相当が水干」
「うちは式場司会やさかい水干を着るつもりやけど」
麗華は言った。「……因みに上下とも紫」
「あたいも萌黄の水干」
楓が言った。「……神社側は神主は斎服、神主補助は水干、浦安の舞の巫女は舞衣……それ以外は小袖」
「その『浦安の舞」なんですけどね」
千鶴は言った。「……ジュンと純代にやってもらおうと思うんですが……どうです?」
「ジュンって……朝倉だよね?」
香澄が慌てて確認するように言った。「……今ここにいる朝倉さんの双子の妹。飯島ならジュンさんというよね」
「いくらなんでもそのジュンなら呼び捨てにせぇへんって」
麗華は言った。「……下の名前が同じカタカナのジュンだから紛らわしいのは確実だけど」
「舞も紛らわしいよね」
梓が茶々を入れる。「……お宅の一番下の妹のほかに鳳さんがいるから」
「その鳳舞と朝倉ジュンの部活の顧問はあたいなんだけどな」
楓はぺロッと舌を出す。「……今年の四月のクラス替えのとき、偶然にも陸上部の生徒が全員2Bになったし
おまけにあたいとリーファとで2Bの担任になることが決まったから、思いっきり梓や香澄たちの顰蹙買ってさ」
「そうそう」
梓は言った。「……まあもっとも陸上ってよく考えてみれば人数少ないし、2Bには他の部活の子や
中には普段は帰宅部で必修クラブの時間だけ……って子もいるけど、やっぱり陸上が全員顧問のクラス2Bってのは……ね」
「1年生の担任会議に賄賂贈ったんじゃないかと疑われても仕方ないよね」
香澄もからかう。「……名簿が出来てきた段階で既に懸命に否定してたけど」
小和田女子学園では中等部・高等部ともに1年生から2年生になるときはクラス替えがあるが2年生から3年生になるときのクラス替えはない。
そのクラス編成は1年生の担任が決めて2年生の担任には名簿をいきなり渡す形になるため、従って新人であるところの麗華や
前年度は3年生を担当していた楓、それから図書室の司書室に机があった香澄と梓のまったく
あずかり知らぬところで起きていたのである。
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