2008.03.22
映画の精神医学 伝説的ミュージシャンの精神的苦悩
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映画の精神医学
●第265号● 2008年3月22日発行 ● 発行部数 :49,549部
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【 目 次 】
■1 はじめに
■2 最新映画批評 「Sweet Rain 死神の精度」
■3 精神医学の目 「CONTROL」 あるミュージャンの自殺
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■1 はじめに
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春休みということで、映画がぞくぞくと公開されています。
「映画の精神医学」の発行ペースもアップさせて、
できるだけたくさんの映画を紹介、解説していきたいと思います。
アカデミー作品賞・監督賞を受賞した「ノーカントリー」。
先週末から公開されていますが、先週末の興行収入ランキングでは
10位にも入りませんでした。
公開劇場数が少ないということもあるのでしょうが、
アカデミー作品賞を受賞したからといって、必ずしもヒットするわけでは
ないのだなあ・・・と思いました。
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■2 最新映画批評
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「Sweet Rain 死神の精度」 3月22日公開
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1カ月ほど前に試写会で「Sweet Rain 死神の精度」を見た。
帰りに書店に寄よったら、
伊坂幸太郎氏の原作「死神の精度」
http://01.futako.info/a/seido.html
が、ベストセラーランキングの1位になっていたので驚いた。
映画の公開直前とか、直後に1位になるのならわかるが、
映画公開のかなり前から、原作がかなりの勢いで売れていたのには
驚いた。
ちなみに、本日、書店で確認したら、8位だった。
「Sweet Rain 死神の精度」は、不思議な映画である。
一言で説明するのが難しい。
ストーリー紹介を読むと、
「7日間でその人間の生死を見極める“死神”とその対象者たちの
悲喜こもごもをさわやかに描く。」
と書かれているが、さっぱりイメージできない。
ジャンルにしても、恋愛でも、コメディでも、SFでもない。
何といったらいいのだろうか? ファンタジーだろうか?
「見たことのない映画」というのが、一番いい表現かもしれない。
死神を演じるのが金城武。彼の不思議な雰囲気が、
存在するはずもない死神に、奇妙なリアリティを与えている。
3部のオムニバス的な構成になっているが、
最後に一見バラバラの話が、一つに結びついていく
ところにカタルシスがある。
かなり淡々と映画は進んでいくが、最後まで見ると
爽やかな感動につつまれるだろう。
万人受けする映画ではないだろうが、映画を見た後の
奇妙な後味が楽しい。
樺沢の評価 ★★★☆
(★★★★★が満点。☆は、★の半分)
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■3 精神医学の目
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「CONTROL」 「てんかん」に苦しんだミュージャンの軌跡
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イギリスの伝説的ポスト・パンクバンド、
「ジョイ・ディヴィジョン」のリードシンガー、イアン・カーティス。
彼の成功の軌跡と23歳の若さで自殺するまでの経緯を描いた
伝記的作品が映画「CONTROL」です。
■映画「CONTROL」オフィシャルページ
http://control-movie.jp/indexp.html
私は、洋楽についてはあまり詳しくないので、
「ジョイ・ディヴィジョン」、そしてイアン・カーティスについては
詳しくは知りませんでしたが、
今回の映画が彼の精神的な苦悩、そして彼が「てんかん」という
病気をわずらっていたこと。
そして、最後には「自殺」してしまったことなどが、
詳しく描かれていますので、今回は、彼の精神状態について、
考察してみたいと思います。
まず、この「CONTROL」という映画。
監督のアントン・コービンは、U2、デビッド・ボウイ、ビョークなど
音楽界のカリスマを撮り続けたフォトグラファーです。
今回の「CONTROL」は、彼の長編映画初監督作品となるわけですが、
元カメラマンならではというか、イアン・カーティスの自伝的映画と
いうよりは、ドキュメンタリー映画を見ているかのように錯覚してしまう
臨場感が素晴らしいと思いました。
作劇的な部分をあまり感じさせなく、イアンの周囲で起きる出来事が
ドキュメンタリータッチで淡々と描かれていきます。
説明とか解釈といった作家の押し付け的な部分は全くなく、
イアンの心情の理解を、全て観客にゆだねてしまっている点が
映画のおもしろさであり、また分かりづらい点でもあるでしょう。
たとえば、「てんかん」という病気に関しては、イアンが医者から
説明されるシーンでの説明しか、観客に提示されません。
したがって、彼の心理的苦悩や自殺が「てんかん」と
どの程度関係があったのか全くわかりません。
全くわからないのが映画的に悪いのかというと、そうではなくて、
実際にイアン自身や彼の妻、バンドの仲間なども、この病気について
どこまで理解していたかというと、それほどきちんと理解してたわけでも
なさそうなので、そういう意味では「病気」をめぐる現実に関しても、
リアルに描かれていたのでしょう。
前号のメルマガで、「CONTROL」のあらすじについて簡単に説明したところ、
>てんかんと自殺は関係があるのでしょうか?
>私の娘がてんかんを患っており心配です
いったメールを早速いただきました。
映画を見た人も、同様な疑問を持つでしょうから、
やはり「てんかん」をめるぐる事実関係は説明しておく必要があるでしょう。
「てんかん」とは、脳の損傷や神経の異常などにより、
痙攣や意識消失などの「発作」を起こす病気です。
「てんかん」は、一昔前までは、「精神病」として扱われてきましたが、
最近では神経の異常にもとづく疾患として、「神経疾患」として
とらえられています。
てんかんの罹病率ですが、約1%といわれています。
つまり、日本人で100万人以上のてんかん患者がいることになります。
「てんかん」を患っていたとされる歴史上の人物としては、
シーザー、ナポレオン、ソクラテス、パウロ、ドストエフスキーなどがおり、
「てんかん」者は、非常にエネルギッシュで、時として歴史の変革に
大きな力を発揮することもあります。
日本人としては、黒澤明監督が「症候性てんかん」
(脳の器質的異常にもとづくてんかん)だったといわれています。
●関連文献
「黒澤明の精神病理」 http://01.futako.info/a/kurosawa.html
100人に一人が「てんかん」ですし、
このように「てんかん」者にはたくさんの偉人がいるわけですから、
「てんかん」だからといって、悲観したり、絶望する必要は
全くありません。
「てんかん」の80%以上は、薬物療法により発作を抑制することができ、
普通の人と全く変わらない日常生活、社会生活が可能です。
「てんかん」と「自殺」の関係ですが、
>てんかんでは自殺率が高まるという報告がある。
>衝動性、攻撃性、慢性の障害などのために、てんかんと自殺には
>関連があるとされてきた。
●関連文献「自殺と防止対策の実態に関する研究」
http://www8.cao.go.jp/souki/tebiki.pdf
ということが、言われています。
ある論文によると、てんかんを持たない人と比較して、
「てんかん」者の自殺率は、約2倍程度高まる、という報告があります。
自殺者数が多い精神疾患として知られているのは
「うつ病」「薬物依存症」「統合失調症」「人格障害」などであり、
「てんかん」は、患者数は非常に多いわりには、
これらの精神疾患と比べて自殺者数は少なくなっています。
ですから、「てんかん」だからといって、
自殺率が高いと悲観する必要はありません。
例えば、医師の自殺率は、普通の人の3倍以上。
精神科医の自殺率は、普通の人の6倍以上ですから、
精神科医である私が抱える自殺のリスクよりも
「てんかん」の患者さんが抱える自殺のリスクの方が低いと言えます。
「てんかん」で注意すべきなのは、「自殺」よりも、
発作による転倒で頭を打ったり骨折したり、
あるいは交通事故や転落事故をおこしたりすることです。
「CONTROL」の劇中で、イアンが職業を斡旋したてんかんの少女が
すでに死亡していた事実が示されますが、てんかんの場合、
外傷や事故で亡くなる可能性は高いので、注意しなくてはいけません。
こうした、外傷や事故は、発作がコントロールされていない場合に起こります。
ですから、「てんかん」は、発作さえ「コントロール」されれば、
決して恐ろしい病気ではありません。
しかしながら、発作がコントロールされないと、発作をより起こしやすくなり
発作頻度が増えたりして、「難治性てんかん」(治らない、治りづらいてんかん)
に移行することもあるので注意が必要である。
つまり、治療もせずにほったらかしにすると危険である、と言えます。
さて、以上の基礎知識をもとに、「CONTROL」のイアン・カーティスの
症状や行動を見てみましょう。
最初に発作を起こすのが、車で移動中の車内です。
その後、彼の発作の頻度、回数は、どんどん増えていきます。
それでも、ステージ上で発作を起こすことはなかったようですが、
後半ではステージ上で演奏の最中に発作を起こして
途中で引き上げることになります。
彼の発作はコントロールされていなかった、と言えるでしょうが、
その最大の理由は、きちんと薬を飲んでいなかったことに起因するでしょう。
劇中でも、薬なんか飲んでいないというセリフがありますし、
薬に対する不信感もあったようです。
映画の中盤では、イアンがてんかんの薬を飲むシーンが何箇所かあります。
しかし、映画の後半ではありません。
洗面所で自分の歯茎をみるシーンがありますが、
こりはフェニトインという抗てんかん薬の副作用である「歯肉増殖」が
現われていたことを表します。
つまり、この辺までは、きちんと薬を飲んでいたようですが、
その後は、おそらくこうした副作用のために、薬物に対する不信感も
強まり、服薬していなかった、あるいは服薬が不定期になっていたと
推測されます。
どんな「てんかん」でも、薬をきちんと飲まないと、
絶対にコントロールできません。
あと、てんかんのコントロールで重要なのは、「睡眠」です。
劇中でも、睡眠不足にならないように医師から注意されるシーンがありますが、
ミュージシャンですから、当然、深夜のライブというのも日常茶飯事であり、
睡眠不足にならない方が難しかったと思われます。
最初の発作も、夜の車の中で起きています。
おそらく、このとき彼は非常に疲れた状態だったと思います。
映画では、職業安定所の仕事中に居眠りするシーンがありますから、
彼が慢性的に睡眠不足だったことは間違いなさそうです。
きちんと薬を飲んで「てんかん」がコントロールされていても、
たった一回の徹夜で発作を起こすこともありますから、
「睡眠」というのは、「てんかん」のコントロールには
非常に大切なのです。
さらに医師から禁止されているお酒を飲んだりと、
彼はかなり不摂生な生活をしていたようです。
ミュージシャンとしては普通のことなのでしょうが、
このような状況では、「てんかん」のコントロールは
非常に難しいと思います。
イアンは、有名になるにつれ、感情が不安定になり、
ステージに上がるのも不安でできなくなります。
これは、「有名になることのプレッシャー」ということで
理解することも可能ですが、映画を見ていると
彼の不安感は度が過ぎている、というか異常な心理状態で
あることがわかります。
「てんかん」をコントロールしないで放置しておくと、
発作が頻発する以外にも、感情不安定になります。
よくあるのは、怒りっぽいくなる。
感情を抑えられなくなり、自分の感情を爆発させてしのう、
というのがあります。
あるいは、「不機嫌」な状態が多くなる、というのもあります。
イライラが強まったり、不安感が強まったり、時に妄想的になったり、
抑うつ的になったり、様々な精神症状を呈します。
これらの感情の不安定さは、映画後半のイアンの精神状態と
見事に合致します。
ここまでのイアンの状況を整理しますと、以下のようになります。
もともと彼は「てんかん」の素因を持っていたと思いますが、
普通に職業安定所の職員として生活していたころは
比較的規則的な生活を送っていたため、睡眠不足にもならず、
発作を起こすことはなかったのでしょう。
それが、アーティストとして成功してしまったために、
身体的にも精神的にも疲労がたまり、慢性的な睡眠不足と
身体的な疲労によって、てんかん発作が起きやすくなってしまいます。
医師から薬を処方され、最初は定期的に服薬していたものの、
歯肉増殖などの副作用も出現し、薬に対する不信感も現れ、
次第に服薬が不定期になるとともに、発作がコントロールされなくなり、
さしばしば痙攣発作を起こし、「てんかん」と関連した精神症状
(気分の不安定さ、怒りっぽい、不機嫌、妄想的)が現れた、
と推測します。
彼がきちんと、抗てんかん薬を服用し規則正しい生活をして
いたとしたら、また別な人生があったかもしれまくせんが、
映画では、高校生の頃、統合失調症の薬をおもしろ半分に飲んで
ラリるシーンがあるように、イアンの「薬」に対するだらしなさが
描かれていますから、医師の指示通りに服薬するというのは、
難しかったのかもしれません。
さて次号では、イアン・カーティスの自殺の理由について
考えてみます。 (次号に続く)
■映画「CONTROL」は、渋谷シネマライズ他で上映中
http://control-movie.jp/indexp.html
※以上の考察は、映画「CONTROL」に描かれたシーンをもとに
考察したものです。
※以上、「てんかん」について、簡単に説明しました。
多少説明不足の点もありますので、詳しく知りたい方は、
さらに以下のサイトなどをご覧ください。
●日本てんかん協会 http://www.jea-net.jp/
●ウィキペディア http://01.futako.info/a/014.html
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