2008.09.25
千字一話物語 700話 ニートの楽園
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■ 千字一話物語 川崎ゆきお
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700話 ニートの楽園
精神的な傷を負い、社会生活ができなくな
った青年が、友人との交流で心を開いていっ
た……というのなら、よいのだが、世の中そ
れほどうまくいくものではない。
吉村は小学生の時に所謂精神的な傷を負い、
その後人間関係ができなくなった。対人恐怖
症だろうか。他人が何を考えているのかを考
えると怖くなるのだ。
その後吉村は学校にも行けなくなり、やが
て二十歳を迎えた。
両親はそれではいけないと思い、フリース
クールへ通わすことにした。それなりに裕福
な家庭で、余裕があったのだろう。その余裕
が災いしていることに気づかない。
「そんなもの、ほっとけばいいのよ」
吉村の叔母が以前そんなことを言っていた。
「結局弄り過ぎなのよ」
この叔母は下町のおばさんで、スーパーで
パートしている。仕事仲間のボスだ。
吉村はフリースクールに通うようになった。
さすがに二十歳になっているので、それなり
の分別はできている。
所謂ニートのような青年が多く来ている。
全く話をしない青年もいる。教室でゲーム
をしているだけだ。
自宅でもゲームはできるのだが、この青年
はあえてこのスクールへゲームしに来ている。
何でもいいから他者との関係が生まれる可
能性の高い場に体を置くことが大切なようで、
指導員も放置している。ここに来ていること
が大事なのだ。
吉村は、指導員から好きなことをやるよう
に言われたが、特にやることがない。
自分と同じような仲間を見ているだけでや
すらいだ。
そのうち、仲間と話すようになるのだが、
単純な会話でしかない。相手も自分のことを
語らない。
ゲームの好きな青年はキャラクターのレベ
ルが今いくらかを話す。敵のモンスターがな
かなか強いので、攻略方法を考え出したとか
の話題のみだ。
ずっと本を読んでいる少女は、一切話そう
としないし、話しかけられるのを嫌っている
ようだ。
吉村は居心地が悪くないので、ほぼ毎日通
っている。
指導員が盛んに他の人間との接触を促すよ
うなイベントを作るが、吉村たちは適当にこ
なしている。
「甘やかしすぎなのよね」
叔母が言うとおり、吉村は相変わらず心を
閉ざしたままだ。その傾向がますます強くな
ってきたように叔母には思えた。
了
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