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鶴原顕央の【映画批評と物語構成論】


2008.07.14

映画批評0068「Ghost in the Shell/攻殻機動隊2.0」


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■□映画批評と物語構成論0068□■


     『Ghost in the Shell/攻殻機動隊2.0』
       Ghost in the Shell 2.0 (95+08)


◇ ◇

『マトリックス』(99)に多大な影響を与えたとされる『Ghost in the Shell
/攻殻機動隊』(95)ですが、初公開時は、日本においても、海外においても、
大ヒットしたとは言えず、「そういう作品があるらしい」という情報のみが
先行して、つまり「すごいアニメがあるらしい」という情報のみで現物をだ
れも見ていなかったからこそビデオ発売時にアメリカでビルボード1位を獲
得し、この「ビデオ部門ビルボード1位」という情報が逆輸入されるかたち
で「『攻殻機動隊』は世界的なアニメ。監督の押井守は「世界のオシイ」」
と言われるようになった──という「意図せざるヒットの経緯」があります。

 その点を踏まえて今回リメイクされた理由を考察してみると……


  ●いまいちどスクリーンで『攻殻機動隊』を観て欲しい
     (劇場で観たことのある人が少ないから)
     (劇場で観賞してこそ「劇場映画」)
     (そのためには新作として化粧直し)

  ●『ブレードランナー』だって日々是アップデートされているわけだし
     (「だからリメイクしてもいいよね?」というエクスキューズ)

  ●続編『イノセンス』(04)の世界観に合わせることで
   『攻殻』〜『イノセンス』のシリーズ観を統一
     (来たるべき第3作へと繋げていく?)

  ●『マトリックス』に模倣された要素(色調など)を排除することで
   作品としてのオリジナリティをいまいちど確保(し直す)

  ●2つの「オリジナル版」を提示することで
   現実味を帯びてきたハリウッドリメイク企画を牽制&撹乱
      (やられるまえにやってしまおう)
      (オリジナル版制作者としてのプライド)

  ●登場キャラクター「人形使い」が誤解されていると感じていた
      (ストーリーの修正)

  
 ……という上記の6つの理由が考えられます。

 登場キャラクターの1人である「人形使い」は、男でも女でもない、性別
を持たない人工知能体で、それが主人公の草薙素子をネット上からストーキ
ングして執拗に付きまとい、終いには「融合しようじゃないか?」と持ちか
ける──それが『攻殻機動隊』のメインストーリーなわけですが、原作のマ
ンガのままであれば、それはマンガですから声は無く=男か女かを気にする
必要は無いわけですが、映画となればそうもいきません。

 たとえ人工的な合成音声(あるいはコンピュータによる完全な人工音声)
であろうとも、その性別を判別しようとしてしまうのが人間の耳ですから、
映画に「人工知能」を登場させ、それに喋らせようとなった時点で、「人形
使い」の声を男にするか女にするかの決断をせまられます。


  ●95年のオリジナル版の「人形使い」は家弓家正で「男性」
  ●今回のリメイク版の「人形使い」は榊原良子で「女性」


 監督は『攻殻機動隊』の前作『機動隊警察パトレイバー2 the Movie』(93)
の展開をめぐってその作品にも声優として参加した榊原良子と意見が対立し、
以後しばらく疎遠になっていたという話ですから、ひょっとしたら95年の当
初から本当は「人形使い」役には「榊原良子=女性」を使ってみたいと考え
てはいたのかもしれません。
 それが今回、交流が復活したので晴れて起用できた、と。
 その可能性はあります。

 しかしそれだけが理由ではないでしょう。
 主要キャラクターの声が「男性から女性」に変わった──それが今回のリ
メイク版のセールスポイントの1つである以上は、そこには「オリジナル版
を改変する」に納得するだけの深い意味がなくてはなりません。

 オリジナル版の「男性の声」のままだと、「女性の疑体に乗り込んでいる
ド変態のオッサン」というイメージで人形使いが誤解されかねず、ただでさ
え「難解だ」といわれている作品ですから、ここで誤解されてしまっては、
たとえそれがどんなに紳士的な声であろうと、ド変態のオッサンというイメー
ジは本来の「人形使い」の意図するところ──「無性別」とは対極に位置し
てしまいます。
 ド変態のオッサンと誤解されるぐらいなら女性の声のほうがいい。
 それが今回の改変の理由でしょう。

 これが女性の声になると、途端にストーリーが整合されて、しっくりして
きます。


  ●本編開始約35分の船上の相棒バトーの台詞「いまのおまえだよな?」
    (人形使いの声を草薙素子の声と聞き間違える)
    (女の良く似た声だったので聞き間違えた=すんなり)
  ●人形使いを開発したドクターが人形使いを「彼女」と呼ぶ
    (「彼女」なのに「男の声」=変態?)
    (「彼女」だから「女の声」=すんなり)


 今回の改変によって主人公の草薙素子は「自分に良く似た存在」に付け狙
われ、そして「融合した」ということになり、ストーリー内容はガラリと一
変することになりました。
 その代わりにその草薙に想いを寄せていた相棒のバトーの「肉体を持たな
いヤツに寝取られた」悔しい気持ちは「嫉妬」から「なんだか複雑な気分」
に変更されることになり、続編『イノセンス』の意味合いも少し変わってく
る……。
    (本当は変わらないはずなのに)
    (それが「声の印象」の凄さ・不思議さ)

「オリジナルを改変(改悪)した」という言葉は良く聞いても、「オリジナ
ルを改善した」とはあまり聞きませんから、リメイクというものは常に功罪
あって一長一短なのでしょう。

 しかし同じ押井監督の新作『スカイ・クロラ』の公開前にこの『攻殻機動
隊』が再公開された意義は大きく、『スカイ・クロラ』のヒロイン草薙水素
(ほとんど同じ名前!)が洗面所で髪を掻き上げる仕草の、その意味を補完
するためにも、『攻殻機動隊』を『2.0』で見直しておくのは良いことでしょ
う。


◆ ◆ ◆                        ◆ ◆ ◆


  次回はチャウ・シンチー監督・脚本・出演の『ミラクル7号』!!
     その「父と子」の関係について検証します!!!


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