2008.08.11
映画批評0072「スカイ・クロラ」(その2)
■□映画批評と物語構成論0072□■
『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』
The Sky Crawlers (08)
◇ ◇
宮崎駿監督作品を観て「なぜこれを実写でやらないのか?」と言う人は少
ないけれど、押井守作品に限っては「これを実写で観たかった」と思う人は
多いようで、関連作品の「実写」リメイク権がハリウッドやフランスで売ら
れつづけている事実も、それだけ作品が「リアル」に見え、「実写でリメイ
クしたい」衝動にかられているということの証拠でしょう。
※http://www.imdb.com/title/tt1219827/
※http://www.imdb.com/title/tt0806027/
CG技術が急速に発達し、アニメと実写の境界線が曖昧になってきた昨今
においてはなおいっそう、「なぜアニメなのか?」、「なぜ実写じゃないの
か?」は強い疑問として観客・製作者その両方に重くのしかかります。
しかし今回の『スカイ・クロラ』には「アニメで製作される意義」がきち
んと理論武装されています。
原作小説にある「思春期の姿のまま永遠に生き続ける子ども」という特異
な設定を(映像として)違和感なく観客に理解(納得)してもらうには「ア
ニメ」という方法しかありえません。
これを実写でやってしまうと、「思春期の姿のまま永遠に生き続ける子ど
も」なんて現実にはいないのですから、たとえどんなに起用な役者が演じよ
うとも、あるいは無名の新人子役、いや、たとえ誰が演じようとも「生身の
人間が持つリアリティー」が「思春期の姿のまま永遠に生き続ける子ども」
という設定に相反する──観客がきっと抱くであろう「実際は違うじゃない
か!」という頭の片隅の疑問を払拭することが決して出来ない、その一点に
おいてこの物語はアニメで映像化される以外になかったといえるはずです。
『ロード・オブ・ザ・リング』のホビットの例があるじゃないか! と思う
人もいるでしょう。あの映画では「小さな人たち」を「大人の役者たち」が
「実写」で「違和感なく」演じていました。
技術と工夫によっては「思春期の姿のまま永遠に生き続ける子ども」を実
写で作り上げることも可能だったのではないか?
そう考えても当然です。
ですが『ロード・オブ・ザ・リング』は「ホビット」を描くことをテーマ
にはしていません。「指輪物語」の世界を実写で描くことを第一義にして、
監督も観客もそれを期待して映画を観に行っているのですから、『ロード・
オブ・ザ・リング』は実写で映画化されることに意味があり、対する『スカ
イ・クロラ』は「永遠に生き続ける子ども」を発端にして物語が展開してい
くのですから、そのスタート部分で「違和感」があってはなりません。
つまり『スカイ・クロラ』に関してはアニメで製作される以外に物語を展
開させるすべはなく、たしかにアニメと実写の境界線は曖昧になってはいる
ものの、依然として本作に関しては「これを実写で観たかった」と言うこと
自体がナンセンス。
しかし、そのいっぽうで「思春期の姿のまま永遠に生き続ける子ども」と
いう『スカイ・クロラ』のこの特異な設定は、アニメの世界においては「あ
たりまえ」のことでもあります。
「サザエさん」も「ドラえもん」も、そして「ザ・シンプソンズ」もそのキャ
ラクターたちは「永遠に生き続けた」ままの姿で歳をとることをしりません。
大人は大人のまま、子どもは子どものままで進級もしないし、永遠に同じ年
齢、永遠に同じ日常を生き続けています。
それだけではありません。さらにいえば「子どもたちが(ショーとしての)
戦争に参加させられている」この設定も、実はアニメの世界ではあたりまえ。
「ガンダム」も「エヴァンゲリヲン」も戦争に参加させられているのは常に
子どもたちです。

アニメの世界においては「あたりまえのこと」をいちど解体し、それらを
「違和感」として描く。この映画はそれを立脚点にして製作されています。
アニメ化されることを前提にして執筆してはいなかったはずであろう原作
小説を、アニメの世界に持ち込んで、それらを「違和」として描く──映画
本編とはまったく関係ないところで実に倒錯的な試みが施されている……そ
れがこの『スカイ・クロラ』だということができます。
では、そのストーリーは果たして「映画としてどうなのか?」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ということで、
次回は『スカイ・クロラ』のストーリー部分を検証します!
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