2008.08.18
映画批評0073「スカイ・クロラ」(その3)
■□映画批評と物語構成論0073□■
『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』
The Sky Crawlers (08)
◇ ◇
この映画は非常に淡々としていてギャグもなく、「ショーとしての戦争」
という謳い文句に反して、それに熱狂する市井の人々が描かれているわけで
はなく、テレビでそのニュースを見つめる人々の目は冷めています。
この「冷めている」雰囲気は、この映画全体を覆っていて、たとえばダイ
ナーで煙草を吸いまくるキルドレたちを小突いて「ガキが煙草を吸っちゃ駄
目じゃないか!」と怒鳴るオヤジが出てくるシーンの1つでもあれば(そし
て「スマン……君たちはキルドレだったのか」と謝罪する)、きっと観客は
緩和をおぼえたにちがいないのに、それもありません。
そもそもが説明不足気味で、中東欧の風景のなかで日本人たちが戦闘機に
乗り、それを日本人たちが整備している──これで「日本人部隊」のひと言
でもあれば状況説明的にはグッとラクになったにちがいないのに、またそれ
もありません。
そのいっぽうで本編開始後85分のところで「この戦争の意味」を説明し、
95分のところで「キルドレの意味」を淡々(延々)と語ってみせる。
しかもこの語りはその台詞を言う登場人物の解釈(可能性)にしかすぎず、
結果として物語の詳細を明らかにしない──コンペティション部門に出品さ
れた本作がヴェネチア国際映画祭で質問責めにされ、叩かれまくるであろう
ことは容易に予想できます。
しかしそれはこの映画の「世界観」を気にしているからこそ疑問に思うこ
とであって、劇中の主人公は「この世界観の説明不足気味」を気にしていま
せん。
現状を描きつつ、その現状を打破する勇気を描かない──押井守監督には
この映画と良く似たシチュエーションを描いた『うる星やつら2 ビューティ
フル・ドリーマー』(84)という前例(前歴)があって、昔は打破してみせた
くせに今回は状況に甘んじている、これは作家としての後退ではないのか?
そういう批判もすでに多く出ています。
『うる星やつら2』の諸星あたるは「この世界観の説明不足気味」を疑問に
思って、それをきっかけにして現状を打破していくわけですが、今回の函南
優一は自分が置かれた状況を疑問に思わず、それでも最後の最後で一歩を踏
み出す。ここに「差」があります。
『うる星やつら2』との類似性は、劇場で売られているパンフレットにも
ハッ
キリと書かれていて、それを承知でやはりこの映画を許せないか、あるいは
主人公に感情移入して「最後の一歩」の「差」に想いを感じるか──いずれ
にせよ「また同じ毎日が始まる」という夢オチ的エピローグは『うる星やつ
ら2』とまったく同じであり、しかしヒロインの草薙水素の反応が最初とは
「微妙」にちがう。
ストーリーそのものはシンプルですが、説明不足気味でもあり、またその
いっぽうで劇的な盛り上がりを欠きまくっているせいで「映画」としては理
解しにくく(本当に「劇的」に盛り上がりたいのであれば戦死すべきは銀髪
の新聞折り畳み男ではなくて谷原章介演じる相棒の土岐野のほうであり、特
徴的な性格の彼が戦死して、それでも同じような男が赴任してくれば、それ
は異常な出来事として「とてつもなく劇的」であったはずなのに)、しかし
本作はそれをさけて「映画的な分かりやすさ」を追求しなかった。
この映画は淡々とした状況を描きつつ、アニメのキャラクターの微妙な動
きに(かすかな)心情の変化を託した──それを評価するのか、あるいはし
ないのか──ヴェネチアでの反応(と結果)が楽しみです。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
次回は全米大ヒットばく進中『ダーク・ナイト』!!
Point:ジョーカーを殺すべきか、殺さざるべきか!?
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