2008.04.18
暖かいお酒 第六号
杯洗ってなあに?
「おい、一杯いこか」
「有り難うございます、戴きます」
昭和三十年代では、こんな会話が酒席ではよく交わされていました。
杯を渡されたら、注がれた酒を飲んで、杯洗で洗って返杯するのが礼儀でした。
大きなお椀のような、洋食を食べる時使うフィンガーボウルのようなもの、
といっても分らなければ適当に想像してください。
杯洗は壊れていなければ料亭には一応あるでしょう。
冒頭の会話は、親密な感情の表現なのですが、
厳然たる事実として、縦割り社会の上下関係の確認なのです。
従って同僚にはしません。
俺の杯が受けられねえって云うのか
なんて安手の啖呵がありますが、
受けるとそいつの弟分になってしまうケースもあるでしょうから
喧嘩にもなりましょう。
杯事はいまでも結婚式ではやっていますし、
宴席での献酬(杯のやりとり)は大事な行事で、
杯の持ち方まで指導されました。
献酬も凝ったスタイルになると、徳利を持って相手の前に座り、
お流れ、頂戴と云ったりします。
杯洗はこんな儀式めいた時、使用されました。
都会では大分前から見かけません。
しかし冬は酒席の多い地方では今でも楽しみながらやっているかもしれません。
よそよそしい事を、水くさいといいますが、
献酬するたびに杯洗の水で杯を洗われたのでは、
杯も冷えるし、酒も水っぽくなるところから来た言葉じぁないでしょうか。
杯洗があったにも拘わらず、水くさいなんて云われるんじゃ、
杯洗はなくなる訳ですし、面倒くさい献酬なんて時代にあわないから、
消えて当然でしょう。
芸者衆が宴席で客に杯を差されると、
杯についた口紅を帯に挟んだ小さな布で拭いて、
返杯する仕草が色っぽかったものでした。
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