2008.05.12
澪温泉物語 貝原 潤
“はやく帰れっていっとろうが!!”
”でも、ひろしちゃん。“
“うるさいはやくかえれ!”
“でも・・・・・・・・”
4人が部屋に入ると、新入生らしき子がベッドに座って立ったままいる母親にどなって
いる。
そこに2年生の子が居場所のないようにうろうろしている。
山田がきいた。
“梶原。もう飯は食ったつか?”
“おお!食ったばい”
新入生の母親がこちらを見て挨拶する。
”あら!この部屋の方々ですか?藤家の母です。よろしくお願いします。亨栄第一小学
校出身です。“
亨栄市は熊本第2の市で人口約20万の市である。
”このばばー。余計な事を言わんとはよ帰れ!“
藤家の半狂乱になった様子を見て、藤家の母は、
”それではみなさんよろしくお願いします。“
と慌てて立ち去りながら丁寧なあいさつをしていった。
しばらくの静寂の後、山隅が、
“僕は3年の山隅といいます。この部屋の室長です。よろしくね。”
“俺、2年の山田。藤家君、君はいい体しとるなあ。ハンドボール部に入らないか?”
藤家は黙って睨みつける。
磐田が、
“俺1年の磐田ちゅうねん。よろしくな。”
“僕は、粕谷といいます。よろしくお願いします。新入生です。”
藤家はじろっと粕谷を見ると、睨めつけ、そのまま4人を見渡した。
そして威嚇するように3段ベッドの柱を殴りつける。
山隅は言った。
“今から食事に行くけど藤家君もどうだい。”
無愛想に藤家は答える。
“もう食った。”
“僕たちは食べに行くから。風呂に行くなら奥から下に降りたところだからね。”
そう言って、4人は部屋を出た。
“あっつ俺も行く。”
梶原が後ろから付いてきた。
山田は、
“お前は食べたっじゃなかったつか?”
“なーん。お茶でも飲んどくたい。あがんかとこに2人でおられるもんか。”
相当ビビっているようだ。
“粕谷です。”
“磐田です。”
“おー俺は、梶原たい。よろしくな。2年B組でグリークラブに入っとります。”
粕谷は聞いた。
“グリークラブてなんですか?”
山田が答える。
”みんなで歌ば歌うとたい。“
梶原が答える。
“17世紀にイギリスで生まれた男声合唱団のことだよ。火の国学園のグリークラブは
有名で、熊本では中学、高校ともよく優勝しとるとばい。音楽の時間にうまかったら吉
田先生から誘われるかもしれんよ。”
そうして風呂場と反対側の階段を降りると、階段の下にドアがありそこを開けると食堂
だった。30人ほどの生徒が食事をしている。
“もう6時半過ぎとるけんが、少なかたい。点呼に間に合うように早く食べなんば
い。”
山田が言うと、梶原が、
“俺がお茶ばついどくけん。みんな飯ばついでくったい。”
ぱらぱらと全体のうち散在した金属のお盆の上に乗った夕食を4個壱か所に集めてき
た。大きなお皿の上には鳥の腿の丸焼きが載せられ、小さな皿にはサラダが持ってあ
り、お椀の中には肉じゃがが入っていた。小さな皿には高菜ずけが乗っていた。大きな
丼くらいのプラスチック製のご飯じゃ椀がさかさまに置いてあった。金属のお盆を持っ
て梶原がお茶を5個運んできた。その間に山隅と山田はプラスチック製の丼じゃ椀を持
って、
゛御飯はこれにつぐとたい。持っていくとおばさんが継いでくれると。大盛りとか少な
めにとか言うとよ。“
と山田が促した。
“何杯でもお代わり自由だけんね。”
と山隅が言うと、
゛3杯も4杯も食べるとは山隅さんだけやけん。“
と山田は笑った。
山隅がおばさんに大盛りを要求しついでもらうと、
寮のおばさんは、
“山隅君。肉じゃがの残りがあるけど食べるね?”
と言われ、大皿いっぱいの肉じゃがと大盛りのごはんを両手に抱えて行った。
山田も大盛りをついでもらっている。
゛あんたたちは新入生ね。まずは普通のごはんでよかろう。山隅君は特別大食いじゃけ
ん。“
“はい普通でよかです。”
普通と言っても大きな丼に入っているので、普通のご飯じゃ椀の2倍はある。
゛食べれたらお代わり自由だけんね。“
おばさんの掛け声に見送られて入口から3列目の左の席に5人で囲んだ。入って右側に
はテレビが置いてあり、食べながら見る人や、食べ終わってテレビを見ている集団があ
った。
左側は人が殆どいなくて5人の貸し切りみたいだった。
お茶をみんなに配りながら梶原が言った。
“あの藤家て言うやつはろくなやつじゃなかばい。たいがいあのお母さんに甘やかされ
て育っとるごたる。”
山田は、
゛えーそがんや。たいがいしめんといかんなあ。“
山隅は、
“まだ、一回会っただけやろうが、まだわからんたい。”
と言って黙々と食べ始めた。
4人とも黙々と食べ始めたので、お茶を飲んだ梶原は、
“向こうでテレビば見よくけん。部屋に戻るとき声ばかけてくれや。”
と言って、テレビを見に行った。余程一人で部屋に戻るのは嫌なようだ。
山隅が4杯食べ終わるのと、3人が1杯食べ終わるのが大体同じくらいだった。
洋一は一杯とおかずで、おなかいっぱいになった。
“山隅はどんなお腹をしているか?”
と思った。7時10分ほど前だった。梶原を誘って205号室に戻った。
藤家はベッドの一番下で寝ていた。ここは3段ベッドが2つあり、1年生が1番下に2
人と2番目の真ん中に一人。梶原がもう一つの真ん中。山隅と山田が1番上のベッドだ
った。奥に6個机が置いてあり横には大きな本立てが付いている。本立てが机と机の境
にもなっている。入ってすぐの洗面台で洋一は歯を磨いていた。山田が、
“洋一は行儀がいいなあ。食後歯を磨くやつはめったにおらんぞ。”
とひやかした。そしてさらに、
“明日の朝6時に起きてバスケットばしてみらんや。面白かぞ。”
と言ってきたので、
“よかですよ。”
と答えた。
“点呼!!”
という声が廊下に響き渡って、
山隅が、
“廊下に集まってならばなんたい。”
と言って先に出て行った。
山田が、
“藤家起きろや。”
と言うと、
”何や!!“
と言って殴りかかりそうになった。
山隅は出て行っていたが、残りの4人はびっくりした。
山田は、どきまぎしながら、
“7時の点呼でみんな集まらなんとたい。”
と言うと、黙って藤家は起きだして廊下に並んだ。
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