2008.05.17
澪温泉物語 貝原 潤
梶原が小声で、
“びびってやんの。”
とからかった。
“お前こそビビッて食堂まで付いてきたくせに。”
と山田が言うと、梶原は、
“お前その前もなあ。ハンドボール部に入らんかとかへんなことをいっとったぞ。お前
もびびっとったろうが。”
“静かに!!”
2階の舎監のブラザーフランシスコが注意した。
”新入生の子達、火の国学園にようこそ私はブラザーフランシスコです。2階の舎監を
してます。スペインから来ました。私は中学のサッカー部の監督でもあります。よろし
くお願いします。それでは点呼をお願いします。2階の寮長。“
”はい。俺は寮長の白鷺だ。201号室から答えてくれ。
“201号室”
“異常なし”
“202号”
“異常なし”
と各部屋の室長が答えていく。
“214号”
“はい。柴崎が発熱で寝ています。”
というように220号室までの点呼が終わった。
2階の寮長が言う。
”点呼はこれで終わりで、新入生は1階の食堂に集まるように。“
”2年と3年の係りの者以外は自習をするように。“
山隅、梶原はベッドの奥にある机に座った。
この寮は普段は7時の点呼から9時までは自習の時間である。そして9時半まで休み時
間で、9時半から10時半まで学習時間の後睡眠となる。希望者は11時半まで勉強し
てもよいが、ベッドのあるところは11時消灯となる。机の前の蛍光灯のみで学習する
ことになっている。そして全員が12時までには寝なければならない。
山田が、磐田、粕谷、藤家を連れて食堂へ行く。
食堂には島田寮の新入生がすでに来ていた。
山田はこそっとアドバイスをした。
“お前ら、後ろのほうにいっとったがよかぞ。”
磐田と粕谷は最も後ろに行ったが、藤家は島田寮生の一番後ろのあいた所に座った。
その結果磐田と粕谷の前には、藤家からずっと空席となった。その後降りてきた3階、
4階、5階の小崎寮の新入生がその空席を順番に埋めていく。
だいたい全新入生が揃いかけたころ、いつの間にやら山田が一番後ろにきて磐田と粕谷
に聞いた。
“俺、藤家にハンドボール部に入れって言ったか?”
2人ともうなずいた。
山田はバスケットボール部に入れと言うつもりが、少しビビッていたのか、間違えたこ
とにうなだれて前のほうへと進んでいった。
新入生ががやがやしていると、竹刀をもったいかつい男が叫ぶ。
“うるさい!!”
前を見ると、空手着に竹刀を持ったものが数名立っていて、その他には私服に竹刀を持
ったものがやはり数名いた。藤田、山田も私服のまま竹刀を持っている。全体で10人
ほどの人数だ。空手着を着た大柄な人が(実はのちにこの人は小島というのが判っ
た。)、さっきうるさいと怒鳴ったとても恐ろしい人に話しかけた。
“谷木さんそろそろよかですか?”
“おう!”
“そしたら始めますけん。”
と小声で言った後、大声でみんなにこういった。
“今から、火の国学園の礼儀を教えるから、よく聞くように。”
と話し、
”まず、先輩にはさんずけ、同級生はくんずけで話すこと。“
磐田が粕谷に小声で話しかける、
“同級生のくんずけなんかみんなしとらへんやんか?”
粕谷もそう思ったが、シーンとした恐ろしげな雰囲気が続いているので、
黙ったままでいた。
小島はさらに続ける。
“先輩に会った時は、必ず朝はおはようございます。昼はこんにちは、夜は今晩はと言
う。”
“では練習だ言ってみろ”
“おはようございます”
皆が言う。
“おはようございます”
“声が小さい”
谷木が怒鳴る。
“おはようございます”
もう一回小島が言うと、今度は皆大きな声で、
“おはようございます。“
”こんにちわ“
“こんばんは”
と言わせた後、先輩には敬語で話すこと、どんな先輩でも敬うことなどを話して小島先
輩の話が終わった。
次に立ったひとは、いかにも弱そうな人だった。
数人が場違いな様子にクスッと笑い声を出した。
“今笑ったやつ出て来い!”
谷木が叫んだ。怖い雰囲気が再び呼び戻された。恐ろしくて誰も出てこない。
その中で、ひ弱そうな人が言った。
“なめんなよ!!今、小島からも言われただろう。どんな先輩でも尊敬するように
と。”
粕谷は、
“同級生はくんずけじゃないのか”
と思ったが、とても口に出せる雰囲気ではない。磐田も黙ったままでいる。
ひ弱そうな人の話をみな黙って聞いている。まるで狐が後ろの虎の威を借りて、
狼たちに説教をしているようだ。
“だからどんな先輩でも敬う気持ちがないといかんぞ。年上なんだから。”
と言って話を終えた。延々と30分近く話した。
次は藤田の番だった。また似たような話をするのかとうんざりしていると、
“小木曽の言うことも、よく守らんといかんけど、俺たちはせっかく火の国学園に来た
ので人生を楽しまなければならん。”
と言う話に持ってきた。そして、延々とサッカーの話が始まった。
これも30分近くかかった。その内容は、
”自分は小学5年生からサッカークラブにはいっていたが、この中学に入って目が覚め
た。レベルが高いので一生懸命練習した。おかげで中一の後半ごろからレギュラーにな
れたが、秋の大会では県で2位だった。その前は3位だったと聞く。今年こそ優勝した
い。“
と話し、
“俺はサッカーをやりすぎて勉強は今一つだが、3年の山隅さんはいつも5番以内に居
る。彼が今年のキャプテンだし、充実した生活を送りたい奴はサッカー部にこい。”
と結んだ。
小島が、
“おいサッカー部の宣伝の場じゃないんだからな。”
と釘を指すと、
“すまん。すまん。つい優勝しようと思うと有力なやつを入れたく思ってな。”
その後剣道部の佐伯、柔道部の水田、同じ部屋のバスケットボール部の山田が話を終
え、
小島が言った。
“谷木さん。しめをお願いします。”
“俺はいいよ。”
“お願いしますよ”
“しょうがないなあ。”
みんな、最後はどんなに恐ろしいことを言われるかと固唾をのんでいると、
“まあそういうことだから、先輩の言うことはよく聞きましょうね。俺はただ一人の3
年の谷木て言うけど、山隅の言うようにもう来年からやめてもいいかな。”
とか言い出した。
山田と小島が、
“谷木さん!!”
と制し、
小島が、
”一応これで終わるので、新入生は各自勉強部屋に戻るように“
と言ったとたんチャイムが鳴ったので、
”30分の休み時間だから、30分後に勉強部屋に行ってくれ。今からは自由時間だ。
“
と言って解散となった。
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澪温泉物語
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