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澪温泉物語


2008.05.19

澪温泉物語              貝原 潤


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一番後ろにいたため、粕谷と磐田が205号室についた頃には、部屋には皆揃ってい
た。
2人がついたと同時に小島が入ってきた。
“藤家お前よう火の国学園に受かったなあ。”
゛ああ小島か。まあよう勉強したからな。“
“今教えたばっかりだろう。小島さんだろう。お前、なんか勘違いしとるぞ。この学校
はな喧嘩したら退学になっとぞ。”
さらに、続く、
“ものすごそれは厳しくて2年前空手部の先輩が高校卒業式の後数日して、すぐ他校と
喧嘩してまあ2人で5人ほど相手して勝ったんだが、3月31日までが高校の期限だと
言われて退学になったそうだ。それくらい厳しいとぞ。”
藤家は黙って聞いていたが、思い出したように聞いた。
“谷木が大人しゅうしとるわけないだろう。”
後で、藤田に磐田が聞いたところ、谷木、小島、藤家は亨栄小学校の3代続いた番長
で、谷木が火の国学園の番長になってると思い藤家はやってきたそうだ。小学4年の時
5年の小島を倒し6年の谷木にさんざんやられたことをかなり恨みに思っているらし
い。藤田はそれを聞いてそういうやつこそサッカーをやらせようと心に決めていると磐
田は言っていた。
小島は小声になって話す。
“実は内緒の話だが、谷木さんが中2の頃この部屋の山隅さんと喧嘩になったが、全然
歯が立たなかったそうだ。”
”ええーあのなまっちょろいやつに。“
奥で勉強中の山隅をベッドに座っていた藤家は見てしばらく考えていた。
その様子を磐田も洋一も見ていたが、洋一にはさっきまで優しく接してくれていた山隅
をスーパーマンのように思えた。
”とにかく喧嘩すっと退学になるけんね。小学校の時んごつすっとじゃなかぞ。“
と言い残して出て行った。
新入生の3人は荷物をかたずけていたら、廊下で2階の寮長から、
“休憩終わり。勉強するように。”
と声がかかり、さらに、
“1年生でかたずけが終わってないものは、勉強時間にかたずけてもいいから。”
と言ってまわっていた。
洋一は身の回りのものは、タンスにかたずけて、奥に入って、勉強道具を机の引き出し
の中に整理したり本棚に教科書を並べたりしていた。藤家と磐田はタンスの中の持ち物
をかたずけていた。
そのうち磐田が机のほうにきて、藤家もやってきた。藤家は熱心に勉強している山隅を
じっと見ている。それから、机のかたずけをしてみんなと一緒に勉強を始めた。
10時半になった。みな勉強をやめ205号室は早めに消灯をした。洋一も眠っている
と、
12時過ぎに白鷺と谷木が3段ベッドの1番上に寝ている山隅に話しかけている。
“島田寮の1年生が、例によってわんわん泣いて困っとるとたい。お前も慰めに来てく
れんや。”
洋一も起きだし、
“僕も行きましょうか?”
と言うと、
“1年生はよか。お前もさみしくなって泣かれたら困るけん。”
と白鷺が言った。
島田寮は1,2階にはベッドがずらっと並んで、3,4階が勉強部屋で机がずらっと並んで
いる。小崎寮に入る子は入試の成績が良い子だそうだ。そして島田寮では毎年ホームシ
ックにかかった子が一人泣きだすと、集団心理で多人数が泣き出すのだそうだ。山隅が
パジャマの上からセーターを着てベッドから降りた。洋一はそのまま眠ってしまった。
“おい!洋一、起きろよ。バスケットすっぞ。”
洋一は一瞬ここはどこだと思ったが、やがて寮にいることに気ずき、眠そうな目をこす
った。奥では誰かが電気をつけて勉強している。
“だれか勉強しとっとですか?”
山田が答える。
゛ああ山隅さんが早く起きて勉強しとらすとたい。今日は5時半に起きらしたごたる。い
つもは5時に起きなさっとだけど、さすがに昨日は2時過ぎに寝たごたるけん。“
寮生は5時に起きて勉強してもよいようになっている。5時前に起きるのは禁止されてい
る。
洋一はますます山隅を尊敬し、体操服に着替えて山田の後についていった。バスケット
コートは2面高校生たちの住む市野木寮の先にある。高校生になると寮をやめて下宿する
人が多くなるので、市野木寮は高校から火の国学園に入った人たちが主に入っている。
火の国学園では中学の時に中学は全部終わり、高校1年の教科書もほぼ終わった状態まで
進んでいるので、高校から初めて火の国学園に入った子たちは追い付くのが大変だ。高
校から入った子たちは2年で高校の3年分を終え、最後の1年は受験勉強のみとなる。中学
から入った子たちは、5年で中学、高校のすべてを終えるので高校から入った子たちに比
べれば楽である。そういうことで高校から入学した子はクラブ活動をしない子が多い。
とてもついていけないからだ。
バスケットコートには奥のコートに2人、人がいて交代ごうたいで、シュートをしてい
た。
山田が声をかける。
“おはようございます。”
二人が振り向くと、一人は昨日サッカーをしていた山城だった。
“おお!君は昨日サッカーをしていた子じゃなかか。バスケット部に入るんか?”
山田が答える。
“いやそういうわけじゃないとですが、バスケットにも興味があるごたっけん。連れて
きてさせてみようと思ったんですよ。”
もう一人の人が、
“おおそらよか。向こう側のコートでしてくれ。今、山城さんにシュートば見てもらい
よるけんが。”
“あ!彼は粕谷洋一ていいます。俺と同じ部屋です。洋一、こちらの方が、前キャプテ
ンの山城さん。こちらが新キャプテンの藤本さん。山城さんは高3、藤本さんは高2ば
い。この学校は高校3年になったら受験勉強のためキャプテンばやめんといかんとたい。
本格的な部活も3年の夏休み前までたい。“
さらに向こうのコートに行きながら話す。
“中学の部活は強かけど、高校はいまいちなのは、高3になったら本格的なクラブ活動ば
やめなんけんたい。有力選手もほかの高校に転校していくせいもあっとばってんが。”
“ああそういえば、山隅さんや藤田が、高校選手権に出たかけん高校3年の冬までサッカ
ーばさせてくれてお願いばだしとるごたる。山隅さんは何せ成績もよかし、サッカーも
うまかけん。まあ、どがんなるかわからんばってん。山城さんが去年、今年の秋の選手
権までバスケばさせて下さいとお願いしてだめだったけんなあ。夏のインターハイまで
て言われたつばい。”
“ところでバスケットはしたことがあるとね。”
“いやまったくなかとです。”
”それじゃあ詳しいことは入部してからと言うことで、まず、あの上のネットの中にボ
ールばいれてみらんね。“
“こぎゃんですか?”
片手で野球みたいに投げると、ボールはボードに当たって跳ね返ってきた。
”左手を添えて、右手をボールの顔の前に持ってきて、こがんしてシュートすればよ
か。“
山田がシュートするとネットの中にボールが吸い込まれていった。洋一は何回か繰り返
した。次はドリブルば、してからシュートすると。ドリブルは手を軽く掌に空気を含ま
せたようにして手首じゃなくて前腕を大きく使って上下に振る。いやいやそぎゃんじゃなか。それはまりつきたい。こぎゃんして。”
ドリブルにも時間がかかる。
”そしてドリブルをしてここでボールを止めてこがんしてジャンプ。“
山田がシュートすると再びネットに吸い込まれていく。
それを見ていた山城から声がかかる。
“山田えらい調子よかごたるなあ。”
”冷やかさんで下さいよ。いいとこば見せんと、はいってくれんかもしれんから。“
山城がそばに近寄ってきて、
“こうして左手を添えてよく狙ってシュートするとよか。“
手取り足取り教えてもらって洋一は感激した。
そうしてしばらくドリブルシュートの練習押していたが、
“もう7時になるけん寮に帰らなんたい”
山田が言った。
洋一は、山城にお礼を言って、205号室に戻って行った。
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