2008.08.08
reionnsenn monogatari Jun Kaibara
藤田がキックオフをする。ボールにちょっと触るのだ。そのボールをカルロスがもらっ
てドリブルをする。一人2人と抜く、3人目が当たりに来た時、湯来にパスをする。こ
こぞとばかりにバックスがスライディングをかける。ボールとともに湯来もジャンプす
る。
"ウオー“
と言う声がどこからとまなくあがる。こんな見事な個人技を見るのは初めてなのだ。
そして速いパスを出す。そこにはいつのまにか藤田がいて、サイドキックで確実にシュ
ートする。わずか1分とかからないうちに1点ゲットした。いつの間にか岩野先生が火
の国学園のベンチのそばにやってきていて、
"あの2人は反則ばい。うますぎる。何やブラジルから来たてちや?”
周りを見回してもカルロスと湯来と特に親しげなものはいないので、洋一が答える。
"はい。今年ブラジルからやってきました。2人とも日本語はうまいとですよ。”
"ふーん火の国学園にゃ留学生は多かとや?“
A組にはアメリカからの留学生がいると聞いていたので、
"1年生はあの二人を含めて3人だと思います。後一人は1年だけのアメリカからの交換
留学生です。”
そんな話をしていると、湖南中学のボールで始まったボールは、山隅がカットし藤田に
出す。藤田、カルロス、稲嶺から湯来さらに右に流れた藤田にパス。藤田が速い球を出
すと、それをカルロスが見事なボレーキックでシュートした。
"こりゃあいかん。”
監督の岩野先生は自分のチームに戻り。
"ハーフはバックに入り。11番9番を2人ずつでマークしろ。“
11番がカルロス。9番が湯来である。ちなみにサッカーを知らない人のためにボレー
キックを説明すると、宙に浮いたボールを体を斜めにしてインステップで足を円を描く
ように蹴ることである。インステップとは足の甲でキックすることでサッカーの基本で
ある。決して親指でボールを蹴るのが基本ではない。親指でボールを蹴るのはトウキッ
クという。
さすがに湖南中学は昨年中体連の優勝校で、卓越した個人技を持つ2人になれてきて前
半戦は一進一退となった。ハーフタイムになった。そうすると湖南中学のレギュラー連
中がカルロスと湯木の間に寄ってきて、
“すごいねえ。ボールと体がくっついているみたいだ。どうするとそんなにうまくなれ
るの?”
と聞いてきた。ベンチから補欠の連中も周りに寄ってくる。湖南中学はサッカーで有名
で、小学校で結構うまいといわれていた人たちが、引っ越したり、アパートを借りて母
親と自分だけでも越してきたりして、毎年問題になっているところなんで、熱心な子が
多い。さらに、熊本人は特有の方言“ワサモン”と言って、珍しいものには興味を持つ
性格が強い。
”ソレハネ、リフティングトイッテボールトナジムレンシュウヲ、イツモシテイルカラ
ダヨ。“
“ヤッテミヨウカ?”
慌てて山隅が止めに入る。
”そんなこと教えちゃ駄目だよ。“
それを藤田が制す。
"山隅さん。そんなちっちゃなことを言わずに、教えさせてあげましょうよ。熊本全体
の水準があがっるのはいいことですよ。“
山隅は、しぶしぶ
”いいよ教えてあげなさい。“
と言って、
゛俺たちも月曜から練習に取り入れるぞ。フランシスコ先生を説得しなければ。“
と浮かない顔をしていた。運動神経の良い湖南中学の連中は見よう見まねで、20や3
0回できる者もいる。洋一はびっくりした。
“この様にアウトサイドでもできるよ。”
湯来がアウトサイドでのリフティングをしてみせる。
汗びっしょりで戻ってきた藤家と洋一は顔を見合わせた。2人ともアウトサイドキック
はほとんどできないし、やってもちょろちょろとしかボールが進まない。
“おい!明日からアウトサイドのパスとキックとリフティングをしようぜ。”
藤家が言った。
インサイドとインステップがやっとできかけた洋一は、
“個人技って奥が深いんだな。”
とそこにあるボールでアウトサイドのリフティングどころか、アウトサイドではパスも
出せない自分が情けなくなっていた。
“そういえば、練習の時、カルロスも湯来も、藤田や山隅もよくアウトサイドでパスを
していたな。”
と思った。後半が始まって、アウトサイドパスと思ってみると、上手な人はよく使って
いる。下手な人はほとんど使わない。いや使えないのかもしれない。前半より少し見方
が変わって洋一は試合を見ていると、総合力で勝る湖南中学がじわじわと盛り返してく
る。カルロスと湯来にはマークがついてパスを出させないか、出てもすぐに詰められ
る。個人技のうまい2人でも詰められたあともう一人がボールを奪いにくるとどうしよ
うもない。そうして湖南中学が1点を奪った。藤家側の相手のウィングが、藤家と澤近
を抜きボールを上げたのをヘッディングであわせたのだ。あわせたのは3年生の青山で
あった。背の高さが180ほどあった。宮下が言った。
”あれが湖南中学の青山だ。東京、大阪の高校から奨学金出すから来ないかと誘われて
るんだそうな。“
“ふーん。”
どっか別世界の人間がそばでプレーをしているのが不思議であった。
“そのチームに勝ってるんだよ。”
洋一はなんだかわくわくしてきた。
青山を中心に相手のフォワードも強力である。山隅、近藤、宮島も下がってきて防御一
辺倒になる。藤田も下がってきてボールを奪い左ウィングにいる藤家にかろうじてパス
をした。藤家がパスコースを探すが、カルロスも湯来もぴったしとパスコースを防がれ
ている。後40メーター近くゴールまである。藤家は大きく右足を振りきった。ものす
ごいシュートがゴールを襲う。ボールは加速し浮き上がってゴールの上へと突き刺さっ
た。まるで近藤の批判を実力で返したようなシュートであった。そしてしばらくして試
合終了のホイッスルが吹いた。
“3対1で火の国学園の勝ち。”
岩野先生が飛んできて、
"山隅君。誰だねもう一人の秘密兵器は。高校生でも蹴れないキックをするねえ。去年
は見なかったようだが?“
“あ、1年の藤家と言います。サッカーは初心者ですが、練習熱心なので試合に出しま
した。”
”へー初心者。火の国学園は役者ぞろいやなあ。“
と頭を掻きながら自分たちのベンチに帰って行った。
わざわざ来てくれた審判の人にお礼を言って、引き取ってもらい、2軍戦が始まった。
藤田が、
゛俺が主審をしましょうか?“
と言っていくと、湖南中学の3年生の2人は、
゛おうじゃあ頼むばい。“
と言い、線審をしに走って行った。
前半は洋一が見ていたら圧倒的に湖南中学が上であった。点差こそ宮下、横山の必死の
防御で1対0で負けていたが、ほとんどが火の国学園サイドで行われていた。前半が終
わると疲労困憊していた。
“予定どうり後半からチェンジな。粕谷お前はセンターハーフに入れ。”
前半磐田がしていたセンターハーフに入った。磐田が不思議そうに言った。
”洋一。センターハーフはゲームを作る役目があるさかいな。
よくまわりを見るんやでー。“
独特の関西弁で教えてくれる。
“洋一もそんな重要なところの初心者の僕をどうして充てたんだろう?”
と思ったが、一生けん命試合をした。後ろからも周りからもよく怒鳴られたが、とにか
く一生懸命だった。結果的には4対0で負けた。
試合が終わって山隅が、グランドをかたずけて、整理運動をした後、
"去年の2軍戦は7対0で負けたつばい。湖南中学は去年までは県下で1番人気がある
サッカーチームだから。この結果はしょうがなか。2軍と言ってもほとんどが3年だけ
んね。1軍はそこに勝ったつだけん。2軍のもんは1軍に追い付き追い越していくよう
努力してくれ。今年はマリア学院が相当うまかやつらば集めとるごたるけん、我々も月
曜からリフティングを取り入れて個人技と集団の組織のサッカーの融合に努力していく
ように。さあ今日はボールと用具係のものはちゃんと火の国学園の部室まで届けてく
れ、後のものはここで解散にする。では解散。“
そして洋一を呼んで、
”粕谷ちょっとパスばして見ろ。“
と2人残ってサイドパスを始めた。
“パスとパスの間に回りば見る習慣をつけろ。さあやってみろ。
こぎゃんすっとたい。“
と言ってパスを出したあと周りをちらっと見る。2,3回した後、
”周りを見る習慣をつけろよ。じゃあ帰ろうか。“
もうみんな帰ってしまった後だった。
山隅と二人しゃべりながら帰る。
”お前んとこは澪温泉の温泉旅館だってな。“
“はい。”
”あすこはなんだか面白か企画ばしよるごたるね。“
“はあ、あんまり知らんとですけど。父は去年から忙しそうにしています。”
"来週帰るとだろう?帰るとたぶんびっくりすると思うよ。“
"山隅は何を知っているのだろう?“
といぶかしく思った。
"山隅さんは、お医者さんになるとですか?“
“うん。医学部に通ればよかばってんが、難しかけんね。特に国立は。”
“熊大ばねらっとっとですか?”
“うんもしそこまでの成績があったらね。”
"山隅さんはいつも5番以内と聞いとったばってんが、それでも難しかつですか?“
“うーん。2年の近藤知っとるよな。サッカー部の近藤たい。あいつみたいにぶっちぎ
りでいつも1番なら大丈夫かもしれんが、高校で5番以内でも現役では危なかっじゃな
かかな。外部のもんが入ってきて最終的にはそっちが上位になるけんな。”
“近藤さんてそんなにできるんですか?”
”あいつの御父さんは熊大の内科の教授たい。やはり父親譲りの頭があるけんな。俺の
親はしがない開業医だけんね。“
“教授ってえらいんですか?”
“うん。医者になってその教室にはいったら、いちばんえらかつが教授だけんね。”
洋一はいろんな世界があり、自分は何にも知らないんだと思った。
それにしても近藤さんがそんなにできるとは驚いた。そういえば、もらった問題集に
は、難問のとこには紙がはってあって、難問の類題をいくつか書いてあり、さらに一緒
にもらったノートにはどこから調べてきたのか問題集に関する関連知識がずらっと乗っ
ていた。部室でそれを渡されたとき、
”こんなに良く調べたのをほんとにもらっていいんですか?また見返せばいいんじゃな
いですか?“
と聞くと、
"それは全部覚えとるけんよか。重要なのは別にあって、それは誰にもやらんけん。“
とニコニコしていった。
”この学園にはすごい人たちがいっぱいいるんだなあ。“
とつくづく感心する洋一であった。
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澪温泉物語
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