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澪温泉物語


2008.08.12

澪温泉物語               貝原 潤


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火の国学園が湖南中学にサッカーで勝ったというニュースは、瞬く間に熊本中に駆け巡
った。山隅は舎監室のフランシスコ先生に報告に行った。
”ヤマスミクンスゴイネ。コトシハチュウタイレンユウショウカモネ。“
“それが、マリア学院が熊本県中のすごいサッカー選手を集めたんだそうです。去年も
ベストエイトに入っているチームだから、強力な1年が入るとバカになりませんよ。”
”ウチニモスゴイセンシュガ2リハイッタジャナイカ。“
“そこでですね。うちも練習にリフティングを入れたいんですがいいですか?”
”キミタチノクラブダ.スキニシタライイ。デモネヨーロッパノサッカーハレンケイヤ、
ソシキヲイチバンダイジニスル。ソレコソガサッカーダトワタシハオモウガネ。キミガ
キャプテンダオモウヨウニシタライイ。“
”ありがとうございます。“
と言って風呂に行った。風呂では洋一があがるとこだった。
“おお粕谷君。フランシスコ先生がリフティングを練習に入れてよいと言ってくれた
よ。これで大っぴらにリフティングの練習ができるよ。”
と言って風呂に入って行った。ちょうどそのころから舎監のフランシスコ先生の部屋で
は、サッカーの強い市内の中学から練習試合の申し込みの電話がひっきりなしにかかっ
てくる。
”イマキャプテンハフロニイッテイマス。マタアトデカケテクダサイ。“
夕食を食べて山隅が部屋に帰ってきた時、フランシスコ先生が来て、
”山隅クン。キョウハイマカラ舎監室デベンキョウシテクダサイ。レンシュウジアイノ
モウシコミノデンワガヒッキリナシニキテマスカラ。“
"あ、有難うございます。来週の土曜は練習休みにしてさ来週から毎週土曜に練習試合
を入れていこうと思ってたんです。“
そして点呼の時に出てきただけで山隅は舎監室に消えた。
土曜の勉強は9時半から始まる。しかし洋一はいつものように7時から勉強をしてい
る。先週のテストの結果が悔しかったのと、近藤先輩からもらった問題集と、彼のまと
めた知識がすごく面白かったことによる。磐田も藤家も試合に疲れて眠っていた。9時
半には2人とも起こし、1時間の勉強時間である。勉強後、洋一もさすがに眠くてすぐ
に眠りについた。明日は周りを見ながらのパスを練習しようと思っているうちに眠っ
た。やる気があるときは早く目が覚める。洋一は飛び起きてサッカーの練習着を着替え
ていたら、藤家の目覚ましのベルが鳴った。洋一は初めて藤家の目覚ましのベルを聞い
た。その後山隅のベルが鳴る。今まではこの時間は熟睡してベルは聞こえなかった。藤
家が起きて、
“おや洋一珍しいなあ。”
と言った。
゛ああちょっと周りを見るパスと、アウトサイドキックの練習をしなくちゃあと思って
ね。“
“おお、そうやそうや、俺もアウトサイド全然できんけんな。”
グランドに出ると、早くも藤田が来ていた。
“藤田さんアウトサイドキックを教えてください。”
“まずパスはこうだろ。”
パスするとインサイドと同じように洋一の足元にピタッと来た。まねして洋一が右足で
蹴ると、足自体がそんな運動したことないので、ボールは回転して少し進んだだけだ。
藤家もアウトサイドは洋一と似たようなもんだった。
”右も左も同じようにパスできんといかんけんね。“
藤田は左でも見事にボールを蹴る。だが右ほどの力はない。藤家は左は惨憺たるもんだ
った。ボールに当たりもしない。しかし洋一は意外とまともに蹴れた。
藤田が言った。
"粕谷。お前はほんとは左利きじゃなかつか?”
"はい。小学1年の時母に右利きに矯正されたんですが、本当は左利きでした。”
左利きは駄目だとみんなに言われてたので少し恥ずかしそうに言ったのだが、藤田は違
った。
”すばらしい。本当のレフティだ。山隅さんは、君をセンターハーフはどうかとか思っ
ているようだが、左ハーフか、左のウィングまあバックス向きとは思えんが、左のフル
バックでも役に立つよ。とりあえずは、藤家も粕谷も壁でアウトサイドの練習をするん
だね。まだ人にパスするレベルではないから。なーになれたらすぐうまくなるよ。俺は
一人でリフティングをしているから。もうすぐ100回できるようになるからさ。“
藤家も洋一も部室の壁に向かってアウトサイドの練習をした。そうすると30分もする
とかなり慣れてきた。そこで2人でアウトサイドだけのパスをした。まあまあできたの
でインサイドを混ぜてやってみる。しかしほとんど使ったこともない筋肉を使ったので
筋肉がぴくぴくしている。
”僕今日はこの辺でやめる。これ以上したらつりそうだ。“
”やわな体やなあ。鍛え方が足りんぞ。“
と言ってる藤家もよたよたしている。
いつの間にか藤田が後ろに来ていて、
”今まで使わなかった筋肉を使いすぎたからだよ。しばらく足を使わん頭のリフティン
グでもするんだな。アウトサイドは毎日やってるとそのうちうまくなるさ。それより粕
谷。お前左利きに戻せ。飯食う時も字を書くときも左のほうがうまくできるやろ?スト
ライカーとレフティーがそろうなんて鬼に金棒じゃ。“
そう言って、アウトサイドで鋭いシュートを見せてくれていた。
藤家も洋一もやる気は満々なんだが、足がへろへろになっていたので、我慢して、ヘッ
ディングでのリフティングを練習した。それから寮に戻ってシャワーを浴び、食事をし
て、洋一は勉強を始めた。朝9時の点呼の後もずっと勉強している。藤家や磐田はどこ
かに遊びに行っている。洋一は日曜日は一日中勉強をしていた。ものを書くときは左腕
を使った。とにかく意識して左を使って生活した。右手を使うより楽だった。
"お母さんごめんなさい。左のほうがなんだかサッカーの役に立てそうなんです。藤家
はもうレギュラーだし、磐田もかなりうまくレギュラーが近いようです。それに比べて
僕は全然だめです。藤田さんが左利きは何かよさそうなことを言うので、藤田さんはサ
ッカーのことについてはものすごく詳しいので信じられます。勉強は駄目だけど。”
と思いながら、一日中勉強していた。翌日の早朝、藤家も洋一もアウトサイドでパスが
できるくらいになっていた。しかし藤田みたいにアウトサイドのキックでシュートまで
はとてもできない。洋一はリフティングで左足だけで60回以上できる自分にきずい
た。左足のほうが器用に動くことができる。右足ならボールが落ちそうな時もどかしい
感じで取ろうとするのだが、左足だとさっと足が出て跳ね上げるそしてその後も続く。
その後、月曜の早朝練習は左足だけなら100回行った。遅く来た藤田も藤家も、
やっぱりお前は左利きなんだよ。“
と声を合わせて行った。藤家も左利きなら何がいいんだかわからないが、尊敬する藤田
の言うことだ、藤田がいいというものはいいに決まっている。だが洋一は右足だけなら
リフティングが連続して50回もいかない。藤家はもうすぐ両足とも100回近くにな
っている。そこで両足を使ってみた。右で蹴って危なくなると左を使う、そうしてリフ
ティングをするとこれも100回以上できた。膝はもう100回できている。問題はヘ
ッディングと新しく出てきたアウトサイドのリフティングだ。洋一は右側のアウトサイ
ドはまだまったく自由が利かない。左だけは少し自由になる。藤家は右も左もまるで自
由が利かないようだった。それでも熱心にやっていると少しずつうまくなっていく。全
くできなかったので2人とも進歩が速い。授業が終わり、夕方の練習で皆がリフティン
グの練習をしている時、藤家も洋一も目だってうまい。その当時、1962年は、東京
オリンピックの1年前で、クラマーさんがドイツからリフティングの技術を日本のオリ
ンピックチームに持ってきて、最初はみんな全然だめだった。器用な小城でさえ相当苦
労したと聞いている。同時期にブラジル人の留学生を迎えて教えてもらった火の国学園
のみなの苦労もわかることだろう。山隅でさえ苦労している。涼しい顔して100回以
上しているのはカルロス、湯来、藤田ぐらいで、藤家、洋一がそれに続く。他のみんな
はサッカーはかなりうまいにもかかわらず、リフティングは初めての経験である。相当
苦労している。山隅はかなり時間をとるのに気ずいて、
”これから月曜だけリフティングの練習を1時間だけする。後は各々個人で練習するよ
うに。できれば1カ月後はインサイド、アウトサイド、膝、頭で100回ずつできるよ
うに個人的に練習するように。“
と言うと、カルロスが、
“カタモデキルヨウニスルトベンリネ。”
と言ったので、
“肩はハンドになるのじゃないか?”
と近藤が言うと、
"ブラジルではならないね。ヨーロッパではハンドにするレフリーがまだいるみたいだけ
ど、そのうち認められると思うよ。脇だけはつけていればいいんだよ。“
と湯来が言う。山隅は、
”肩はまだいい。日本の審判にはまだわからないだろう。日本で一般的になってから練習すればいい。“
藤家と洋一は顔を見合わせた。
"我々は朝練習しよう。”
と言うサインだ。藤田も気ずいたようだ。もうすぐ2人とも100回以上リフティング
ができるようになる。そうすればブラジル人から直接教えてもらえるんだ。うまくなら
ない訳がない。
練習の最後に、
“今週の土曜日は寮生が帰宅するために練習を休む。それから毎土曜日は2ケ月間練習
試合がぎっしり詰まってるから、家の人にはそう言っとくように。つまり2ケ月は土曜
日帰れないということだ。2軍戦もしてみな出すようにするから、そのように伝えてく
れ。それからフランシスコ先生から話がある。“
独特の抑揚のある言葉でフランシスコ先生が話す。
”コノ2シュウカンレンシュウミマシタ。ソシテシュンパツリョクガアル人ミツケタ
ネ。
ソレハ境デス。サカイクンキミキーパースルネ。“
フランシスコ先生は最もキーパーに重みを置いている。キーパーさえよければかなりの
試合が勝てると思っている一人でもある。境は、
"俺、もともとはフォワードだったばってんが、こないだフルバックばさせられた。フル
バックならサッカーやめようと思とったばってんが、キーパーの素質があるてフランシ
スコ先生が言われるとなら、俺はしてもよか。“
と言うように1年生のキーパーが決まった。
”南。お前抜かれんようにせんとなあ。“
近藤が同級生を冷やかす。
“それではキーパだけフランシスコ先生が鍛えてくださるそうだから、キーパーを残し
て解散。”
山隅の解散を聞いて、部室に帰り始めたのはブラジル人だけだった。みな残って練習し
ている。藤家、洋一はアウトサイドの反覆練習をした。
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  澪温泉物語
    発行システム:『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/ 
    配信中止はこちら http://www.mag2.com/m/0000263881.html 
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